この原稿を書いている11月25日現在、東京ビッグサイトでは2年に1度のクルマの祭典"東京モーターショー(東モ)"が開催中である(12月1日まで)。というわけで、今回は特別編として「東モで見つけた私のツボ」をつらつらと紹介したい。

 これはマツダ・ロードスターと同程度の小さな後輪駆動クーペである。現状ではとくに具体的な商品化計画もなさそうで、ちょっとした思いつきコンセプトカーでしかない。デザインの元ネタもオヤジ世代にはすぐにピンと来るもので、1960年代から70年代にかけてのブルーバードやスカイラインである。

 ミニやVWビートル、あるいはフォード・マスタングなど、こういうレトロ路線は欧米ではひとつの常套手段で、このIDxも二番煎じかつ安易(失礼!)だが、私のようなオヤジは「売ってくれたら、マジほしい」と素直にツボってしまうのも事実。

 今の時代、スポーツカーのデザインで純粋かつ真面目に機能を追求したら、ほとんどヒコーキかガンダムみたいにしかならない。まあ、それはそれでいいが、ハッキリいうと、それでは"萌え"がないのだ、最近のオヤジマニアには。だったら、あざとくてもなんでも、こっちのほうがツボである。スポーツカーを出しても継続的に売れない今の時代に、それでもスポーツカーの生き残る道はここにあると思ったりする。

 今回のスズキブースには今年末発売予定の新型軽自動車"ハスラー"が展示された。真四角のハイトワゴンボディをちょいとレトロSUV風に仕立てたクルマである。

 で、このクルマはそんなハスラーの屋根を斜めにカットしてクーペ仕立てにしたコンセプトカー。今のところ発売予定はなさそうだが、屋根まわりのデザインを変えただけなので、商品化への技術的ハードルはなさそう。

 普通のハスラーもすでにクルマ好きオヤジ連中にはちょっと話題なのだが、個人的にはこのクーペの絶妙な猫背ラインがさらにレトロ感を強調していて、めっちゃツボ。リアドアを隠しハンドルにするなど芸も細かい。クーペといっても4ドアだし、もともと背が高いので、こうしてクーペ化しても室内の使い勝手にあまり影響がなさそうなのがイイ。

 この異様に低くてスリムな2人乗りスポーツカーはコンセプトカーではない。れっきとした市販車である。ただし、販売はヨーロッパのみ250台限定。価格はなんと10万ユーロ(約1370万円!)。おそらく歴代で最も高価なVW(フォルクスワーゲン)である。

 ただ、これは速さではなく、驚異の低燃費を売りにする新世代のスーパーカーだ。2気筒ディーゼルのハイブリッドで、カーボンやアルミでかためられた車重は、軽自動車より軽い800kg以下。最高速度は160km/hしか出ないが、かわりに燃費は111km/L!!!!!!

 これは素直にスゲー。当たり前だが、最高速300km/hより111km/Lのほうが何倍もインパクトがある。普通に乗るならレトロのほうが萌えるが、やっぱこういう純粋に性能を追求した機能美もまた、マニアにはツボである。空気抵抗を徹底的に突き詰めたスタイルはあの初代ホンダ・インサイトを彷彿とさせるが、その何倍もオーラがある。素直にカッコイイ。こういうものこそ日本メーカーにやってほしかったのに......とも思うが。

 これも現時点ではハリボテの純粋なコンセプトカーなのだが、似たようなコンセプトで同名コンセプトカーが出るのは今回で2回目で、デザインは前回よりはるかに現実的になっている。しかも今回はエンジンや燃料タンクなどの現実的なパワートレーンを想定したレイアウトになっていた......。

 このデカデカも軽自動車サイズに収まっている。タントやN-BOXなどのスーパーハイト大容量系より全高をさらに10cmもドーンと高くしてあり、室内はもう使いきれないくらいに巨大な箱である。

 こんだけ幅がせまくて背が高いと、走りは不安だが、最近の技術レベルなら、市街地や高速をトコトコ走るくらいなら問題なさそう。

「クルマは飛ばしてナンボ!」という私のツボにはまったく相容れないが、「高速でもエコランです、それより自転車を積みたい、あるいは自宅がせまいので物置に使いたい!?」という現代ニッポンの生活様式にはドンピシャ。商品化されたら一気に日本の国民車になりそうな予感もある。

 ......というわけで、東モでツボにきた4台を無作為に選んでみたら、結局のところ、IDxやハスラークーペのような「レトロ型」と、XL1やデカデカのように「一芸追求型」になってしまった。べつに偉そうにいうわけではないが、いまの時代に魅力的なクルマをつくるには、このどちらかの方向しかないのかも。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune