日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

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小生の母校である一橋大の経済研究所長・深尾京司教授が日米経済の比較などから、「失われた20年」における日本経済停滞の原因を綿密に分析した結果を見た。

http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis041/e_...

それによると、日本の非製造業の生産性が90年代以降停滞したのに対し、米国では非製造業を含め全産業の生産性が大幅に伸びたこと、その主要な要因はITを使う産業のIT投資の差であることが結論づけられていた。

20年間にわたっての小売業、卸売業、倉庫業といったサービス業においてのIT投資(対粗付加価値比)を見ると、トップ・米国、イタリア、英国などに対し日本は格段に小さい。何となく肌感覚では分かっていたことだが、統計分析的に裏付けられて、ちょっとため息が出た。

この間に小生が関わった改革プロジェクトを思い返しても、日本のサービス業はおしなべてIT投資に消極的で、「コストに過ぎない」という捉え方だったと思う(人件費に対する態度も同様)。そのため同業他社と横並びでメリハリのない投資になりがちだ。戦略上の優位性を求めて他社に先駆けてIT投資を行うという発想にはなかなか巡り合えず、経営者説得のために「外堀を埋める」のに随分と苦労したケースが少なくない。

もしかすると製造業に比べサービス業の経営者には、ITへの苦手意識が強く短期志向が強い方が多いのかも知れない(あくまで仮説だが)。

最近関わっているIoT関連の投資判断の一例でも、本来なら業界の中で先行できたため事業インパクトも大きいはずのサービス事業者が躊躇しているため、その意思決定を待っている弊社のクライアント企業が1年以上もやきもきした状態にある。実に勿体ない話である。

もう一つ、日本企業でのIT投資の問題は標準化努力の不足だ。これは製造業・非製造業であまり違いがない。他の先進国や新興国でのIT投資は思い切った業務標準化を伴うため、生産性向上への費用対効果が高い。

それに対し、日本企業が行うIT投資は従来業務を自動化する発想が強過ぎて、現場の使い勝手に関する個別要望をくみ取り過ぎる傾向がある。しかも現場毎に異なる業務プロセスを、標準化することなく個別にシステム化してきた実態も散見される。

こうしたやり方が主流となってきた主な理由は、情報システム部門の立場が弱く、現場に遠慮して御用聞き的な動きしかできないこと、SI会社が業務改革を支援できず「言われたことを形にする」だけに徹してきたことが挙げられるだろう。

これらすべてが、IT投資の費用対効果を下げる悪しき慣習である。

(本稿は2013年11月に投稿された内容に加筆したものです)