日刊埼玉西武ライオンズfacebookページによるアンケートでも涌井秀章投手は断トツの票数を獲得し、ファンからもライオンズのエースであると認められた。その涌井投手は今後どのような方向に進んでいけば良いのだろうか?涌井投手のライバルと言えば、何と言ってもダルビッシュ有投手だ。そしてダルビッシュ投手も涌井投手をライバルだと公言している。この関係を踏まえるならば、涌井投手はまずはダルビッシュ投手の勝ち星に近付いていかなければならないだろう(ダルビッシュ投手は日米109勝、涌井投手は80勝)。

今回は「変化球」というものをテーマにして涌井投手のことを書き進めてみたいと思う。涌井投手の持ち球を列挙してみるとスライダー、カーブ、ツーシーム(シュートボール)、チェンジアップ、フォークボールと実に多彩な変化球を操っていることが分かる。ではこの中でウィニングショットはどのボールなのだろうか?筆者の考えではそれはフォークボールだ。涌井投手が沢村賞を獲得した時期は、とにかくフォークボールの落ち方が素晴らしかった。三塁側内野席という真横の席から見ていると、まるで縦スライダーのように鋭く落ちていくのだ。本来フォークボールに「鋭い」という表現を使うのは適切ではないわけだが、鋭いと言いたくなるほどの落ち方を見せていたのだ。

だがこの2年間はそのフォークボールの落ち方が良くなかった。涌井投手自身も随分と試行錯誤を繰り返したようだ。だがなかなかフォークボールの落ち方が良い時期の状態に戻って来ずに長らく苦しんでいる。ではなぜフォークボールの落ちが悪くなってしまったのか?その原因は間違いなく2011年に発覚した肘痛(遊離軟骨)が原因の一つだろう。フォークボールという球種は、人差し指と中指でボールの赤道ラインを沿って挟み、そこから腕を振る勢いで抜くようにして投げるボールだ。こうして投げるフォークボールは、実は肘に大きな負担をかけてしまうことが多いのだ。その理由は、人差し指と中指の2本の指だけでボールをホールドした際、同時に肘関節がロックしてしまうことがあるためだ。肘関節がロックされてしまうと、当然遅かれ早かれ肘痛を患うことになってしまう。

ただし涌井投手の肘痛は遊離軟骨が原因だ。軟骨の剥離は投手だけに起こるものではない。それほど肩肘に負担のかからない野手であっても遊離軟骨に苦しむ選手は多い。つまりフォークボールが100%肘痛の原因だったと言うことはできないということになる。それでもまったく影響がなかったと考えることはできない。

そしてもう一つ考えられる肘痛の原因はスライダーだ。筆者が涌井投手のスライダーの投げ方を見る限り、時々腕を外旋させることによってボールに回転をかけているように見えるのだ。涌井投手のコメントを聞いている限りでも、腕の外旋によって回転をかけていると考えられる。腕を外旋させれば誰でも簡単にスライダーやカーブを投げることができるのだが、しかしこの投げ方は正しくはない。詳細に関しては割愛させて頂くが、スライダーも本来はストレート同様に腕を内旋させて投げるべく変化球なのだ。もし涌井投手が本当に腕を外旋させてスライダーを投げていたとすれば、フォークボール以上に肘痛の原因となったのがスライダーだと断言することもできる。

筆者は以前より、涌井投手は将来的に肩を痛める可能性が非常に高いということを書き続けてきた。これに関しても詳細を書いてしまうと膨大な文字数になってしまうため省かせてもらうが、涌井投手の投球動作は人体の理に適っているとは必ずしも言い切れないのだ。涌井投手が200勝を目指せるような投手になるためには、投球動作を見直していく必要があると言える。これは投手コーチングを生業としている者としての正直な意見だ。ピッチング・フォームに関してはどのような形でも良いし、今のまま変える必要はないと思う。だがメカニズムを司る投球動作(ピッチング・モーション)に関しては今のうちに見直していった方が、30代になった時に苦しまずに済むだろう。

筆者は一時期、とにかく涌井投手を追いかけた。涌井投手が西武ドームなど関東の球場で先発をする時は必ず観戦をしに行き、ハイスピードカメラでモーションを撮影し、その膨大なデータを細かく分析していった。そして筆者自身で涌井投手のピッチングモーションをコピーし、涌井投手の投げ方でボールを投げてもみた。その結果、やはり涌井投手の投球モーションは肩肘に負荷がかかっていると結論付けた。

さて、ここで本来のテーマとしていた変化球の話に戻っていきたい。涌井投手が調子を落とした時期は、スライダーの切れが甘かった。打者の手元でクッと曲がるのではなく、ホームベースのかなり手間からカーブのように曲がることが少なくなかった。そのために打者も見極めやすくなり、追い込んでいてもヒットを打たれるケースが多かった。涌井投手が完全復活を果たすためには、このスライダーの切れを良くしていく必要がある。そしてそのための最高の手本がライオンズにはいるのだ。それは西口文也投手だ。

桑田真澄投手は、肘痛を恐れてスライダーを投げなかった。だが西口文也投手のように正しい投げ方でスライダーを投げれば、西口投手のようにスライダーを投げ続けてもほとんど肘痛など起こすことはないのだ。今涌井投手が覚えるべく技術は、西口投手のスライダーだ。西口投手はストレートとまったく同じ腕の振り(内旋)によってスライダーを投げる。そのため肩肘にかかる負荷はストレートとほとんど変わらず、肩肘を痛めるリスクは大幅に軽減されることとなる。昨季は肩痛に苦しんだ西口投手ではあるが、しかしこれはモーションのせいではなく、年齢による筋力の衰えによるところが大きいだろう。

渡辺久信監督の指導により、涌井投手はストレートの威力を随分と取り戻してきた。どんな投手であってもストレートに伸びがなければ勝つことはできない。変化球も、良いストレートがあってこその変化球であり、変化球のみで抑えられる投手などは存在しない。そういう意味では昨季はストレートに力が戻り、涌井投手はまず復活の一歩目を踏んだと言える。ここからさらに沢村賞を狙えるだけの投手に戻っていくためには、鍵はスライダーにあると筆者は考えている。涌井秀章投手復活の鍵は、西口文也投手のスライダーにありと言い切り、本記事を書き終えたいと思う。

現在日刊埼玉西武ライオンズfacebookページでは、涌井投手が将来200勝を達成できるかどうかのアンケートを実施しています。もしよろしければ皆さんのご意見もお聞かせください。