消費者の「買いたい」欲を生む日常の様々な装置

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 テレビCMや番組を見て「これ欲しい!」と思い、その商品を買ったという経験をしたことがある人は多いはず。しかし、後から考えれば必要のないモノを買ってしまったということも「あるある」だ。
 この「ついつい欲しくなってしまう」「消費者が財布のひもを緩めてしまう」背景には、脳科学などの科学的な研究に基づいた企業戦略があるのだ。

 本書『買いたがる脳』(デイビッド・ルイス/著、武田玲子/翻訳、日本実業出版社/刊)は、脳についての研究がどれくらい進んでいるかを紹介するとともに、神経経済学や行動経済学、消費者心理学の研究成果について解説する一冊。そして、それらが広告やマーケティング、販売に活かされ、強力な「脳への売り込み」になっている状況を説明する。著者のルイス氏は「買い物をする脳」の分析に神経科学を応用あいたパイオニア的存在の研究者だ。

 インターネットやオンライン・ショッピングが登場するまで、テレビによる販売スピードと販売効率は何よりも優れていたという。
 テレビは、広告やプロダクト・プレイスメント(番組中に商品やサービスを登場させて消費者に認知させる手法)によって特定の商品の販売に寄与するだけでなく、著名人が特定のブランドを使っている様子を放映したりもする。
 番組内で“裕福な消費者”が繰り返し放送されると、テレビを見ている消費者は誰もが裕福な生活ができるになると思ってしまうとルイス氏は指摘する。そして、それは2歳前後の、テレビのリモコンを操作するようになった年齢から、頭に植え付けられていくのだ。
 一方で、広告やテレビ番組のなかには、意図的に視聴者が登場人物に対して劣等感を抱いたり、ほかの商品や人物に欠点があるように思わせたりするのも多い。テレビによって作り上げる不安感や自信の喪失を利用して、「攻撃と救助」という販売テクニックが用いられて、消費者に辛さを感じさせてから商品購入による救いの手を差し伸べるのだ。
 インターネットはこれだけ普及しても、テレビの影響力はまだまだ大きい。だからこそルイス氏の指摘を知っておくべきなのではないだろうか。

 また、テレビだけではない。街を歩いていると、私たち消費者に「買わせよう」とする仕組みが至る所にある。店舗内の照明やBGMもそうだ。そして、「あ、いいな」と思って購入しまう…。物を買わせる「雰囲気」がそこかしこにあるのだ。それらもこの本でカバーしている。
 本書のルイス氏の指摘は、振り返ってみると「ああ、そういえば」と思い起こされることが多いだろう。そんなところに注目してみると、のせられるだけでなく、しっかりと見極めて後悔のない買い物ができるはずだ。
(新刊JP編集部)