献身的なプレーが目立ち無得点に終わった本田。青山と川又のゴール後には対照的な表情を浮かべた。 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 3月31日のウズベキスタン戦で、本田圭佑が彼らしいとも言える「二面性」を垣間見せた。その対照的な表情から、日本代表がひとつの大きな岐路に立っていることを印象付けた。

2015.3.31国際親善試合|日本 5 -1 ウズベキスタン

 開始6分、青山敏弘がボールを正確にミートし、スーパーミドルを叩き込み先制点を奪った場面。長谷部誠の欠場により久々にキャプテンマークを巻いた本田は率先し、ピッチ上の選手たちを手招きしてベンチ前に呼び寄せ、歓喜の輪を作る。彼も小さくジャンプしながら青山の頭を「よくやったぞ」とばかりに叩いて、満面の笑みを浮かべた。

 一方、試合終了間際の90分、CKの流れから川又堅碁がこぼれ球を強引にヘッドで捻じ込み、チーム5点目を決めた場面。ガッツポーズを作ってベンチに駆け寄る川又を、控え選手たち(とくにJリーグ組)が同じように両腕を挙げて出迎える。

 すでに大迫勇也と交代していた本田は、コーチングエリアに立つ監督から一番遠く離れたベンチの端に座っていた。少し間を置いて立ち上がった彼はひとり、ベンチの選手が向いているのとは逆方向にあるゴール裏の電光掲示板に映る川又のゴールシーンのリプレーにじっと見入っていたのだ。

 その後、輪に加わったもののそこまで喜んだ表情を浮かべなかったことが、むしろ周りとは対照的で、目立ってしまっていた。

 5-1とトドメを刺す1点。すでに戦意喪失した相手からのゴールであり、そこまで喜ぶ必要などない、ということだったのかもしれない。一方で、本田自身はこの試合ノーゴールに終わっていただけに、いずれはライバルにもなり得るアタッカーの得点に、少なからずジェラシーや悔しさといった感情を抱いたのかもしれない。

 とはいえ、川又にとっては記念すべき代表初ゴールだったのだから、やや大人気なかったようにも映る。言い変えると、心情を決して隠せない、本田がこれまで常に持ち続けてきた、少年のような一面を覗かせた一瞬だったと言えた(それが「リトルホンダ」なのかもしれない?)。

 また、悔しさは試合後のコメントにも、うっすらと滲んでいた。

「勝利という結果を残せて、嬉しく思う。5-1という結果について、そこまでポジティブな意見は必要ないかな。でも、1失点したところ。あの時間帯に失点したところこそ課題にしないと」

 日本が3-0でリードして迎えた82分、ウズベキスタンにCKのこぼれ球をねじ込まれ、この日唯一の失点を喫した。
 すでに本田はベンチに退いていた。そして、その失点の引き金になっていたのが、その後代表初ゴールを決めることになる宇佐美の軽率な守備にあった(球際に寄せ切れず、シュートを打たせた)。アタッカーであっても、勝負どころの守備は重要。失点に絡むようではいけない、と婉曲に宇佐美にアドバイスを送っているようでもあった。

 この日の本田はパッとしなかった。序盤は岡崎、香川、乾と連動した高速プレスを発動させ、ハリルホジッチ監督の意図を体現。だが、青山の得点が決まった後、チーム全体の運動量が次第に低下する。やがて劣勢に立たされると、本田も我慢のプレーを続けざるを得なくなる。周りとバランスを取りながら、最低限ミスをせず、ボールをサイドや前方へ散らしていく。37分には、相手を嘲笑うかのような本田のサイドチェンジから、香川、乾とつないでビッグチャンスも生まれた。

 また、交代間際には、本田らしい「スタイル変化」を見せた。

 61分、本田がチャンスを作るべきところでパスをミスし、ボールが相手に渡ってしまったのだ。そのあと日本がボールを取り戻してことなきを得たものの、危うく致命傷になりかねない“してはいけないプレー”だった。

 するとその後、彼はそのミスを挽回すべく、「バランス」から「攻撃的」にギアを上げる。

 それまで本田は右サイドでウズベキスタンの選手のマークを確実に遂行しつつ、攻撃の起点になっていた。が、ミスを犯してからは相手の嫌がる、中央のスペースに出て行くシーンが増加。

 62分、ゴール前へ走り抜けた本田が、完全にフリーになる。その本田の動きを察知した香川が鋭い縦パスを繰り出した、が、相手にカットされてしまい、あと一歩で決定機には至らず……。

 本田は悔しがり、天を仰いだ。

 その後も本田は、再三に渡ってゴール前へ顔を出した。しかしゴールを攻略できないまま、72分、ベンチへ退くことに……。大量5点が決まりながら、そのうち一度も背番号4が得点に絡んでいないというのも、最近では珍しいことだった。

 それでも本田自身にとっては、

「このサッカーでなにが必要かは明確になった。トライしていく楽しみがある。新鮮な気持ちがする」

と、この2試合で多くの収穫を得た様子だった。
 ハリルホジッチ監督が目指す、縦に速い攻撃的なスタイル。それは単純に、「高速化」が求められているだけではない。

「あれで(速いスピードのなかで)プレーの精度を上げないといけない。最高のスピードを求めてやっている。だから、やっていて楽しい」

 高速かつ高精度――。本田は例として、ブラジル代表を挙げた。

「早いプレーのなかで、インテンシティが高いうえに、精度が高い。しかも連動していける」
 
 スピードを落とした“自分たちのリズム”であれば、それなりにパスはつながる。しかし、目指すべきは、最大値のスピードのなかで、完璧な精度のプレーをすること。そのためには、技術や判断力はもちろん、周囲との呼吸も重要になる。様々な要素が求められるからこそ、やり甲斐を感じていたのだ。

 そのためには、これまで成功だったと思ってきたことを捨てる覚悟もあると、本田は断言する。そういった否定と肯定の繰り返し、自問自答の繰り返しで、過去を打ち砕き、新たな本田像を作ってきた(もちろん確固たる土台はあるが)。彼は強調する。

「すべてを取りに行くことはできない。否定から入っていくことを、僕は怖れてはいない」

「前線の競争はさらに厳しくなっていく」ことは、本田も自覚している。もちろん、「世代交代」を期待している声が少なくないことも承知している。とはいえ、常にエースに君臨し、欧州のトップレベルで戦ってきたというプライドがあり、「年齢」という条件だけでポジションを譲る気など毛頭ない。

 むしろ「世代交代」の声が強まれば強まるほど、本田を支えてきた“負けん気”を一段と刺激することになる。彼はそうやって劣勢や逆境を乗り越え、逞しさを増してきたのだ。

 同じ86年生まれ(学年は青山がひとつ上)である青山の得点時に見せた無邪気な笑顔と、下の世代で頭角を現わしてきた川又の得点時に見せた悔しさの入り混じった表情――。

 本田を中心とする世代がこれからも中心を担っていくのか、それとも新たな世代が主役となっていくのか。少しずつ新世代の台頭が進んできているのは確かだが、主役の座は、そう簡単には渡さない。むしろ、「ちょっとずつ階段を昇っていきたい」と、新たなる高みを目指している。そんな本田の意地が、日本代表の底上げに欠かせないのは確かだ。