パーソナル投手コーチを務める、太友加寿仁さんが運営する人気サイト(ブログ)=「日刊埼玉西武ライオンズ」。インタビュー最終回となる第3回は、「投げ込みは悪いのか?」「MLBとプロ野球、両投手の違い」「「上からまっすぐ投げることの是非」など、“投手コーチ”太友さんの「投手理論」から詳しく話を伺いました。

――野球の話に戻しますが、よく「投げ込みは悪」といいますが、そうではないのですか?

違います。投げ込みは必要です。投げることでしか鍛えられない筋肉もありますので。投げ方には大きく分けて2種類あります。体のメカニズムに則した投げ方と、そうではない投げ方です。

そうではない投げ方を続けてしまうと簡単につぶれてしまいます。でもメカニズムをしっかり使えば肩は消耗品にはなりません。たとえば、疲れているのに投げたりすれば消耗しますが、しっかりと良いコンディションを保っていれば、投げ込みで肩が壊れるようなことはないです。

プロ野球のキャンプで一日200とか300とか投げ込みをしますが、良い投げ方をしていれば全然大丈夫です。

――MLBでは、投げ込みをさせませんが。

メジャーでは体の構造を正しく使えていない選手が多いんです。体躯の違いも影響するのですが、体が大きい分上体に頼って投げる選手が多い。そして向こうの連中は歯医者に行くような乗りで肩肘の手術を受けに行きます。それくらい肩・肘のことを簡単に考えています。

先日和田投手も受けたトミー・ジョン手術をすれば、確かに肘は良くなります。
肘を痛めて手術をして、リハビリをして、それはしんどいけれど、しんどい間に正しい投げ方を勉強する選手はいるようですね。

でも、そんな手術を受けなくても、正しい投球フォームで投げていれば肩肘は大丈夫ですし、球速も上がるんです。

メジャーで凄いなと思えるのは一流どころが多いですよね。昔のオーレル・ハーシュハイザーとか、今で言うとティム・リンスカムなどでしょうか。スティーブン・ストラスバーグは肘の違和感はいつものことだと言っているくらいなので、これはちょっと論外ですよね。

――投げ込みで球が速くなった人はいるのですか?

たくさんいます。小学生からいます。肩は痛くなりません。痛くならない投げ方の基本は同じですけど、細かい部分は一人一人違います。その細かい部分もちゃんと見るわけです。

プロの選手にもアドバイスをしている選手がいるのですが、プロはまずアドバイスを守らないですね(笑)。エースクラスになると、球団の投手コーチでもアドバイスが出来なくなる。こればかりは仕方がないと思います。

――悩める西武のエースはどうですか?

涌井秀章投手の場合、原因は一つですね。人間というのは、2000回同じ動作を繰り返すと、その動作を体が覚えるんです。これを運動習熟と言います。昨年、涌井投手は肘を痛めました。そして、肘を痛めていた投げ方で2000球以上投げていました。だから、肘が痛かったときの投げ方を体がまだ忘れていないんです。

ベストの涌井投手自身の投げ方で2000球以上投げれば、涌井選手は復活します。もう去年の5月前から肘を痛めていたので、それだけの時間がかかりますよね。1時間だけでもいいので、涌井投手のコーチングをさせてもらいたいなぁと密かに願っています。

――投手は自分の理屈で勝ち星を挙げてきた人が多いので、人の言うことを聞かないでしょうね。ダルビッシュ投手などはどうですか?

セットポジションをやめてからさらに良くなりましたね。ふりかぶって投げることによって、大きいエネルギーをスムーズに出せるようになっていきます。セットポジションだと、生み出せるエネルギーは限られてくるので、限られたエネルギーの中で最大限出そうとすると体に負荷がかかります。あとは子供への影響ですね。

子供がセットポジションで投げるのは良くないですね。体全体で投げられないので、肩、肘への負担が大きくなります。振りかぶって投げてリスクがあるのは脇腹くらいですね。筋肉が少なくて鍛えにくいですから。あとは体への負担はありません。

――投げる練習はどれくらいの年齢からすればいいのですか?

変な投げ方さえしなければ何歳でもいいですね。基本的には、子供はもともと正しい投げ方で投げるていることがほとんどなんです。ただ少年野球のコーチが「ああしろ」「こうしろ」という中で壊していくんですよ。

常に「上からまっすぐ投げなさい」というコーチがいまだにいますが、あれは全然だめです。「上からまっすぐ投げる」というのは、使っている筋肉の部位が常に1か所になるので、そこばかりを消耗することによって、肩を壊してしまうリスクが高まります。

臼関節と言いますが、回旋する関節は体の中で股関節と肩関節の2か所だけです。この2か所の関節の回旋動作を両方ともしっかり使って投げないとダメですね。そのためにも上からまっすぐ投げてはいけないのです。

ボールをもった腕を回旋させながら、トップで手の甲がキャッチャーを向く。そして徐々に回って、手のひらがキャッチャーミットと正対した瞬間にリリースする。これがいい投げ方ですね。プロでも良くない投げ方の選手は多いですよ。

――そういう幅広い知識、もっと世に問うべきだと思うのですが、出版はしないのですか?

今はまだオファーはないですが、いくつ来ると嬉しいですよね。

――今後もパーソナル・ピッチングコーチをずっと続けていくのですか?

そうですね。同時にどこかの学校やチームのコーチになることも考えています。実はクラブチームを立ち上げる準備を進めています。究極の目標は都市対抗野球で優勝監督になるということなので。完璧に僕のコーチング方針に則ったチームを作り、その上で戦い、日本一になりたいと思っています。

――普通の人が言えば、大言壮語に聞こえますが、太友さんの場合、やりそうな気がしますね。太友さんは、昔の剣豪が木刀一本で道場破りをしながら世渡りをするような感じがします。

うちのホームページ内で「投手育成コラム」というのを書います。完全に技術的なコラムですね。

有名な投手やコーチがいろいろ野球の技術書を書いていますが、一部には役に立たないだけならまだしも、子供たちが、その本に書いてあるような投げ方をしては、将来必ず肩肘を痛めてしまうだろうというものもあります。本当にごく一部ではありますが。

また、投手は良く走れと言われますが、ただ走るだけでは意味がありません。走り方が悪ければ10キロ走っても意味ないですね。投手は非常に繊細な技術が必要となります。その技術を習得するための練習をこなすための体力を、走り込みによって作るんです。走ることによって投球スタミナを増やす、という考え方は僕は正しいとは考えていません。そして走り方を見れば、その選手がどういう状態にあるのかもだいたいわかりますね。

今後は物理学をもっとしっかり学びたいと思って。物理学を学び、選手とボールがどのような関係にあるのが理想かを追求し、それをコーチングに活かしていきたい。古い本をあげればロバート・アデア著の「ベースボールの物理学」の内容をさらに深く理解をしていきたい。

私は、なるべく忙しくしならないようにしています。忙しすぎると選手をしっかり見れませんから。これからも私のペースで、人体構造に則したピッチング理論をじっくり広めていきたいですね。

[いきなり“投手コーチ宣言”|太友加寿仁さんインタビューvol.1]
[ブログはあくまで「勉強」|太友加寿仁さんインタビューvol.2]

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