寝ている間に、いやな記憶を消してくれる薬は 実現できるか?【サイエンスニュース】
いやなことを忘れたくて、酒を浴びるように飲んでしまったことのある人は、きっと少なくないだろう。けれど研究によれば、アルコールには記憶を定着させる効果があるらしい。2008年に東京大学の松木則夫教授が発表した論文によれば、ネズミに恐怖を与えた直後にアルコールを投与すると、食塩水を投与した場合よりも、長い間、恐怖で動けなくなった。これが人間に対しても当てはまるとすると、酒を飲んでもいやな記憶ははっきり残ることになる。
では、いやな記憶を取り除く薬は実現できないのだろうか?スタンフォード大学の研究チームは、ネズミにジャスミンの香りを嗅がせながら、電気ショックを与えることで、ジャスミンの香りに脅えるようにトレーニングを行った。このネズミが寝ている間に、電気ショックなしでジャスミンの香りを嗅がせると、少しずつネズミは(香り物質に)恐怖を感じないようになるが、新しいカゴに移して環境を変化させると、香りに対するトラウマは復活してしまう。しかし、同じようにジャスミンの香りに脅えるようになったネズミのうち、眠りに落ちる直前にある薬を投与されたグループは、トラウマが大幅に改善された。この薬は、脳内の扁桃体外側基底核という部位でタンパク質が作られるのをブロックする働きを持つ(扁桃体外側基底核は、恐怖の記憶を司っていると考えられている)。薬を投与されたネズミも、先のグループと同じように、寝ている間に電気ショックなしでジャスミンの香りを吹き付けられたが、起きてから新しい環境に移されても、香りに対する反応は減っていたのだ。
実験で使用した薬は人間に用いるのは問題があるということだが、論文の主著者であるAsya Rolls博士によれば、既存の抗不安薬もネズミの実験と同じプロセスと組み合わせることで、似た効果を得られるかもしれないという。
(文/山路達也)
記事提供:テレスコープマガジン