不可解な落札結果となった

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 高度経済成長期の1955年、都市圏の住宅供給のために設立された日本住宅公団は、その後、役割を終えてニュータウン事業から撤退、2004年からは都市再生を担うUR(都市再生機構)として再出発した。

 しかし、一度失われた存在意義を取り戻すことは難しく、民主党政権下では「事業仕分け」の対象になったし、2012年9月、政府の行政改革実行本部が発表した「組織見直しの為の報告書」では、

分かりにくい組織目的脆弱な財務構造不十分なガバナンス

 の3つが指摘されている。

 そのURの問題が露骨に表出した入札が、3月9日の開札で行われ、その結果に不動産業界関係者が唖然とした。東京都北区の土地約2万4000平方メートルを譲渡するもので、価格点を50、企画点を50とする総合評価方式で行われた。

満点近い企画点をとった大和ハウス

 URが発表した結果は冒頭にある写真の通り。

 URの募集要項によれば、価格点の計算式は、50点(満点)×入札額÷最高入札額である。ということは、「補欠1位」の業者の入札金額が60億円であることは、容易に計算できる。

 つまり大和ハウスJVは、約21億円の価格差を跳ね返した。それは企画点が満点に近い47.2だったからだが、業界関係者は一様に首をひねる。

「総合評価方式の場合、募集要項の段階で、発注サイドがどんな狙いを持っているかが大体分かる。だから、実力差がない限り、それほどの差は出ない。30点近くも企画点が違うなんて。よほど低レベルの会社だったとしか考えられない」(業界関係者)

「URは最初から大和に落札させたかったのでは」

 しかし、低レベルではない。東証一部に上場する大手鉄鋼会社の不動産子会社。しかも、企画点の内訳は、

汚染土壌対策25点地域への貢献15点事業推進体制10点

 となっていたが、汚染土壌については、ここがダイオキシンに汚染された土壌であることは、十分に説明されているのだから、「補欠1位」の業者も慎重に企画していた。地域への貢献と事業推進体制は、本来、点差がそれほど開くものではない。

 とすれば、考えられるのは、

「URは最初から大和ハウスJVに落とさせたかったのではないか」という疑惑である。

 私は、「価格差21億円を跳ね返した謎」を、URに質した。が、回答は、「入札参加者に対し、当機構より予め『事業企画提案書の評価、価格の評価並びに開札結果に対する問い合わせ及び異議には一切応じられない』と、周知させていただいているところ、入札参加者以外の方々に対しても、同様の取扱いとさせていただいております」(東日本都市再生本部)

 というものだった。

 要は、経緯は公表しないし、クレームも受け付けない。行政改革実行本部が指摘した通りだ。

 なぜ13兆円もの有利子負債を抱えて財務状況は脆弱なのに、公団感覚のまま利益を度外視したような業者選定を行ったのか。また、開示が不十分なのはガバナンスが機能していないためではないか。さらに、組織目的がはっきりしないから不可解な土地譲渡を行って平気なのではないか。

 URという組織の在り方を再考した方がいい。

伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある