100歳までボケない最新の認知症対策とは
■4つの習慣で長寿遺伝子をオンに!
ボケの兆候は40代後半から見られることが最近わかってきた。図は45歳から70歳のイギリス人公務員(男性5198例、女性2192例)を10年間観察した結果だ。この研究で調べた認知機能は、(1)推論能力、(2)記憶力、(3)音声の流暢性(Sではじまる単語をできるだけ書き出す)、(4)語義の流暢性(例えば動物の名前をできるだけ書き出す)、(5)ボキャブラリーの5項目。10年後、各年齢層でボキャブラリーを除くすべての認知機能スコアが低下していることが確認された。
ボケの主な原因は加齢。裏返せば、老化の進み方をできるだけ遅くすればボケは起こらない。それを可能にするのが長寿遺伝子だ。
長寿遺伝子は誰でも細胞内に持っているが、常に活性化しているわけではない。長寿遺伝子のスイッチをオンにするには食事、運動、睡眠、ストレス対策の4つから生活改善を図る必要がある。
食事はまずカロリー摂取を抑える「腹七分目」が基本。特に血糖値を急上昇させる糖質を減らすことを心がける。血糖値が安定しないと空腹を感じて食べすぎてしまうからだ。
理想的な1日の食事を紹介すると、朝は食事代わりにミックス野菜ジュースを飲む。アメリカの調査では、週に3回以上ジュースを飲む人はアルツハイマー病の発症率が76%も低下するという結果が出た。私自身も毎朝、自家製のミックス野菜ジュースを飲んでいる。複数の野菜をなるべく皮ごとミキサーにかけ、10分程度でつくる。市販の野菜ジュースを飲む場合は、コーンシロップなどの糖分が入っていないことを成分表でチェックしよう。
ランチは麺類、カレーライス、丼ものは避け、豆腐や卵料理などお惣菜中心の定食を選ぶようにする。夜はステーキや魚料理で良質のタンパク質を摂り、お酒を飲むなら赤ワインにする。赤ワインに含まれるレスベラトロールは、長寿遺伝子をオンにする効果があるからだ。
このような炭水化物を制限した食生活を8人のモニターに3週間続けてもらったところ、全員の体重が減り、血液中のケトン体が増加した。ケトン体は長寿遺伝子のSIRT3がオンになると分泌され、これが増えるほど“糖質依存”から脱け出せたことになる。
運動は1日15分を目安にする。私がよく指導するのは、電車の乗り換え時間。できるだけ速く歩き、階段を上り下りする。社内での移動も階段を使いたい。
デスクに座りっぱなしの人は、イスの上に置く小さなバランスボールがおすすめだ。その上に座るだけで腹筋や背筋、インナーマッスルが鍛えられ、正しい姿勢が保たれる。
睡眠は、時間だけでなく「眠りの質」を意識する。深い眠りの「ノンレム睡眠」で活発に分泌される成長ホルモンは、傷ついた細胞を修復し、炭水化物やタンパク質、脂質の代謝を促す働きがある。
昼寝も効果的で、30分以内の昼寝をする人は、アルツハイマー病の発症率が昼寝の習慣がない人の6分の1という研究結果もある。
仕事でストレスを感じたときは、思いきり笑おう。よく笑う人はストレスを溜め込まないというのは医学的にも説明できる。
長く走っているとランナーズ・ハイになるのはよく知られるが、それは肉体的な苦痛をやわらげ、楽しさが増すβエンドルフィンが脳内で分泌されるから。笑ったときも脳内でβエンドルフィンが分泌される。しかも「つくり笑い」でも同じ効果が得られるのだ。
「仕事か、健康管理か」と考えると、仕事で忙しいときに健康管理がおろそかになる。健康管理、体重管理は仕事や生活の一部だと思って継続してほしい。
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白澤卓二
1958年、神奈川県生まれ。千葉大学医学部卒業後、東京都老人総合研究所などを経て2007年より現職。『100歳までボケない101の方法』など著書多数。
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(順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授 白澤卓二 構成=伊田欣司 撮影=武島 亨)