責任感の強い警察官ならではの責任の取り方なのか。一昨年の大晦日、16年10カ月にわたって逃走を続けていたオウム真理教の元幹部・平田信被告(47)が警視庁に出頭した際、虚言だと思って追い返した機動隊員が、最近になってひっそりと退職したという。

 −−あと少しで新年を迎えようとしていた平成23年12月31日の夜、東京・霞が関の警視庁正門前に一人の男が現れ、立番をしていた機動隊員にこう告げた。
 「特別手配されている平田信です。出頭してきました」
 男は平田被告(47)本人だったが、応対した機動隊員は悪質ないたずらと判断。「近くに丸の内署や交番があるから、そこに行くように」と指示し、平田被告はたらい回しにされたのだ。結局、平田被告は指示通りに約650メートル離れた丸の内署に出頭。指紋などで本人と確認され、平成24年1月1日に逮捕された。

 正月早々飛び込んで来たビッグニュースにマスコミも沸いたが、出頭の経緯が明らかになるにつれて、追い返した機動隊員に対する批判報道も相次いだ。
 「全国の警察が血眼になって行方を追っていた特別手配犯が出頭してきたのに、文字通り門前払いしたんですからね。“不祥事”と言われても仕方ない状況でした」(全国紙社会部記者)

 報道を受け、警察庁の片桐裕長官(当時)が慌てて「対応として適切でなかったと言わざるを得ない」と謝罪。
 問題となった機動隊員はその後も通常勤務に就いていたが、警視庁内部でも「あのときの立番は誰だったんだ」「いったい何を考えているんだ」という批判が渦巻き始めた。
 こうした声が本人の耳にも入り、「自らの不手際について深く悩み、精神的に追い込まれて自宅療養していた」(捜査員)という。

 平田被告の出頭をきっかけに、高橋克也被告(54)、菊地直子被告(41)も相次いで逮捕するなど、警察当局は大きな成果を上げた。
 「あれさえなければ、警察は大手柄という印象だった。それだけに、機動隊員に対する“無言の批判”が繰り返されていた雰囲気があったのは確かだ」(同)

 一連のオウム事件で人生を狂わされた被害者は多数いるが、この機動隊員も間違いなくその一人だろう。