高層ビルが立ち並ぶ南京の街並み(写真/alexrudd)

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 こんにちは。中国人漫画家の孫向文です。

 古来より中国という国ほど、迷信を深く信じていた国はありませんでした。そのひとつが、仙人となって不老不死を目指す道教、並びに道教を元に発展した風水です。

 三国志の諸葛孔明は、「赤壁の戦い」で自然を味方につけ、たったの20雙の船で何千雙もの曹操側の軍船を打ち破りました。その策略の根底にあったのが、風水の知識です。

 毛沢東時代、道教をはじめとする宗教や迷信は徹底的に禁じられ、文化大革命の折には、教会や寺院などの宗教的な施設が破壊されました。ですが、こうしたお上の弾圧がありながらも、民間では今もなお、風水の教えなどが根付いています。

 例えば、家を建てる際には、どういう向きで建設すればいいのか、入り口に何を置けばいいのかといったことは、中国人であれば普通に気にします。また、大規模なビルや施設を建築する際は、風水師を雇うのも一般的。

 面白い例ですと、上海で最も高いビジネスビル「環球金融中心(通称「軍刀楼」)」は、日本人がデザインしたもので、日本刀や日の丸の形がモチーフとなっています。そのため、このビルは反日の中国人の評判が著しく悪いのですが、風水的には「覇者の気」を意味しており、商売繁盛の願いが込められているのです。

 中国の商売人は、それが商売繁盛にご利益があると思えば、反日のことなどは気にしないですし、とことん風水に拘るのです。

南京に根付いている都市伝説とは?

 以前、南京に住んでいる知り合いからこういう話を教えてもらったことがあります。

「中国では建物を作る際、土台を作るために、地下を掘って、もしもそこから骸骨が出てきたら将来、この建物でも死者がたくさん出るって言われているんだ。だから、南京にはろくに高い建物がないんだよ」

 高い建物を建てる際は、杭打ちの際にそれだけ深く地面を掘らなければなりません。かつて南京大虐殺が起こったこの地においては、深く掘ったら死者がたくさん出てくるというのが、彼の言い分でした。

 僕はそれまでこういう話を聞いたことがなかったのですが、おそらく、これは風水の類でしょう。では、この話には信憑性はあるのでしょうか。

 広東省広州市のデパート「荔湾広場」では、建物の中抜けとなっている庭に飛び降りて自殺する人が相次いで現れました。実はこの建物を建築する際、8つの棺桶が掘り出されたと言われています。中には身元不明の死体が入っていました。

 そのときは、除霊師が呼び出され、棺桶の蓋に呪符を貼り付け、除霊するという手段が講じられましたが、にもかかわらず死者が出たことを見れば、この風水の法則を打ち消すことはできなかったようです。

 では、南京は今もなお、この風水の呪縛にとらわれ続けているのでしょうか。実は今回の執筆の最中、南京の写真を見てみると、普通に高い建物が建築されていることに気づきました。

 僕が南京在住の知り合いから話を聞いたのは、20年近くも前。あれから時代は移り変わり、南京の都市開発も進んでいったのでしょう。

 もっとも、だとすれば、南京では、建築の際に無数の死者が掘り出されたはずだから、不可解な集団自殺やら殺人事件やらがたくさん起こっていたとしても不思議ではありません。ですが、僕は、そういう話を聞いたことがありません。ということは、この風水はデマだったのでしょうか?

 いや、別の推測もできます。それは、南京大虐殺自体、本来は中国側が主張する30万人もの死者が出ていなかったのではないかと。それならば、これだけ高い建物を建てても死者が出なかったことの説明にはなりますが、真相は謎です。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/杉沢樹)