月刊スピリッツで連載中。全編にわたって食べまくりです。
現在発売中の月刊スピリッツではコラボ企画でグラビアアイドルが食べるだけの写真も

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またもや素晴らしい才能を持った方が料理漫画界に登場いたしました。高田サンコさんです。昨年の11月30日に1巻が発売された『たべるダケ』でデビューされたのですが、何とデビュー前は栄養士だったそうです。コミックスの帯に「元栄養士の新鋭漫画家…その知識をドブに捨て執筆!」とか書かれちゃっていますが(なんでそうなのかは後述します)。

さて、その「たべるダケ」なのですが、これがすごいんです。ごくごく簡単にストーリーを説明しますと……

1:悩める人がいる
2:その人の前に謎の女の子が登場する
3:どうやらその女の子はとてもお腹が空いているようだ
4:ご飯をおごる
5:食べる
6:解散

いやまあ全ての話がそういうお話というわけじゃないんですが、だいたいこんな感じなのです。だから「たべるダケ」。でも、これがとてもいいんです。

主人公(?)の女の子は単行本1巻分のお話が経過した今でも名前すらわかりません。一応名乗っているっぽいところがあるような感じなのですが、本当に名前なのかわかりづらいコマがあるだけです。わかるのは、ただいつもお腹を空かせているということと、その素敵な食べっぷりだけなのです。

この女の子は本当に幸せそうにご飯を食べます。普段はほとんど台詞は無いけれども「いただきます!」は全力で。そして、ご飯を食べるときもご飯に集中します。一口ご飯を食べるとうれしそうに目を細め、頬は上気し、目尻は下がり、そして目がうるんでいくのです。その官能的な表情は、心底ご飯を食べることが好きなんだなということが伝わってきて、見る人を幸せな気分にさせます。

あとはもう脇目もふらずに食べる! 食べる! 食べる!
その勢いは見ている周りの人を惹きつけてやみません。一緒に食べている人はすべからく感化され、いつの間にか同じ勢いでご飯を食べるのです。

そして、「ごちそうさま」の後には「ふぅ……」と一息ついて去って行くのです。また会いましょうとかそういう会話は一切無し。潔いですね。

料理漫画で食べることがテーマの作品はいくつかあります。例えば『喰いしん坊!』や『大食い甲子園』、『てんむす』のような作品は、大食いがテーマとなっています。『おとりよせ王子飯田好実』や『駅弁ひとり旅』のような作品は、さまざまな食べ物を紹介していくという面が強いでしょう。『喰いタン』のように食べ物に対する深い蘊蓄によって謎が解かれるタイプの作品もあります。でも、『たべるダケ』はそのどのカテゴリにもあてはまりません。

大食いというほど大量に食べるわけでもないし、戦いがあるわけでもありません。実在の料理ではあるのだろうけど、どこにでもある家庭料理だったりしますので、紹介をしているわけではありません。そして、蘊蓄もなければ謎も解けないのです。そこにあるのは、ただ食べるだけ。ひたすら料理を幸せそうに食べるという今までに無いジャンルの料理漫画なのです。

いったいこの娘は何を食べているのでしょうか。今までの説明だと、ごく普通の、それこそファーストフードとかで軽く奢られたりとか、家庭の夕食にお邪魔してご一緒するとか、そんな感じに思えるかもしれません。でも、この娘はわりととんでもないものを食べているのです。

その証拠に本来の各話のタイトルではなく、帯に掲載されている収録のお献立を少しだけ引用しましょう。

就活男子のスタミナ丼
お留守番の子どものハンバーグ
失恋男子とお花見団子
不倫おじさんの愛妻(!?)弁当
恋する彼女と甘いケーキ
ギャンブラーの手打ちうどん
野良猫と屋台のもつ煮




本当に何を食べているのでしょう。例えば「お留守番の子どものハンバーグ」では、お留守番をしている家に勝手に(?)あがりこみ、その子どもにハンバーグを作らせます。そう、この娘は手伝いはするものの、自分から作るわけではありません。小さい子どもに無理矢理ハンバーグを作らせ、しかもそれを食べ尽くしてしまうのです。なんてひどいんでしょうか。いや、まあ、最後には子どももノリノリになるのですけれども。

そんな彼女に対するツッコミページが、単行本のおまけページとして存在する「作者とうめの栄養指導室」コーナーです。ここでは「あのムスメ」(と作者達は読んでいます)が何を食べたのか、作者と野良猫の「うめ」とでツッコミを入れているのですね。何を食べたのかの推定カロリーや、タンパク質、脂質、野菜などの栄養バランスについて適切なツッコミが入れられています。そう! ここに作者の元栄養士という肩書きが生きているのですね! まあ、ドブに捨て……とか帯に書かれちゃっているぐらい、あのムスメの栄養バランスは惨憺たるものだったりすることもあるのですが、その辺は皆様自身の目でご確認ください。

ちなみにこの作品は第66回小学館新人コミック大賞に入選しています。その入選作品はこちらからも読むことができますが、単行本にも収録されています。投稿作の時から絵がとても上手い! 入選をとったものがそのまま連載になったということが、よくわかります。お試し代わりに、是非読んでみてください。

もし実際に「あのムスメ」が目の前に現れたら……よくわからないまま、きっとご飯を奢ってしまうでしょう。お気に入りのあのお店やこのお店に連れていきたいですね。
(杉村 啓)