JR秋葉原駅近くに2011年9月にオープンした「AKB48カフェ&ショップ」。カフェエリアには連日、ファンたちが行列をつくるほどの盛況ぶりを見せている

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昨年の頭、ぼくが自分のなかで掲げたテーマは「聖地巡礼」だった。その前年は新書を一冊書くのにかかりっきりであまり出かけるなかったので(お金もなかったし)、2011年はできるだけいろんなところに行こうと目標を立てたのだ。もっとも「聖地巡礼」といっても、ぼくの掲げたそれは、宗教的な聖地でも、最近よくいわれるところのアニメ作品の舞台となった土地をまわることでもない。以下にあげた10カ所は、ぼくが2011年中に出かけた場所のなかから、以前から行きたかった場所、リスペクトする人物ゆかりの施設など、あくまで自分の価値基準にしたがい「聖地」として選んだものである。この点、あらかじめお断りしておく。

■10位 船の科学館
昨年の9月いっぱいで一時休館するというので、駆けこみで見学してきた。そのときのレポートはこちら。船の科学館については、エキレビ!に拙記事がUPされたのち、「タモリ倶楽部」でも特集が組まれていたが、公開終了直前の青函連絡船「羊蹄丸」の船底にまで潜入していたのはさすがであった。
なお、羊蹄丸は譲渡先を募集した末、愛媛県新居浜市へ移されることが決まった。今年中にも新居浜東港で一般公開される予定だとか。もっとも譲渡先の「えひめ東予シップリサイクル研究会」が羊蹄丸を引き取るのは、大型船舶の解撤およびリサイクルの研究・開発が目的だというので、この公開がおそらく人々の目に触れる最後の機会になるのだろう。

■9位 放送ライブラリー
横浜・関内の横浜情報文化センター内にある、テレビ・ラジオ番組のアーカイブ施設。NHK・民放を問わず、過去の番組をまとめて見られるのは全国でもおそらくここだけ(NHKの番組にかぎるなら、NHKアーカイブスという施設があるんだけど)。昨夏、仕事関係でどうしても観ておきたかったある民放局制作のドキュメンタリー番組を視聴するため数年ぶりぐらいに出かけた。民放のドキュメンタリーなど商業的な理由からソフト化はほとんど望めないので、こういう施設はやはり貴重である。欲を言うなら、希望者にはネット配信してくれるというサービスがあったりすると、地方の人間にはありがたいのだが。賛助金を支払ってもいいので。

■8位 鉄道博物館
いうまでもなくさいたま市にあるテツの聖地。館内には、明治初年の1号機関車から、現在も上越新幹線を走る(東北新幹線では引退しちゃったけど)200系電車まで日本の鉄路を走った往年の名車がずらりと並ぶ。蒸気機関車の乗ったターンテーブル(転車台)を回転させたり、新幹線のボンネット部分から連結器を出して見せたりといったショーも行なわれていて楽しかった。また、博物館の脇を東北・上越新幹線が通っており、通過する列車を屋上などから見ることもできる。同館はトレイン・ビュースポットとしても“聖地”なのだった。

■7位 岡本太郎ゆかりの地もろもろ
昨年は画家・岡本太郎の生誕100年とあって、さまざまな催しが行なわれた。ぼくも大阪に出張した際、万博記念公園のEXPO'70パビリオンに期間限定で展示された「太陽の塔」の“初代・黄金の顔”など、太郎作品やゆかりの地をいくつか観てきた(そのときのレポートはこちら)。昨年はまた東京・青山の岡本太郎記念館にも初めて訪れた。太郎のアトリエ兼住居だった室内や庭に置かれた太郎の彫刻やオブジェに、来館した子供たちがはしゃいでいるのが印象的だった。

■6位 国立民族学博物館
7位でもとりあげた大阪の万博記念公園内にある博物館。通称・民博。万博公園にはこれまでに何度か来たことがあるのだが、民博はそのたびに休館日だったりでなかなか見学できなかったのだ。ぼくが行ったときに開催されていた、民博の初代館長・梅棹忠夫の回顧展「ウメサオタダオ展」(現在、東京の日本科学未来館に巡回中)も、若き日の梅棹が小栗旬似のイケメンだったことなど色々と発見があって面白かった。だが、何といっても圧巻だったのは常設展示である。世界各地から集められた民族用品がこれでもかと並べられていて、ひととおり観て回るだけでも3時間近くかかった。
展示は地域ごとに分けられているほか、音楽や言語といった分野別の展示室もある。言語の展示室では、昔話「桃太郎」の朗読が日本の各地方の方言ごとに聴けるというコーナーがあり、これがなかなか面白い。東京や大阪などに関しては世代による方言の違いを示すため、現代の若者による朗読も収録されているのだが、とくに大阪弁の女の子による「桃太郎」には萌えますた!

■5位 小林一三記念館
阪急・東宝グループの創業者である小林一三の旧自邸の敷地内(大阪府池田市)に建てられた施設。旧自邸に隣接する白梅館では小林に多岐におよぶ業績が一覧できる。沿線の分譲住宅やターミナルデパートといった日本独特の私鉄経営を創り出すとともに、宝塚歌劇団、映画会社、プロ野球球団を立ち上げるなど文化・娯楽事業でも成功を収め、さらには戦前には商工大臣(現・経済産業大臣)、終戦直後には復興院総裁を務めるなど政界にも足跡を残した小林には、いまの孫正義や渡邉恒雄や秋元康あたりが束になってかかってもかなわないかもしれない。
雅俗山荘と名づけられた旧小林邸は、以前は小林の蒐集した美術品や茶道具を展示する「逸翁美術館」として使われていたが、同美術館が数年前に少し離れた場所へ移転したのにともない、かつての状態を復元するかたちでリニューアルオープンした。和洋折衷の豪華な邸宅は戦前に建てられたものだが、ユニットバスがあったのには驚いた。

■4位 オオサンショウウオ生息地
4位から2位はすでにエキレビ!でレポートしている場所ばかりなので、手短に。愛知県瀬戸市での「日本オオサンショウウオの会 瀬戸市大会」(昨年10月開催。レポートはこちら)の一環として行なわれた現地観察会で、初めて野生のオオサンショウウオを目にした。地元・愛知にも特別天然記念物がいるんだ! と大興奮。

■3位 リニア・鉄道館
愛知県および鉄道関連の聖地からもうひとつ。名古屋市の金城ふ頭に昨年オープンしたリニア・鉄道館。館内には東海道新幹線の歴代車両などが並び、ノスタルジーにしみじみ浸ってしまった(レポート前編/後編)。なお、このミュージアムでも展示されている新幹線100系と300系はいずれも今年3月17日のダイヤ改正により現役から引退する。乗るならいまのうちです。

■2位 川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム
レポートでも書いたけど、館内の随所に工夫が凝らされていることにとにかく感動した。一つ欲を言えば、相方の藤子不二雄(A)先生に関する展示ももっと見たかったところだけど。

■1位 AKB48劇場および関連聖地群
2011年を悲願のレコード大賞受賞で締めくくったAKB48。このほか、結成以来6年にわたるAKB48劇場での公演を一挙に再演するという企画「見逃した君たちへ〜AKB48グループ全公演〜」をTOKYO DOME CITY HALLで行なったことといい、昨年はAKB48にとってひとつの区切りをつけた年との印象がある。
個人的にも2011年は、AKB48ほかその姉妹グループであるSKE48にズブズブと深入りしていった一年となった。年明け早々、SKE48の本拠地である名古屋・栄のSKE48劇場(SUNSHINE SAKAE 2階)での公演を観たのを手始めに、夏には前出の「見逃した君たちへ」に続き、AKBのホームグラウンド、ドン・キホーテ秋葉原店の8階にあるAKB48劇場で公演を観る機会にも恵まれた。アキバのドンキにはその4年ほど前にも来たことがあるのだけれど、そのときとは店内の様相が一変していて驚いた。以前来店したときすでにAKB劇場はオープンしていたはずだが、劇場の存在を示すものは少なくともその階下には皆無だった。それがいまでは、入口からエスカレーター、各フロアにいたるまであらゆるところにAKBのメンバーの写真が掲示されるなど、いわばドン・キホーテのビル全体がAKB劇場のエントランスのようになっている。
思えば、AKB48は秋葉原という街のイメージに乗っかる形で出てきたはずなのに、いまや両者の関係はある面で逆転しているともいえる。昨年末にはつんく♂のプロデューサーするアイドル育成カフェがオープンするなど、その手のスポットが秋葉原には続々と現れ、アイドルの聖地という趣きを呈している。
前出の小林一三はほぼ100年前に、ひなびた温泉地にすぎなかった兵庫・宝塚で少女歌劇を始めた。その人気が高まるとともに、松竹少女歌劇団(SSKD)などのライバルグループも現れ、少女歌劇は日本独自の文化ジャンルとして確立されてゆく。いまや宝塚といえば(全国的に見れば)、関西の地名というより歌劇団を連想する人のほうが多いはずである。地域性から離れてイメージが独り歩きしていくという宝塚歌劇のたどった道を、いままさにAKBも歩みつつあるようだ。
ちなみに、つくばエクスプレス(TX)の起点である秋葉原駅のターミナルビルは、「TX秋葉原阪急ビル」という名称が示すとおり阪急グループが経営している。小林一三が20世紀初めに編み出した鉄道ターミナルを中心とする都市開発・文化戦略の手法は、21世紀の秋葉原において新たな形で継承されていると見ていいだろう(このことは近藤正高という人が4年前に出した本『私鉄探検』のなかですでに指摘していた。何という慧眼)。
昨年秋には、AKB48劇場とはべつにJR秋葉原駅の電気街口近くにAKB48カフェ&ショップがオープンした。カフェ内には予約制のシアターが設けられ、食事とともに劇場での公演の映像(ただし録画)などを楽しむことができる。ぼくもオープンからしばらくして友人と行ってきたのだが、ワインを飲みながら(18時からはアルコール類も販売されている)劇場公演を観るという体験からは、ちょっとしたタニマチ気分が味わえた。
昨年中にはまた、福岡のHKT48、インドネシア・ジャカルタのJKT48と国内外で姉妹グループが活動を開始した。AKB48グループの今後の展開を予想するのは難しいが、街や地域をどう変えていくのかも含めて2012年も目が離せない。(近藤正高)