【小倉隆史】日本が取り組むべき具体的な課題
死闘でしたね。
去年のEURO決勝と同じカードで、前回はスペインがイタリアを4-0と圧倒しました。さらにこの大会でイタリアは負傷者が続出していたので、スペイン有利という予想が大半を占めていたと思います。
でも、イタリアはイタリアでした。勝負強いという歴史は息づいていました。前半、プランどおりに試合を進めたのはイタリアだったと思います。スペインはGKカシージャスの活躍がなければ失点していたでしょうね。
スペインが盛り返したのは延長戦からでした。延長からはイタリアを攻め立てましたが、それまでのボールポゼッション率は、いつものスペインに比べるとずっと低かったと思います。いつもは相手を圧倒しますから。
ただ、両チームの消耗度が高かったですね。そのために試合が膠着してしまいました。それでもPK戦まで含めて最後まで見所の多い試合だったと思います。
この試合で、両チームの選手が疲弊したときにみせたプレーから、日本が学ぶべき点と課題がはっきり見えました。
何人もの選手の足が痙攣しているようでした。ところが大切な局面、危ない場面では少し前まで動けなかった選手とは思えない、素早いプレーを見せていました。相手のシュートに複数の選手が身を投げ出すのです。
集中力とともに、今がどんなシーンなのかを判断してプレーする力は両チームともすごかったと思います。「個人の戦術眼」と言ってもいいでしょう。
この試合のイタリアは、日本がなかなかこなせない[3-4-3]のシステムを採用していました。イタリアは[3-4-3]というシステムにこだわりすぎず、守るところは柔軟に守り、攻撃のときはビックリするくらい飛び出して行きます。
日本人は与えられた役割にこだわります。それは長所でもあるのですが、同時に柔軟性を欠くことにもつながります。どんなシステムにも弱点があって、その穴をふさがなければならないのは「個人の戦術眼」なのです。
ワールドカップまでの期間で、日本は個人の力や戦術眼をもっと伸ばしていかなければならないと、この試合を見ながら痛切に感じました。
だけど、日本にとっての光明もありました。ブラジルの高温多湿の中で、ヨーロッパの選手には疲労がたまりやすいのがわかったと思います。日本のほうがヨーロッパの選手よりまだ動けるでしょう。だから日本がイタリアと対戦したときに善戦できたのです。
機動力の差を生かせば勝負ができます。だだし、日本も90分間動き続けられるとは思えません。だから試合のメリハリがわかるという部分の「個人の戦術眼」を身につければいいのではないか。スペインやイタリアとの差とともに、具体的に取り組むべき課題もわかった試合だったと思います。
撮影:岸本勉/PICSPORT (6月27日、コンフェデ杯準決勝/スペイン×イタリア)
■プロフィール
小倉隆史(おぐら たかふみ)
1973年生まれ、三重県出身。サッカー解説者。92年、名古屋グランパスエイトへ入団。翌年にレンタル移籍したオランダ2部リーグのエクセルシオールで、チーム得点王に輝いた。さらに、アトランタ五輪の代表や、ファルカン監督率いる日本代表にも選ばれた。
現在は、サッカー解説者として、TVを中心に幅広いメディアで活躍中。12年に、日本サッカー協会公認S級コーチライセンスを取得。宝島社から先月、書籍(小倉隆史の「観る眼」が変わるサッカー観戦術)を出版した。