筆者にとって中国は、各地に行けば行くほど興味もネタも尽きない面白い場所です。中国では日本とは異なることに多く出会いますが、それをおもしろいと思えるか、嫌だと思うかで、中国は好きになる人と嫌いになる人とが大きく分かれる国でもあります。今回は、中国の都市、農村、国境地域等多く回った中でも筆者の印象に残る都市・東莞の裏側に関する現場体験記です。

1.白タクしかいない!

(1)東莞の白タク事情の特異性

 中国高速鉄道・和諧号で東莞駅に着いた筆者を待ち構えていた最初の洗礼は、白タクでした。中国各地の駅、空港に着くと多くの地域では、確かに白タク運転手やその手配師が待ち構えています。

 多くあるパターンとしては、白タク運転手の手配師が近寄ってきて、「どこへ行く? タクシーはこちらだ。値段はいくらだ」等と話しかけてくるもので、こちらが「高い。そんな値段では乗らない」などと言うと、値段交渉してくるものです。

 これらの中には、正規のタクシーであるものの料金メーターを倒さずに値段交渉してくるものや、値段が見合わないと考えると勝手に乗り合いタクシーにしてしまい、別の客も一緒に載せたりするタクシーもあります。しかしながら、そういった中でも料金メーターをきちんと倒す真面目なタクシーも存在するのが通常の街の光景です。

 しかし、東莞は違いました。正規のタクシー車両を使っているドライバーでさえ、全員が全員、料金メーターを倒さなかったり、乗り合いにしたりするものばかりだったのです。これは駅で待っているタクシーばかりでなく、流しのタクシーも事情は同じでした。しまいには、ホテルでタクシーを呼んでもらってさえも、正規でないタクシー(本物の白タク)を外部から呼んで来る始末でした。これは高級ホテルでも同様でした。

(2)「馬鹿野郎!」

 東莞駅のタクシー乗り場で、タクシー運転手たちに、「おかしい。料金メーターを倒さないと乗らない」と言ったところ、運転手が大勢で「馬鹿野郎!」と筆者たちを取り囲んで日本語で言ってきたのです。筆者にとってもこのような白タク事情は、初めての経験でした。東莞駅に到着早々、中国のどこの地域よりも危険な臭いがプンプンとしました。

 仕方なく比較的温厚そうに見えたドライバーを捕まえ、やむなく適当な値段で折り合いをつけホテルまで向かいました。駐在員であれば必ず会社の車に乗るべきですし、少なくとも中国語が出来ない方の場合には、誰かが迎えに来てでもくれない限り近寄るべきでない地域だと感じたものです。言わば、中国人でボディーガードとなってくれるような人や知り合いがいない限りは近寄るべき街ではないのかも知れません。日本企業が進出している街の中ではかなり特異な部類に属する街だと感じました。

 このとき筆者が強く思い起こしたのは、「駐在員にとって中国で重要なことは、自社の中国人ドライバーを味方に付けることだ」という言葉です。彼らを味方に付ければいざというときに助けてくれますが、逆に嫌われていると、いざというときに嫌がらせのため渦中に放り込まれかねないからです。

2.ゴミの街

 それでも懲りもせず、他の街に行った時と同様、現地事情に触れるべく街中を散策していたのですが、街中では家族総出でゴミの中から売れそうなものを見繕うべく溝さらいをしていたり、夜中まで子供たちがゴミ漁りをしていたりする状況でした。このように多くの場所がゴミの中にあるような異様な状況で、異様な臭いがしていました。これが小奇麗なホテルの横や、食堂の横で普通に行われている光景だったのです。

3.ホテルの中の食堂

 意気消沈しそうになっていた筆者は、ホテルの中にある中華料理店で夕食をとることにしました。通常なら地場の食堂に出かけることを旨としているのですが、そのような気も失せる状況だったのです。

 ホテルの中の食堂でも他の街とは異なる光景に出会いました。料理を運んでくる服務員(ウェイター、ウェートレス)の多くが子供だったのです。見た目で言えば、小中学生程度の子供たちでした。彼ら子供たちが、リーダーのような服務員に客の目の前での調理パフォーマンスの方法などを教わっていたのです。

 このような土地柄でとても普通に働いているように思えなかった筆者は、もしかするとどこからかさらわれて来たり、売られてきたりした子供たちなのではないかとさえ思いました。そこで、「何歳? どこから来たの?」と聞いたのですが、皆はにかんで何も話さず、質問には答えてはくれませんでした。

4.よそ者を信じない

(1)よそ者を信じない土地柄

 その他、東莞で感じたのは、彼らはよそ者を信じない土地柄だということでした。警察による摘発を多く受けているせいか、特に外国人に対する警戒心は非常に強いものがありました。通常の外国人は入り込むべき街ではなく、特に中国語が出来ない場合には、東莞を熟知した中国人の同行が必要だと感じました。

 どこへ行っても、東莞に進出している日本企業駐在員は危険と隣り合わせだな、と感じたものです。

(2)広東省公安関係者の言葉

 ある広東省公安関係者によると、「東莞は治安の悪い街であり、黒社会の人間も多いため、ピストルが多く出回っている」とのことでした。

5.魔都・東莞

 筆者は各地を訪問した際、旅行の際は当然のこと、仕事で訪問した際にも少しでも時間があれば自分自身の足で街中を散策し、現地に触れることにしています。現地で用意されている送り迎えの車に乗り、宿泊は5星ホテル、食事も地場の中国人が行かないような高級店でばかり取っていたのでは、中国現地に入り込めないのは当然のこと、真の現地事情を知ることもできないと考えるからです。したがい、仕事で中国現地を訪問したときでも、少しでも時間があれば街中に出るようにしています。

 しかしながら、東莞は中国の多くの地域とは異なる都市だと感じる部分の多い街でした。見れば見るほど、聞けば聞くほど、東莞は魔都、一般日本人は近寄るべからずと感じた現場体験記です。(執筆者:奥北秀嗣 提供:中国ビジネスヘッドライン)