北朝鮮がホワイトハウスをミサイルの攻撃目標にしているとの声明を発表し、米国を威嚇している。

 しかし現実には、「銀河3号」(2012年12月12日に光明星3号を衛星軌道に投入させたロケット。テポドン2型大陸間弾道ミサイルの改良型と見られている)の打ち上げにしか北朝鮮は成功していない。このため、米国米国本土やアラスカはおろかハワイやグアムですら攻撃が可能になったわけではない。長射程の発射実験で実証していないため射程距離は推測の域を出ていないのだ。

 北朝鮮のロケット自体の推定射程距離だけで考えると、グアムやハワイそれにアラスカも射程圏内に入っている可能性はある。しかし、射程圏内に入っていることと目標が破壊できるのとでは意味が異なる。

 弾道ミサイルで攻撃するには、強力な破壊力を持つ弾頭を搭載していなければならない。大陸間弾道ミサイル(ICBM)にせよ、ハワイやグアムを攻撃する弾道ミサイルにせよ、北朝鮮軍が目標を完全に破壊するためには核弾頭を搭載する必要がある。

 北朝鮮が行ってきた核実験に関連する報道を見る限りでは、いまだに北朝鮮が手にしている核爆弾の威力は米軍が広島攻撃に使用した原爆の半分程度の7キロトンでしかない。ちなみに現在、アメリカ海軍戦略原潜に搭載されているトライデント2型弾道ミサイルに搭載されている核弾頭の威力は475キロトンである。

 とはいえ、7キロトンでも攻撃を受ければ甚大な被害が出る。しかし、核爆弾を弾道ミサイル弾頭へ搭載するための小型化技術や、核弾頭が大気圏に再突入する際の各種衝撃処理技術(再突入の際、ICBMは最大でマッハ20の速度に達し、表面が摂氏6000度から7000度にまで加熱される。)、それにミサイル防衛システムを撹乱するための「デコイ(おとり)」弾頭を含んだ多弾頭化技術など、獲得しなければならない技術やクリアしなければならない条件が数多くある。

 宇宙発射体を弾道ミサイルに転換する際に追加する必要があるのは、弾頭再突入技術で▼弾頭設計および装着技術▼弾頭目標地点投下のための航法・誘導装置技術▼弾頭再突入時の摩擦熱に耐えられる素材開発技術などだ。

 このように、北朝鮮が米国を攻撃することは技術的に不可能である。そのような事実が知られているのにもかかわらず北朝鮮は政治宣伝で国際社会を騙そうとする。

 冷静に考えると、北朝鮮の声明は警告にも脅しにもなっていないことが分かる。嘘(うそ)の警告はかえって北朝鮮に対して国際社会が警戒し、北朝鮮にとって不利な状況を招くことになる。

 関係国は北朝鮮の脅しや宣伝に踊らされることなく、冷静に対北朝鮮政策を立案する必要があるだろう。(執筆:宮田敦司/編集:如月隼人)

【プロフィール】
宮田 敦司(みやた・あつし)
1969年生。日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。航空自衛隊資料隊にて13年間にわたり資料収集及び翻訳に従事。退職後、ジャーナリスト、フリーランス翻訳者。著書に『中国の海洋戦略』(批評社)ほか。