シリーズ「営業フォーメーション変革」? シナリオ型営業その1/渡部 弘毅
今回と次回の投稿では、生産性向上につながるセールス手法である『シナリオ型営業』に関して解説します。

対面型が中心の一般的な法人営業の場合は、どこに対して何を売っていくかといったセールスプランは立案するものの、詳細の顧客に対してのアプローチ方法や会話内容に関しては営業マン任せになっているケースが多く見られます。また、それが営業マンの醍醐味でもあった訳です。細かいことは言わないが、とにかく売った者が評価される実績主義の世界なのです。

新しいモデルでは結果重視はもちろんですが、これにプロセス重視の考えを入れていきます。セールスプロセスを標準化することにより、明示化して何をいつやるか、どういう条件が整えば次の活動を実施するかを決定していきます。

プロセス重視の営業モデルと記載すると、一般的な比較的営業活動の質の向上を狙ったSFA(Sales Force Automation)の基本的な考えと同じですが、これに、分業とセンター中心型の特徴を入れたセールスシナリオを作成してそのシナリオに沿って営業活動を遂行し、マネジメントしていきます。

■パターン別の標準化

第3回〜5回の投稿において、新しいフォーメーションの設計に関して解説しました。セールスプロセスの分業化単位とスペシャリストを決定して、どの顧客(顧客セグメンテーション)にどの商品(商品セグメンテーション)を販売する場合にはどのセールスパスでセールスを進めていくかを決定していくことです。

セールスシナリオ作成ではこれをいくつかの標準的なパターンに分けて標準的なセールスシナリオを作成していきます。また、いくつかのパターンに分類することにより、新しいモデルへの変革ステップとして、どのパターンから開始するのがいいかを判断していきます。

ここでは、様々な規模の顧客と様々な商品を扱っている企業をモデルとして一般的な分類シナリオパターンを解説します。

シナリオパターン1 商品主導のキャンペーン型シナリオ

コモディティ型商品(第4回目投稿を参照のこと)を中心に大量のターゲット顧客に対してアプローチをしていくパターン。どちらかというと一般的なテレマーケティングに近い手法になります。いかに需要がある顧客を見つけ出し、短期間に提案を実施して受注に導くタイプです。定められた期間内にどれだけ多くの潜在顧客にアプローチでき、受注までいけたかが重要になります。集中化され量をこなせるセンター型営業によって大量の顧客にアプローチします。結果センターで提案・受注処理できる案件は極力センターで処理し、対面営業に引き継ぐ必要がある案件は引き継ぎ、対面営業がクロージングセールスを担当します。

本シナリオパターンは、パターンとしては馴染みやすく短期的な売上貢献も期待できるため、実行しやすいパターンですが、これだけでは本来目指す営業フォーメーション変革でないことを肝に命じることが需要です。シナリオパターン2以降の顧客主導型のパターンもしっかりこなして初めてフォーメーション変革が実現していると考えてください。ついつい短期的視野に立って本パターンだけの遂行に終わってしまうという落とし穴にはまらないようにしてください。

シナリオパターン2 顧客主導、大手新規企業開拓型シナリオ

シナリオパターン1が商品主導型に対してパターン2以降は顧客主導型になります。パターン1は商品を固定して、その商品を買ってくれそうなニーズのある顧客をいかに効率よく探し出して提案していくかがポイントですが、パターン2以降では顧客を固定してその顧客に対してコミュニケーションをすることになります。

その中でもパターン2は比較的大手の新規顧客に対してセールスをするパターンになります。

新規顧客のしかも大手企業からの受注は営業マンにとっては、もっとも賞賛に値する行為です。しかしながらその活動は今までの対面営業中心のモデルでは一般的にはつらく、かつ非効率的な作業でした。大手企業ですので様々な部署に対しての根気強いアプローチが必要で、そういった地味な活動の積み重ねでやっと商談の機会が生まれて、その時に最適な提案活動ができた営業マンだけが受注に至るのです。そして現実にはそういった地味な活動と最適な提案を根気強くできる営業マンは限られているのです。

新しいモデルでは、こうした地味な活動をセンター型営業で標準化したシナリオで確実に実行していくことになります。大手企業の組織を分析して、どの組織にどういう商談の機会がありそうか仮説をたてます。同じ業界で自社のユーザがいる場合はどういう部署でどんなニーズがあるかを把握してそれを会話のネタに入れます。いつの時期にはどういう会話ネタでどの部署にアプローチしていくかをプランします。当然同じ業界でアプローチすべき顧客がある場合は同じ会話ネタでアプローチし、お互いのシナジー効果を出していきます。そして会話の内容や客先の状況がある条件を満たした場合には対面営業に引き継ぎます。当然引き継ぐ条件はあらかじめ決定されており、その条件を満たした場合にのみ引き継ぐことになります。したがってセンター型営業は対面営業の単なるアポどり業務ではありません。訪問はしないがファーストアプローチからキーマン探し、顧客のニーズ把握、商談発掘作業を担当します。

したがって、このパターンでは短期の成果は期待しません。あらかじめこの企業は顧客にしたいと思うターゲット企業に対して何ヶ月も地道なセンター型営業活動を実施していき商談を発掘して対面営業に引き継ぐといった息の長いセールスになります。

ここで読者の中には、「そんな規模の大きい新規顧客に対して電話やメールだけのアプローチで商談が生まれる分けがない。対面営業でも大変なのに電話でできるわけがない。」と思われる方が多いと思われます。

これに対して筆者は自信を持って、「このセンター型アプローチの方が成果が上がります。」と言えます。

先にも書きましたが、こういう新規顧客の獲得には地道な数ヶ月に及ぶ活動が重要です。これを個人の力量とスケジュールに任せた活動をしていては本当に優秀な営業マンで無い限り、おろそかになります。対面営業マンは地道な数ヶ月先に結びつく活動より、目先の売り上げを優先する職種でありそれが当然です。センター型営業は分業化された地道な活動を主活動として担当します。対面活動はしないものの、シナリオ化された組織力でこの地道な活動をしていきます。組織で知恵を共有するため、他のメンバーが成功した会話ネタはすぐに他のメンバーにも伝えられます。電話やメールでの活動なので、コミュニケーション量をこなすことができます。スケジュール化された活動計画によって必ず定期的に顧客とのコミュニケーションを欠かすことはありません。

こうしたシナリオに基づいたしかも組織の知恵を使いながら案件醸成活動だけに専念したセンター型の活動は、非対面であるというハンディを乗り越えた成果を達成することが可能となります。