『精選女性随筆集中里恒子野上彌生子』(中里 恒子野上 彌生子小池 真理子選) 九十九歳十一ヶ月でこの世を去った野上彌生子(一八八五~一九八五)は、日本近代文学史上、稀にみる長命の女性作家である。ただ長く生きただけではない。近代から現代という激動の世において、周囲に流されることなく、文学者としての正統を保ち続けた希有(けう)な作家であった。 師匠は、文豪・夏目漱石。夫は能研究の権威、野