サラ・ウェイン・キャリーズ。1977年6月1日アメリカ・イリノイ州出身。大学教授の両親のもとに生まれ、1歳の時にハワイのホノルルへ引っ越す。高校卒業後にハノーバーのダートマス大学で学ぶ傍ら演劇にも携わり、Denver's National Theater Conservatoryで学んだ後、2003年にテレビドラマで女優デビュー。テレビ、映画、舞台などで活躍し、2006年ゴールデン・グローブ賞作品賞(ドラマ・テレビ・シリーズ部門)ノミネート作品『プリズン・ブレイク』のサラ・タンクレディ医師役でブレイクを果たした

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「ゴメンナサイ、チョットマッテクダサイ、タベマショウ、オハヨウゴザイマス」

話せる日本語はこの4つだけ、というサラ・ウェイン・キャリーズさんは、海外ドラマ「プリズン・ブレイク」のサラ・タンクレディ役でブレイク。今回日本でもリリースされる「ウォーキング・デッド」(DVD)で、ヒロインのローリ・グライムスを演じている。

「ウォーキング・デッド」は、全米で視聴者数の記録を塗り替えるほどの大ヒットを飛ばしたテレビドラマ。まあ日本に入ってくるくらいだから人気があるのは普通でしょ、と思うかもしれないけど、普通じゃないところがひとつある。それはゾンビだ。歩く死体”ウォーカー”(つまりゾンビ)によってスーパーや病院どころか警察や軍隊さえも停止した世界で人間が生き抜いていくサバイバルドラマなので、画面にウォーカーがバンバン映る。大作映画かと思うくらいに特殊メイクもバッチリだ。サラさんに、撮影現場にもウォーカーがたくさんいますよね、ゾンビ映画大好きなんでうらやましいです、と伝えた。

「私はウォーカーが本当に怖くて。夢にまで出てきて、一時期はずっとうなされてました。最初は私がウォーカーを怖がっていることがスタッフの間で噂になっていて、ウォーカー役の人がわざわざ驚かしにきていたんですよ。アンディとジョンが「彼女は本気で怖がってるから」と全員に言ってくれて、ようやくやめてもらえたんです」

アンディとジョンは、主人公のリック・グライムスを演じるアンドリュー・リンカーンと、リックの親友のシェーン・ウォルシュを演じるジョン・バーンサルのことだ。私なら後ろからこっそり近づくウォーカーを想像すると心が和むけど、怖い人にとってはたまったもんじゃないだろう。ただ、シーズン1の撮影開始は2010年5月。2年近くの撮影してきて、そろそろ慣れてきたか聞いてみた。

「まだ怖いですね…。だけど撮影の合間にタバコを吸いながら雑誌をぺらぺらめくってるウォーカーも見てますから、さすがに前よりは慣れてきました」

ゾンビもりだくさんのテレビドラマという、ゾンビファンなら誰もが夢に見つつも諦めていた企画を通したのは、「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」「ミスト」で有名なフランク・ダラボン監督。シーズン1の製作総指揮と、第一話では脚本と監督も担当している。撮影現場の様子から話を聞いてみた。

「撮影現場には、自分の出番になる前から見学に行っていました。フランクが何を伝えようとしているのか知りたかったからです。印象的だったのは、残酷なシーンがたくさんあったことですね。ウォーカーになった少女の額を銃で撃ち抜くシーン、ウォーカーのふりをするためにミンチにしたウォーカーを身体に塗り付けるシーン、ウォーカーに噛まれて死んだ夫の頭に妻が斧を叩きつけるシーン…」

テレビドラマとは思えないくらいにリアルな残酷シーンの数々も、『ウォーキング・デッド』の魅力の一つだ。残酷な世界で起きている事実からカメラは目を逸らさない。「ゾンビをやるならこれは譲れない」というダラボン監督の気迫をビンビン感じる。しかしサラさんは違うものを感じていた。

「それを見て、ウォーカーが残酷で醜い部分を象徴しているとしたら、私たち生存者は人間としての良い部分を強く打ち出さないとバランスが取れないと思いました。だから自分も役者として、希望や愛情、情熱を思う存分打ち出していこうと考えたんです。もちろんフランクは最初からそれをイメージしていたはずです。でも私たちが自分で気づくまで待っていてくれた。そうやってキャストを信用してくれるところが、フランクのすばらしいところです」

サラさん演じるローリは、生存者グループのリーダーとなる保安官のリック・グライムスの妻。危険を顧みずに他人を助けに行こうとする夫に「なぜあなたが行かなくちゃいけないの? 納得させて!」と詰め寄る強い女性だ。ただしそれだけではなく、変わり果てた世界から息子のカールを必死に守る優しさ、夫のリックが死んだと聞かされて親友のシェーンに身を任せてしまう弱さも持っている。

「ローリの行動原理はとてもシンプルです。何としてでも息子を守ること。息子と一緒に生き抜こうとして今まで自分でも気づいてなかった強さを見出していくけど、自分自身のことになると脆くて弱いんですね。だから、本当は弱くても息子のためには強くなれる女性だと思います」

ローリとシェーンのラブシーンについてはヒロインの不倫シーンに慣れていないアメリカのゾンビファンの間でも賛否両論があって、イベントなどで何故かサラさんに文句をいう人もいたそうだ。いやー、でもローリとシェーンは幼いカールを共に守っていくつもりだったんですよね?

「二人の関係を肯定的に見てもらえて嬉しいですけど、それは違うと思いますね。ローリとシェーンは、多くのものを失って、たくさんの死を見て、いろんな感情に一度に襲われました。そして少しの間でも美しいものや気持ちがあたたかくなるものに触れていたいという気持ちから関係を始めたんだと思います。それが続いていたのは、息子を守るためというのもあるけれど、リックもローリもシェーンも、お互いに子供の頃から親友で、信頼し合っていたからです」

なるほど。でも、リックが帰ってきてからは次第に険悪なかんじになっていきますね。

「非常事態を経験してシェーンが変わってしまったからです。もちろん彼だけではなくて、生存者全員が変わっていきます。ローリも自分がそれまでに気付いていなかった本質を発見して、特にシーズン2では、ウォーカーだけでなく人間に対してもより残忍になれるし、より人間味をもって暖かく接することもできるようになります。変化というより成長ですね」

アメリカでは既にシーズン2の前半、第8話までが放映されており、シーズン3の制作も決定している。今回日本でDVDが出るのはシーズン1だが、このままの勢いでシーズン2の話も少しだけ聞いてみた。

「人間の思い出が解釈によって変わることを描いています。振り返ったときの感情で、記憶の中にある過去の出来事は変わってしまう。このことがきっかけで、ローリとシェーンの関係はより危険な状態になっていきます。あとは、こんな世の中で子供と共に生きていく意味はあるのか、という問いかけられるシーンもありますね。生きていくことがあまりに過酷になったときに、どのタイミングで自分と子供をこの世の中から無くすのか」

私だったら自分がウォーカーになるのも悪くないかな、と思うんですが、サラさんならどんなウォーカーになると思いますか? と尋ねると、首を振って

「まったく想像もできないです!」

と言われてしまった。では、サラさんなら生存者としてどのように生き抜いていくのだろうか。

「私にも子供がいるので、たぶんローリと似たような行動を取ると思いますね。世界中に火をつけてでも我が子を守り通します。ただ、先程言った、この世から去るタイミング。これについてはローリと違う選択をするかもしれないですね。いずれにせよ、『ウォーキング・デッド』がドラマで、自分の生活でないことにはすごく感謝しています」

『ウォーキング・デッド』は文明が崩壊した世界の話だ。街に人影は無く、ガラスが割れた建物や道に転がるゴミだけが残された荒涼とした光景が続く。確かに自分の生活ではないけれど、震災のときにテレビで観た光景と結び付けずに観ることは難しかった。荒廃した世界で生き抜く女性を演じた経験から、人間が困難に負けず立ち向かうために必要なものを聞いてみると、「good point」とつぶやいて、じっくりと考えながら答えてくれた。

「災害が起きているまさにその瞬間は、困っている人や弱いものを守らなければならないという人間の強さが出ますね。アメリカでも9・11(2001年に起こったアメリカ同時多発テロ)のときには会社からヒールで逃げている女性たちに無償で靴を配った人がいました。みんな心がオープンになるんです。だけどその瞬間が過ぎて、我に返る余裕ができたときが大変なんじゃないでしょうか。一息ついたときにふと振り返ると、そのときの恐怖や痛みが思い出してしまう。それを発散できない限り、毒のように内側に残り続けてしまいます」

発散するにはどうしたらよいと思いますか?

「どんな国のどんな文化でも、9・11や3・11(東日本大震災)のような大きな災害の経験は非常に限られています。だから、そのような出来事に遭遇したときに受けるストレスへの対処方法はまだ確立されていません。人間って、自分は強いからすぐに元の生活に戻れると考えてしまいがちなんですね。ただ、実際には平常心を取り戻すためには長い時間がかかりますから、気長に、温かい目で、その状況と付き合っていく必要があると思います」

長くても二時間で終わるゾンビ映画とは違って、「ウォーキング・デッド」はまだ続いている。全部吹っ飛ばしてくれる爆弾もすべてを鎮圧してくれる軍隊も無く、生存者たちは自分達の力でショックから立ち直って、変わり果てた世界で生きていかなければならない。いきなりゾンビに襲われても、他の人に自分の選択を責められても、あきらめずに自分の運命と付き合っていくローリ達の姿を見届けていきたい。シーズン1日本版は、2月3日にレンタル開始、2月24日にDVD、ブルーレイ・ボックスが発売予定です!(tk_zombie)