大人だって「ポケモン」から学べることがある!
ポケモンの可愛らしさの奥には一体何が隠されているのか
ポケットモンスター・シリーズは戦略的要素を持ったロールプレイングゲームであり、本国の日本だけでなく世界中で高い人気を誇っている。今年の10月12日に世界同時発売された「ポケモンX」「ポケモンY」の両タイトルは、内容的にはほぼ同じゲームのバージョン違いといった感じであるにも関わらず、発売からわずか3日で400万本を売り上げた。「これまでに最も売れたコンソールゲーム べスト25」のうち、なんと5タイトルにポケモンシリーズがランクインしているほどなのだ。
この驚異的な売り上げは何も子供へのクリスマスプレゼントだけで成り立っている訳ではない。大人も含めた幅広い層の支持が人気の根底にあることは間違いないだろう。
いい大人がなぜこんなゲームに夢中になるのか?その真相を探ってみようではないか。
いかにも日本的な可愛らしいキャラクターや、一見シンプルに思えるゲームシステムの中には、我々大人にとっても実にためになるフレームワークがいくつも隠されているのである。
1戦略:グー、チョキ、パー、の進化型
ポケモンの仕組みは最初はとても単純に見える。ご存じない方のために簡単に説明しよう。基本的には二匹のポケモン(「トレーナー」によって操作される可愛い架空の生物)が、どちらかが気絶するまで交互に攻撃し合うのだ。ポケモンには火、水、草、エスパー、竜などの様々な「タイプ」があり、これらのタイプがグー、チョキ、パーのように作用して勝ち負けに影響する。ただし、普通のじゃんけんのように単純な仕組みではない。岩(グー)とハサミ(チョキ)と紙(パー)に加えてコーヒーカップやジェット機、巻き尺などがあったらどうなるか想像してみてほしい。さらに、チョキがチョキでありながらパーの性質も備えていたりするのだ。複雑すぎて頭がパンクしそうである。興味のある方は以下の相性表を見ていただきたい。
2経済:まるで小さなウォール街
先日、実に12年ぶりにポケモンを遊んでみて驚かされたのが、「グローバル・トレード・ステーション」(GTS)なるものの存在である。GTSとは、インターネットに接続して全世界のプレイヤー達とポケモンをトレードできるシステムだ。私がポケモントレーナーとしてカロス地方からせっせと集めてきたポケモンたちを、なんと世界各国400万人のプレイヤーと交換できるのである。
ただ漫然とゲームをプレイするだけではない。そこには需要と供給の経済が成り立っているのである。他のプレイヤーがどんなポケモンをトレードしているのか、希少価値の高いポケモンはどれか、その理由は?まるで株の銘柄のようではないか。ゲーム内の経済のトレンドを追っているだけで一日があっという間に過ぎ去ってしまう。 マニアックな人であれば絶対にこの気持ちが分かるはずだ。そんな目で見るのはやめていただきたい。
3統計学:数学的で深い世界
ポケモンシリーズの基本は、ポケモンを集めることとポケモン同士をバトルさせることの二点だ。バトルに関してはオンラインで他のプレイヤーと対戦することができるのだが、もはや対戦相手は普通の子供ではないことをまず理解してもらいたい。子供の頃からポケモンに慣れ親しみ、もはやいい大人(大人と呼べるかどうか微妙だが)になったプレイヤー達は相当に複雑なバトルを繰り広げており、もはやポケモンを適当に六匹ならべて挑むと言ったやり方は全く通用しない。
ポケモンには「タイプ」があると先ほども書いたが、各タイプにはさらにポケモンの耐性と弱点を表すサブタイプがパラメーターとして設定されている。そしてサブタイプにはさらなるサブタイプがぶら下がっていたりして、ただでさえ718種類もあるポケモンは無限の可能性を秘めているのである。ちなみにこのパラメーター自体も固定ではない。ミニゲームをこなしてポケモンを進化させることもできるのだ。ポケモンのブリーディングには深い統計的な戦略が必要で、一度はまったら抜け出せない。
4:幸福感:現実逃避と無条件の肯定
「Grand Theft Auto」のようなゲームソフトでは、ユーザーはリアルなゲーム内の世界で暴力や略奪を繰り返すのだが、ポケモンはその真逆である。ポケモンの世界は完全に非現実的で、ストーリーも無いに等しい。じゃあ何が楽しいの?と思う方もいるかもしれないが、ポケモンは「ビデオゲーム」というものの基本概念を貫いているのだ。「ゲームなんだから余計なことは気にしないで早くゲームやろうぜ!」と誘う声が聞こえてくるようである。
つまらない現実世界など忘れよう。幻想的な生き物を集めてチーム編成を考える事はなんてくだらなくて楽しいことか。ポケモンの世界では誰もが「ポケモン集めるのって最高だよね!」という明るい台詞とともにあなたを暖かく迎えてくれ、これといった理由もなくアイテムをプレゼントしてくれたりするのだ。
現実世界の闇と苦しみをリアルに描いたシリアスなゲームに疲れたら、全てが美しく痛みもないポケモンの世界に飛び込んでみよう。
5忍耐:細々したものが大好きなコレクター達よ、結集せよ!
皆さんは私のように細かい事が気になるタチだろうか?ポケモンは細かいことが好きな人や、ついつい色々な物を集めてしまうコレクター思考の人にとっては夢のようなゲームだ。現実世界でついついやってしまうクセがそのままゲームになったと考えれば分かりやすいだろう。ポケモンを集めるのは、ただ集める事だけが目的なのだ。好きな物を集めて手元に置いておくのは、たとえそれがバーチャルであっても楽しい。ポケモンXやポケモンYは任天堂3DSのゲームなので、集めに集めた可愛いキャラクターたちは文字通りポケットの中に収まるのである。
一見するとポケモンはただただ可愛らしい、子供向けのゲームにしか見えないかもしれない。しかしその真相に深く迫ってみると、複雑な戦略や統計学、ポジティブな思想が隠されていることが分かる。ポケモンの制作に関わった人たちは、我々人間について本当に良く理解しているようだ。この素晴らしくスマートなビジネスモデルは、我々の弱みすら幸せに変えてしまう力を持っている。さあ、皆さんもポケモンを集めてみよう!
Taylor Hatmaker
[原文]