伝説の舞台を見逃すな!「第三舞台」の封印解除&解散公演『深呼吸する惑星』
「解散するんだって!」と聞いた途端、ソワソワし始めるのはどうにも気恥ずかしいものです。だって、“限定品”や閉店セールに飛びつくおばさんみたいというか何というか。長年のファンを押しのけて、にわかファンが……というのも気が引けます。でも、これで最後かと思うと、諦めきれず。行ってまいりました、「第三舞台」の封印解除&解散公演。
劇作家の鴻上尚史さん率いる劇団「第三舞台」は1980年代の“小劇場演劇ブーム”をけん引。2001年の20周年記念公演を最後に活動停止状態にありましたが、今回の新作公演『深呼吸する惑星』で封印を解除、そして解散することに。チケットは即完売。すぐに追加公演も発表されましたが、こちらもあっという間に売り切れていました。
『深呼吸する惑星』は葬儀でのワンシーンから始まります。送迎のバスを待ちながら、「死んだらブログはどうなるのかな」「Twitterは家族からの連絡があればアカウントを停止するらしいけどね」といった会話を繰り広げる男女。そして徒然、舞台はSF世界に転換。ある若者のブログ小説<深呼吸する惑星>のストーリーが“劇中劇”として展開します。
舞台は一転、銀河系の果てにある惑星アルテア65に変わります。この惑星には他星の侵略から守るという大義名分のもと、地球連邦軍が駐留。表向きは友好関係にあるアルテア人と地球人。しかし、地球からの視察を歓待する準備を進める中で、不穏な気配がちらつきます。アルテア人の首相(小須田康人)と、地球連邦軍の仲井戸大尉(大高洋夫)は対立。地球から派遣されてきた研究員・桜木(長野里美)はアルテア65における地球人兵士だけが悩まされるリアルな幻影の原因を突き止められずに悩んでいます。
西田の世話係は“全身整形”で地球人のような容姿を手に入れたというアルテア人・西田(山下裕子)で、その息子で地球人とのハーフであるギンガ(高橋一生)、謎の女レイ(筒井真理子)、記憶喪失の男トガシ(筧利夫)と、いずれもひと癖もふた癖もありそうな人物が次々と登場します。物語の設定も人間関係もかなり複雑。ポンポン飛び交うギャグの応酬にくすくす笑い、シリアスなセリフにハッとさせられる。緊張と弛緩の連打。そして、次第に登場人物たちの過去が見えてきます。
研究員・桜木は当初、かつて夫だった仲井戸大尉の幻覚に悩まされています。でも、あるとき、幻覚の中身が変わります。元夫に代わって登場するのは学生時代の男友達。映画研究会の仲間だった橘(高橋一生)と神崎(筧利夫)は無邪気に夢を語り、変わらぬ友情を口にします。
その幻覚は私にとっても、ひどく懐かしい光景でした。何をするでもなく部室に集まり、じゃれあって、夜になると飲みに行き、ゲラゲラ笑いながら朝を迎える。恋愛のすったもんだも今思えば、レジャーの範疇内で、なんだかかんだありながらもつるんでいた。あの時間が永遠に続くとも思っていなかったけれど、気づけばだいぶ遠くに来てしまったなあと、「幻覚が若作りしてるってどうよ!?」とツッコまれる筧利夫を見ながら思うわけです。21歳の私は自分が「えー、21歳!! 若いねえ。干支いくつ?」なんて言う側に回るなんて思ってもみませんでした。
「3人のうち、誰かがここから飛び降りたくなるようなことがあったら、そのときはどこにいても必ず駆けつけよう」と言いながら、誰よりも先に命を絶った橘。その死の原因を作った神崎が「ああ」と応じる。でも、それ以上にたまらない気持ちになったのは、桜木が「忘れていてごめん……」と謝るシーンです。
あまりにもしんどいと一時的に記憶の底にしまったつもりが、ぽっかり抜け落ちてしまうことがあります。以前、ありました。完全に忘れているわけではないんです。でも、そういえば、最近思い出すこともなくなっていたよね。ごめん……なんてことを思っていたら、涙腺がドカーンと決壊。腹の底から得体のしれないものがぶわーっと噴きあげてくる。なんだ、なんだ、なんだ。一人で行ったので、同行者にどん引きされる心配はないけれど、それにしても涙が止まらん。その感覚は例えて言うなら、開けるつもりがない扉を開けられちゃった…というか、脱ぐつもりがなかったパンツを脱がされちゃったみたいな感じ。第三舞台すげぇなあ。
鴻上さんの舞台公演では毎回、「ごあいさつ」が配られます。大学ノートに独特の丸っこい文字でびっしり手書きされた鴻上さんの直筆メッセージのコピー。その中にこんな一文がありました。
「その人のことをどれだけ思うかは、会った回数ではないと思っています。なんというか、その人が僕自身に与えてくれた影響や情報、そして感情が、その人の存在の重さを決めるのだと感じます」
鴻上さんによれば、スタッフとキャストが力をあわせて作り上げるのが第一舞台。観客席が第二舞台。そして、これらが共有する“幻の舞台”が第三舞台だとか。あの日、そこには確かに第三舞台がありました。
第三舞台の封印解除&解散公演『深呼吸する惑星』は2月4日(土)夜9時からWOWOWライブで独占放送。
(島影真奈美)
劇作家の鴻上尚史さん率いる劇団「第三舞台」は1980年代の“小劇場演劇ブーム”をけん引。2001年の20周年記念公演を最後に活動停止状態にありましたが、今回の新作公演『深呼吸する惑星』で封印を解除、そして解散することに。チケットは即完売。すぐに追加公演も発表されましたが、こちらもあっという間に売り切れていました。
舞台は一転、銀河系の果てにある惑星アルテア65に変わります。この惑星には他星の侵略から守るという大義名分のもと、地球連邦軍が駐留。表向きは友好関係にあるアルテア人と地球人。しかし、地球からの視察を歓待する準備を進める中で、不穏な気配がちらつきます。アルテア人の首相(小須田康人)と、地球連邦軍の仲井戸大尉(大高洋夫)は対立。地球から派遣されてきた研究員・桜木(長野里美)はアルテア65における地球人兵士だけが悩まされるリアルな幻影の原因を突き止められずに悩んでいます。
西田の世話係は“全身整形”で地球人のような容姿を手に入れたというアルテア人・西田(山下裕子)で、その息子で地球人とのハーフであるギンガ(高橋一生)、謎の女レイ(筒井真理子)、記憶喪失の男トガシ(筧利夫)と、いずれもひと癖もふた癖もありそうな人物が次々と登場します。物語の設定も人間関係もかなり複雑。ポンポン飛び交うギャグの応酬にくすくす笑い、シリアスなセリフにハッとさせられる。緊張と弛緩の連打。そして、次第に登場人物たちの過去が見えてきます。
研究員・桜木は当初、かつて夫だった仲井戸大尉の幻覚に悩まされています。でも、あるとき、幻覚の中身が変わります。元夫に代わって登場するのは学生時代の男友達。映画研究会の仲間だった橘(高橋一生)と神崎(筧利夫)は無邪気に夢を語り、変わらぬ友情を口にします。
その幻覚は私にとっても、ひどく懐かしい光景でした。何をするでもなく部室に集まり、じゃれあって、夜になると飲みに行き、ゲラゲラ笑いながら朝を迎える。恋愛のすったもんだも今思えば、レジャーの範疇内で、なんだかかんだありながらもつるんでいた。あの時間が永遠に続くとも思っていなかったけれど、気づけばだいぶ遠くに来てしまったなあと、「幻覚が若作りしてるってどうよ!?」とツッコまれる筧利夫を見ながら思うわけです。21歳の私は自分が「えー、21歳!! 若いねえ。干支いくつ?」なんて言う側に回るなんて思ってもみませんでした。
「3人のうち、誰かがここから飛び降りたくなるようなことがあったら、そのときはどこにいても必ず駆けつけよう」と言いながら、誰よりも先に命を絶った橘。その死の原因を作った神崎が「ああ」と応じる。でも、それ以上にたまらない気持ちになったのは、桜木が「忘れていてごめん……」と謝るシーンです。
あまりにもしんどいと一時的に記憶の底にしまったつもりが、ぽっかり抜け落ちてしまうことがあります。以前、ありました。完全に忘れているわけではないんです。でも、そういえば、最近思い出すこともなくなっていたよね。ごめん……なんてことを思っていたら、涙腺がドカーンと決壊。腹の底から得体のしれないものがぶわーっと噴きあげてくる。なんだ、なんだ、なんだ。一人で行ったので、同行者にどん引きされる心配はないけれど、それにしても涙が止まらん。その感覚は例えて言うなら、開けるつもりがない扉を開けられちゃった…というか、脱ぐつもりがなかったパンツを脱がされちゃったみたいな感じ。第三舞台すげぇなあ。
鴻上さんの舞台公演では毎回、「ごあいさつ」が配られます。大学ノートに独特の丸っこい文字でびっしり手書きされた鴻上さんの直筆メッセージのコピー。その中にこんな一文がありました。
「その人のことをどれだけ思うかは、会った回数ではないと思っています。なんというか、その人が僕自身に与えてくれた影響や情報、そして感情が、その人の存在の重さを決めるのだと感じます」
鴻上さんによれば、スタッフとキャストが力をあわせて作り上げるのが第一舞台。観客席が第二舞台。そして、これらが共有する“幻の舞台”が第三舞台だとか。あの日、そこには確かに第三舞台がありました。
第三舞台の封印解除&解散公演『深呼吸する惑星』は2月4日(土)夜9時からWOWOWライブで独占放送。
(島影真奈美)