『こち亀』200巻終了は2年前からささやかれていた。突然じゃなかった
「長い間ご愛読いただきありがとうございました。両津勘吉巡査は派出所を去り、旅立ちました」「また会う日までさようなら」
あまりにも有名な、こち亀“最終回ドッキリ”ネタである69巻「両さんメモリアル」での一節。これがドッキリではなく、現実になる日がとうとうやってきた。
1976年から40年にわたって「週刊少年ジャンプ」で連載を続けてきた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が、今月17日に発売される最新号をもって連載を終えることが発表された。NHKまでもがニュースで取り上げ、葛飾区長がコメントを発表する、まさに国民的事件だ。
単行本も連載終了と同じ日に最終話を収めた最新200巻(通常版・特装版)を同時発売。まさに、9月17日が「こち亀最後の日」というわけだ。
作者の秋本治は、「びっくりさせて申し訳ないです。200巻は作家にとって勲章みたいなもの。両さんの引き際としては、200冊残して40周年で祝ってもらってスッと消えるのがやっぱり一番良い大団円の場かなと思い、それで決めました」といった主旨のコメントを発表している。
「びっくりさせて申し訳ない」という言葉通り、まさに突然の発表だった。ましてや今年は40周年のメモリヤルイヤー。ジャンプの背表紙には毎週両さんが登場するなど、年始からさまざまな記念企画が目白押し。浅草花やしきとのコラボ企画「浅草亀やしき」は先週終わったばかりだし、ラ・サール石井による記念舞台も、日本橋高島屋で開催する「こち亀展」もこれからスタートする状況だ。
これほどの猛プッシュで突き進んできた40周年。決して不人気になったからではなく、作者の意向にそっての連載終了、と考えるのが筋だろう。その潔さに驚かされる一方で、「200巻でこち亀終わるんじゃないか?」説は、一部では随分前からささやかれていた。そのヒントはコミックスにあった。
『こち亀』のコミックスに異変が起きたのは2014年8月発売の191巻でのこと。
1巻〜190巻まで、こち亀コミックスに収録される本数は基本的に「9本」。多くても「10本」だった。ところが、191巻から突然、「14本」に大増量。価格も190巻は400円(+税)だったが、191巻では500円(+税)と改訂された。
この変更に関して、秋本は「1.5倍の大ボリューム。価格も変わりましたが、DX版(ニュータイプ)として読んでいただければ嬉しいです」と作者コメントで記していた。
だが、『こち亀』ほどの人気作が、値上げを含んでいるとしても1巻あたりの収録数をここまで増量するのは極めて異例だ。むしろ、あり得ない、と考えた方がいい。
同じジャンプ連載中の『ONE PIECE』では、かつて掲載本数に関して、作者の尾田栄一郎がこんなコメントを残していた。
《今回、巻末少ないのは、無茶な12話掲載にしてもらったからです。集英社から今後はもう二度とないと思えと怒られました。でも・・・690話まで、読んでほしかったんだよ・・・。もっとまとめる力をみがきます》(『ONE PIECE 69巻』より)
『ONE PIECE』ほどの功労作品ですら、1巻あたりの話数を増やすのは一大事なのだ(部数がけた外れに多い『ONE PIECE』だからこそ、ともいえるが)。そりゃ、出版社にしてみれば、1巻あたりの収録本数をできるだけ少なくして巻数を増やし、売上げも増やしたいと考えるのが当たり前。実際、長寿連載になるほど、以前のコミックスに比べてだいぶ薄くなったなぁという作品も(何とはいわないが)少なくない。
そんな版元の意向に反するかのように、こち亀1巻あたりの本数は191巻以降、どんどん増えていった。
191巻〜193巻は14本。
194巻は15本。
196巻〜199巻は17本。
しかも191巻以降、値段は据え置きだ。
このあまりに不自然なコミックスの収録方法に、200巻で何かあるのではないか?とファンの間でささやかれるようになったのだ。
それほど、「40周年&200巻で終わりたい」というのが作者の強い意思であり、集英社もそれを汲んで、この2年間準備を進めてきた、と考えられるのではないだろうか。
『がきデカ』で知られる人気漫画家・山上たつひこをもじった「山止たつひこ」のペンネームでスタートした『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。それは、編集サイドも秋本本人も、この作品がここまで人気となり、長寿連載になるとは思っていなかったからだった。
それどころか、アイデアの出発点では、主人公の予定は中川圭一の方でストーリーもニューヨーク・ポリスもの。ところが、アイデアに煮詰まり、脇役で考えていた日系ポリスマンを動かしてみたところ筆が進み、それが後に両津勘吉になった、というのはファンの間では有名なエピソードだ。
偶然から生まれた作品が国民的人気漫画になった、というのもすごい話。だが、それを40年間一度も休まず続けてきた、という秋本の胆力、そして常に新しいものを取り込んできた好奇心こそ、もっとも賞賛すべきことなのかもしれない。
だからこそ、『こち亀』という枷が外れたあと、秋本治がどんな作品を発表してくれるのかにも注目したほうがいいはずだ。
また、連載は終わるものの、『こち亀』も今後一切描かない、ということではないという。秋本は次のコメントも残している。
「『こち亀』のネタはまだまだ沢山あります。でもやっぱり両さんはこれで一区切りつけて、機会があれば時々遊びにいくぐらいはいいかなと思ってます」
なお9月4日現在、期間限定で『こち亀』1巻、10巻、20巻、30巻、40巻、50巻、60巻、70巻、80巻、90巻、100巻、110巻、120巻のKindle版が無料だ。これを機会にいま一度読み直し、時代を懐かしんでみるのもオススメしたい。
(オグマナオト)
あまりにも有名な、こち亀“最終回ドッキリ”ネタである69巻「両さんメモリアル」での一節。これがドッキリではなく、現実になる日がとうとうやってきた。
1976年から40年にわたって「週刊少年ジャンプ」で連載を続けてきた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が、今月17日に発売される最新号をもって連載を終えることが発表された。NHKまでもがニュースで取り上げ、葛飾区長がコメントを発表する、まさに国民的事件だ。
200冊残して40周年で祝ってもらってスッと消える
作者の秋本治は、「びっくりさせて申し訳ないです。200巻は作家にとって勲章みたいなもの。両さんの引き際としては、200冊残して40周年で祝ってもらってスッと消えるのがやっぱり一番良い大団円の場かなと思い、それで決めました」といった主旨のコメントを発表している。
「びっくりさせて申し訳ない」という言葉通り、まさに突然の発表だった。ましてや今年は40周年のメモリヤルイヤー。ジャンプの背表紙には毎週両さんが登場するなど、年始からさまざまな記念企画が目白押し。浅草花やしきとのコラボ企画「浅草亀やしき」は先週終わったばかりだし、ラ・サール石井による記念舞台も、日本橋高島屋で開催する「こち亀展」もこれからスタートする状況だ。
これほどの猛プッシュで突き進んできた40周年。決して不人気になったからではなく、作者の意向にそっての連載終了、と考えるのが筋だろう。その潔さに驚かされる一方で、「200巻でこち亀終わるんじゃないか?」説は、一部では随分前からささやかれていた。そのヒントはコミックスにあった。
200巻終了は2年前から準備されていた!?
『こち亀』のコミックスに異変が起きたのは2014年8月発売の191巻でのこと。
1巻〜190巻まで、こち亀コミックスに収録される本数は基本的に「9本」。多くても「10本」だった。ところが、191巻から突然、「14本」に大増量。価格も190巻は400円(+税)だったが、191巻では500円(+税)と改訂された。
この変更に関して、秋本は「1.5倍の大ボリューム。価格も変わりましたが、DX版(ニュータイプ)として読んでいただければ嬉しいです」と作者コメントで記していた。
だが、『こち亀』ほどの人気作が、値上げを含んでいるとしても1巻あたりの収録数をここまで増量するのは極めて異例だ。むしろ、あり得ない、と考えた方がいい。
同じジャンプ連載中の『ONE PIECE』では、かつて掲載本数に関して、作者の尾田栄一郎がこんなコメントを残していた。
《今回、巻末少ないのは、無茶な12話掲載にしてもらったからです。集英社から今後はもう二度とないと思えと怒られました。でも・・・690話まで、読んでほしかったんだよ・・・。もっとまとめる力をみがきます》(『ONE PIECE 69巻』より)
『ONE PIECE』ほどの功労作品ですら、1巻あたりの話数を増やすのは一大事なのだ(部数がけた外れに多い『ONE PIECE』だからこそ、ともいえるが)。そりゃ、出版社にしてみれば、1巻あたりの収録本数をできるだけ少なくして巻数を増やし、売上げも増やしたいと考えるのが当たり前。実際、長寿連載になるほど、以前のコミックスに比べてだいぶ薄くなったなぁという作品も(何とはいわないが)少なくない。
そんな版元の意向に反するかのように、こち亀1巻あたりの本数は191巻以降、どんどん増えていった。
191巻〜193巻は14本。
194巻は15本。
196巻〜199巻は17本。
しかも191巻以降、値段は据え置きだ。
このあまりに不自然なコミックスの収録方法に、200巻で何かあるのではないか?とファンの間でささやかれるようになったのだ。
それほど、「40周年&200巻で終わりたい」というのが作者の強い意思であり、集英社もそれを汲んで、この2年間準備を進めてきた、と考えられるのではないだろうか。
偶然から生まれた作品が国民的人気漫画へ
『がきデカ』で知られる人気漫画家・山上たつひこをもじった「山止たつひこ」のペンネームでスタートした『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。それは、編集サイドも秋本本人も、この作品がここまで人気となり、長寿連載になるとは思っていなかったからだった。
それどころか、アイデアの出発点では、主人公の予定は中川圭一の方でストーリーもニューヨーク・ポリスもの。ところが、アイデアに煮詰まり、脇役で考えていた日系ポリスマンを動かしてみたところ筆が進み、それが後に両津勘吉になった、というのはファンの間では有名なエピソードだ。
偶然から生まれた作品が国民的人気漫画になった、というのもすごい話。だが、それを40年間一度も休まず続けてきた、という秋本の胆力、そして常に新しいものを取り込んできた好奇心こそ、もっとも賞賛すべきことなのかもしれない。
だからこそ、『こち亀』という枷が外れたあと、秋本治がどんな作品を発表してくれるのかにも注目したほうがいいはずだ。
また、連載は終わるものの、『こち亀』も今後一切描かない、ということではないという。秋本は次のコメントも残している。
「『こち亀』のネタはまだまだ沢山あります。でもやっぱり両さんはこれで一区切りつけて、機会があれば時々遊びにいくぐらいはいいかなと思ってます」
なお9月4日現在、期間限定で『こち亀』1巻、10巻、20巻、30巻、40巻、50巻、60巻、70巻、80巻、90巻、100巻、110巻、120巻のKindle版が無料だ。これを機会にいま一度読み直し、時代を懐かしんでみるのもオススメしたい。
(オグマナオト)