「幸福かどうかは人間関係で決まる」 親子関係の本質を突く絵本
親と子の関係のあり方が大きく変わっているといわれている昨今、親子間で起こる悲惨な事件は、後を絶ちません。どうしてそうなってしまっているのでしょうか。
その答えの一つが『個性心理學から生まれた絵本「杉の木の両親と松の木の子ども」[七田式]』(しちだ・教育研究所/刊)という絵本に書かれています。作者の弦本將裕さんは個性心理學研究所の所長で、大ブームとなった『動物キャラナビ』の著書などで知られている方です。
そんな弦本さんが講演会で毎回最後に話すのが「杉の木の両親と松の木の子ども」という物語。杉の木の両親の間に松の木の子どもが生まれ、自分の思い通りに育ってくれない子どもに悩む親と、親から愛されずに苦しむ子どもの関係が描かれています。
その衝撃的な結末は心を打たれますし、どうしてこの親子はこのような道を歩まなければいけなかったのか、誰しもが考えるはず。今回はその絵本について弦本さんにお話をうかがいました。その後編です。
(新刊JP編集部/金井元貴)
■「人が幸福かどうかは人間関係で決まる」
――どうして親たちは、子どもを無条件で信じられなくなっているのでしょうか。
弦本:これは、大人の社会が愛欠乏症に陥ってしまっているからです。愛が満たされている人は、すべてに余裕があります。夫婦間で会話がないとか、3年間もエッチをしていないというような関係を続けていると、余裕はなくなっていきます。すると、子どもすら認められなくなってしまう。
――しかも、子どもは弱い立場にありますよね。
弦本:そうなんです。ただ、それをずっと放置していると決壊したダムのようになってしまいます。
――この『杉の木の両親と松の木の子ども』を作ったのは、いつ頃のことなのですか?
弦本:個性心理學研究所を立ち上げた1997年頃ですね。それから、講演会の最後に必ずこの話をさせていただいています。
――会場からの反応はいかがですか?
弦本:お母さん方は涙して聞かれていて、もっとこの話を早く聞きたかったという声が多いです。アンケートでは「一番感動したのはこの物語だった」と書かれることが多くて、それまでの90分の講演はなんだったのだろうと(苦笑)でも、それぞれのご家庭でも、切実な問題になっているのだと思います。
――この絵本では、絵本作家のつがねちかこさんが挿絵を描かれていらっしゃいます。弦本さんはこの挿絵についてはいかがですか?
弦本:いろんな人から、少し「怖い」という感想をもらいましたが、僕はこのくらいインパクトがあった方がいいと思います。表紙の松の木のイラストなど見ると、何だかいま「ゆるキャラ」として人気者になっている「ふなっしー」みたいで、なかなか可愛いでしょう(笑)? 何度も読み返してみると、この挿絵の素晴らしさがわかると思いますね。
―― 一度読み終わったあとにまた挿絵を見ると、最初とは少し違ったイメージがわいてきますね。
弦本:子どもが愛おしく見えますよね。それに、親も苦悩していることが分かります。親は杉の木なのだから、松の木の子どもの気持ちが分からないのも当然なんですよ。親も解決策がほしいんです。
実は、紀元前の中国春秋時代に生きた孔子の言行録である「論語」にも、同様のことが書かれています。この話も個性心理學の講義でよく話をするのですが、孔子は「和・礼・道・仁・楽」の5つの教えを説いていますが、これを分析してみるととても面白いのです。最初の「和」という教えで、孔子はこう言っています。「人が幸福であるかどうかは、全て対人関係で決まる。親子・兄弟・友人・恋人・夫婦。今、全ての人間関係が、子どもの社会まで腐敗してしまっている」と。これは永遠のテーマなんですね。
一番せつないのは、親子という最も身近な人間関係の破たんです。だからそのことに気づいてほしいややインパクトのあるイラストを挿絵にして、ハッピーエンドで終わらないようにしました。
――今回、この物語を「絵本」という形で出版したのはどうしてですか?
弦本:私自身46冊目の本になりますが、「絵本」は初めてです。私の本の読者層は結構幅広いのですが、今回は、さらにこれまでと違った層の方々にも読んでもらいたいと思って絵本にしたのです。さきほど申し上げたように、実際、私の講演会などでいつも最後にこの物語を私からのプレゼントとしてお話しさせて頂いておりますが、こんな絵本があったらいいのにというお母さん方からの声も沢山頂きました。そこで、今回、賛同頂いた七田厚先生とのコラボとして、この絵本が誕生したのです。
――では、この絵本をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
弦本:童話「みにくいアヒルの子」みたいに、世界中の人に読んでほしいですね。付録としてアニメーションを収録したDVDがつくのですが、その中にイングリッシュバージョンをつけたり、英語の対訳をつけたりしたのは、親子の関係は国を越えた共通の悩みではないかと思ったからです。
このDVDをどんどん幼稚園や保育園などで流して、親御さんにも見てほしいし、子どもと一緒に絵本を読んでほしい。DVDをつけたのは僕の強い要望です。
また、朗読については、女優の白石まるみさんが心よく引き受けてくださいました。彼女は、個性心理學を学んで認定講師・認定カウンセラーの資格も取っていますし、NHKの初代「ニャンちゅう」のお姉さんでもありますから、この役にはうってつけだと思います。これからは、全国の保育園や幼稚園でも読み聞かせなどで回っていきたいと思っています。
――確かに親御さんにも読んでほしい絵本です。
弦本:これは大人が読む「絵本」なんですよ。子育て中の全てのお母さんやお父さん方に読んでもらいたいですし、かつて子育てをした経験のある方にも是非読んで欲しいと思います。そうすることで、親子の確執が消えるのです。
学校の先生や教育現場に携わる全ての方にも、そして、行政や政治家のみなさんにも読んでもらいたいですね。
――では、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
弦本:大人が読む「絵本」として出版しましたが、ぜひお子さまにも読み聞かせて頂いて、親子で話し合うきっかけにしてもらいたいと思います。個性の違いを明らかに認めることで、親子関係は驚くほど良くなるでしょう。
子育ても、何倍も楽しくなると思います。子どもには「取り扱い説明書」など付いていません。といって、試行錯誤する必要もないのです。温かく見守り、愛してあげてください。
子育てを私はこう解釈しています。「育てる」のではなく「素」を立ててあげると。
子どもの「素」がわからないと立ててあげられないのです。親という字も、木を立てて見せてあげると書きますよね。
みなさまの子育てが、今日から楽しくキラキラと輝くことを願っております。
(了)
その答えの一つが『個性心理學から生まれた絵本「杉の木の両親と松の木の子ども」[七田式]』(しちだ・教育研究所/刊)という絵本に書かれています。作者の弦本將裕さんは個性心理學研究所の所長で、大ブームとなった『動物キャラナビ』の著書などで知られている方です。
そんな弦本さんが講演会で毎回最後に話すのが「杉の木の両親と松の木の子ども」という物語。杉の木の両親の間に松の木の子どもが生まれ、自分の思い通りに育ってくれない子どもに悩む親と、親から愛されずに苦しむ子どもの関係が描かれています。
(新刊JP編集部/金井元貴)
■「人が幸福かどうかは人間関係で決まる」
――どうして親たちは、子どもを無条件で信じられなくなっているのでしょうか。
弦本:これは、大人の社会が愛欠乏症に陥ってしまっているからです。愛が満たされている人は、すべてに余裕があります。夫婦間で会話がないとか、3年間もエッチをしていないというような関係を続けていると、余裕はなくなっていきます。すると、子どもすら認められなくなってしまう。
――しかも、子どもは弱い立場にありますよね。
弦本:そうなんです。ただ、それをずっと放置していると決壊したダムのようになってしまいます。
――この『杉の木の両親と松の木の子ども』を作ったのは、いつ頃のことなのですか?
弦本:個性心理學研究所を立ち上げた1997年頃ですね。それから、講演会の最後に必ずこの話をさせていただいています。
――会場からの反応はいかがですか?
弦本:お母さん方は涙して聞かれていて、もっとこの話を早く聞きたかったという声が多いです。アンケートでは「一番感動したのはこの物語だった」と書かれることが多くて、それまでの90分の講演はなんだったのだろうと(苦笑)でも、それぞれのご家庭でも、切実な問題になっているのだと思います。
――この絵本では、絵本作家のつがねちかこさんが挿絵を描かれていらっしゃいます。弦本さんはこの挿絵についてはいかがですか?
弦本:いろんな人から、少し「怖い」という感想をもらいましたが、僕はこのくらいインパクトがあった方がいいと思います。表紙の松の木のイラストなど見ると、何だかいま「ゆるキャラ」として人気者になっている「ふなっしー」みたいで、なかなか可愛いでしょう(笑)? 何度も読み返してみると、この挿絵の素晴らしさがわかると思いますね。
―― 一度読み終わったあとにまた挿絵を見ると、最初とは少し違ったイメージがわいてきますね。
弦本:子どもが愛おしく見えますよね。それに、親も苦悩していることが分かります。親は杉の木なのだから、松の木の子どもの気持ちが分からないのも当然なんですよ。親も解決策がほしいんです。
実は、紀元前の中国春秋時代に生きた孔子の言行録である「論語」にも、同様のことが書かれています。この話も個性心理學の講義でよく話をするのですが、孔子は「和・礼・道・仁・楽」の5つの教えを説いていますが、これを分析してみるととても面白いのです。最初の「和」という教えで、孔子はこう言っています。「人が幸福であるかどうかは、全て対人関係で決まる。親子・兄弟・友人・恋人・夫婦。今、全ての人間関係が、子どもの社会まで腐敗してしまっている」と。これは永遠のテーマなんですね。
一番せつないのは、親子という最も身近な人間関係の破たんです。だからそのことに気づいてほしいややインパクトのあるイラストを挿絵にして、ハッピーエンドで終わらないようにしました。
――今回、この物語を「絵本」という形で出版したのはどうしてですか?
弦本:私自身46冊目の本になりますが、「絵本」は初めてです。私の本の読者層は結構幅広いのですが、今回は、さらにこれまでと違った層の方々にも読んでもらいたいと思って絵本にしたのです。さきほど申し上げたように、実際、私の講演会などでいつも最後にこの物語を私からのプレゼントとしてお話しさせて頂いておりますが、こんな絵本があったらいいのにというお母さん方からの声も沢山頂きました。そこで、今回、賛同頂いた七田厚先生とのコラボとして、この絵本が誕生したのです。
――では、この絵本をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
弦本:童話「みにくいアヒルの子」みたいに、世界中の人に読んでほしいですね。付録としてアニメーションを収録したDVDがつくのですが、その中にイングリッシュバージョンをつけたり、英語の対訳をつけたりしたのは、親子の関係は国を越えた共通の悩みではないかと思ったからです。
このDVDをどんどん幼稚園や保育園などで流して、親御さんにも見てほしいし、子どもと一緒に絵本を読んでほしい。DVDをつけたのは僕の強い要望です。
また、朗読については、女優の白石まるみさんが心よく引き受けてくださいました。彼女は、個性心理學を学んで認定講師・認定カウンセラーの資格も取っていますし、NHKの初代「ニャンちゅう」のお姉さんでもありますから、この役にはうってつけだと思います。これからは、全国の保育園や幼稚園でも読み聞かせなどで回っていきたいと思っています。
――確かに親御さんにも読んでほしい絵本です。
弦本:これは大人が読む「絵本」なんですよ。子育て中の全てのお母さんやお父さん方に読んでもらいたいですし、かつて子育てをした経験のある方にも是非読んで欲しいと思います。そうすることで、親子の確執が消えるのです。
学校の先生や教育現場に携わる全ての方にも、そして、行政や政治家のみなさんにも読んでもらいたいですね。
――では、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
弦本:大人が読む「絵本」として出版しましたが、ぜひお子さまにも読み聞かせて頂いて、親子で話し合うきっかけにしてもらいたいと思います。個性の違いを明らかに認めることで、親子関係は驚くほど良くなるでしょう。
子育ても、何倍も楽しくなると思います。子どもには「取り扱い説明書」など付いていません。といって、試行錯誤する必要もないのです。温かく見守り、愛してあげてください。
子育てを私はこう解釈しています。「育てる」のではなく「素」を立ててあげると。
子どもの「素」がわからないと立ててあげられないのです。親という字も、木を立てて見せてあげると書きますよね。
みなさまの子育てが、今日から楽しくキラキラと輝くことを願っております。
(了)