ジェフ・ライアン著・林田陽子訳『ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力』 アメリカ視点のマリオの歴史!

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マリオが初登場したゲーム「ドンキーコング」は、どうやって誕生したのか。
舞台は、まずアメリカだ。
ニンテンドーオブアメリカを任された荒川實は、窮地に立たされていた。
ゲーム「レーダースコープ」の売れ残りが、2000台、倉庫で埃をかぶっていたのだ。
荒川は、大博打をうつ。
「レーダースコープ」のROMを交換して、新しいゲームに仕立て直すのだ。
筐体の中身、ゲーム部分だけを入れ替える作戦だ。
任天堂社長山内溥は、これを認める。
ところが、トップクラスの開発者たちは担当のゲームにかかりきり。突如できたプロジェクトにさける人員はいない。
アイデアの社内コンペが開催され、そこでまったくゲーム開発の経験のない男を起用する。その人物こそが宮本茂だ。さらに教育係として横井軍平を起用、コンビを組ませる。
できたゲームが『ドンキーコング』だ。
“もし「レーダースコープ」がもっと人気が出ていたら、もし荒川が金銭的な損失を甘んじて受け入れていたら、もし山内が経験を積んだデザイナーにROM交換プロジェクトをやらせていたら、もし横井が宮本に好き放題にデザインさせていなかったら、もし宮本がストーリーを語るのではなく、単にゲームを作ろうとしていたら―マリオがこんな風に生まれることは絶対になかった”

『ニンテンドー・イン・アメリカ 世界を制した驚異の想像力』の第1章「マリオの産声」で語られるエピソードだ。原題は“SUPER MARIO How Nintendo Conquered America”。
章タイトルをずらっと紹介しよう。

序章 マリオのインサイド・ストーリー
第1章 マリオの産声――ニンテンドー・オブ・アメリカの誕生
第2章 マリオの創造主――宮本茂と「ドンキーコング」
第3章 マリオの喧嘩――対ユニバーサル訴訟
第4章 マリオの旅立ち――1983年のビデオゲーム大恐慌
第5章 マリオの島――日本とファミコン
第6章 マリオの陽光――「スーパーマリオブラザーズ」とNES
第7章 マリオの爆弾――「ザ・ロスト・レベルズ」
第8章 マリオのスマッシュヒット――「スーパーマリオブラザーズ3」
第9章 マリオの兄弟――NESとゲームボーイ
第10章 マリオのライバル――セガを救ったハリネズミ
第11章 マリオの対決――ソニック VS. マリオ
第12章 マリオの銀河――スピンオフの嵐
第13章 マリオのクレヨン――「マリオペイント」
第14章 マリオのアドバンス――ソニーとの短い蜜月
第15章 マリオのカート(リッジ)――バーチャルボーイと3Dの夜明け
第16章 マリオの世界――NINTENDO64
第17章 マリオの通信キット――64DD
第18章 マリオの大乱闘――ゲームキューブ
第19章 マリオのタイムマシン――ゲームボーイアドバンス
第20章 マリオのサーガ――@光と影
第21章 マリオの革命――ニンテンドーDS
第22章 マリオのプリンセス――Wii
第23章 マリオのパーティ――3DS、あるいは任天堂の歴史における3日間
第24章 マリオの伝説――任天堂の未来

そう、一冊まるまるスーパーマリオについて書かれてる本なのだ。
“なぜ任天堂「だけ」がアメリカで成功できたのか?”ってオビに書いてある。でも、そのへんを期待して読む人よりも、ゲームタイトルが出てくると興奮してしまうタイプのゲームマニア向けのみなさんにオススメしたい。
著者ジェフ・ライアンは、エンターテインメントニュースサイト「Katrillion.com」の編集者として活躍、500本以上のゲームソフトをレビューしたゲームマニア。
マリオ誕生のエピソードから、マリオの未来まで、がっつりマリオだらけ。しかも視点がアメリカサイドなので、新鮮なエピソードがいっぱいである。アメリカ視点で見るマリオの歴史が語られる(なので、え、日本で知られてるのとちょっと違うなーってところもちらほらあるが、そのへんも含めて楽しめる)。

さて、大ヒットした「ドンキーコング」は、映画会社ユニバーサルから訴えられる。映画『キングコング』のキャラクターを不法使用している、と。
任天堂は、さっさと金を払ってけりをつけようと考える。だが、ニンテンドーオブアメリカの弁護士は、戦うことを決意する。
このあたりの訴訟戦争は、「第3章マリオの喧嘩」で詳しく描かれる。
結論だけを書くと、数年間続いた訴訟合戦は、任天堂の大勝利となる。
そして、裁判を担当した弁護士にはヨットが贈られる。ドンキーコング号と名づけられ、「ヨットにその名を使用する全世界での独占権」が与えられる。
その弁護士の名は、ジョン・カービィという。
“1992年、任天堂は小さなピンクのフワフワしたボールが活躍する人気ゲームシリーズを発売する。そのボールの名前は―「カービィ」だ”(米光一成)