■グループBで目をひく北朝鮮
 6月に入ると、いよいよ南アフリカ行きの切符をかけたレースも大詰めを迎える。まだ黒星なしで勝ち点11を獲得し、グループAの2位につけている我々の代表に関して、「油断は禁物。最後まで何が起こるかわからないのが最終予選だ」と真顔で選手や識者たちは語るが、3試合で最低でも勝ち点3を獲得すればいい。つまり3試合で1勝でもすれば決定。という現状で「もう大丈夫だろう」と感じているのは僕だけだろうか。
 次のウズベキスタン戦で決まってしまう気がするのだが。
 
 そんな筆者の楽観論はさておいて、気になるのは混戦を極めているグループBである。脱落したのは勝ち点1のUAEのみ。4国が予選突破の可能性を持っている。
 その中でももっとも有利なのは、消化試合が1試合少ない韓国だろう。勝ち点11で首位に鎮座している。6試合を終えた北朝鮮とサウジアラビアが勝ち点10で2位を争うが、4位のイランにもチャンスはある。イランは勝ち点は6にとどまっているが、消化試合が1試合少ないうえ、「死に体」のUAE戦をホームに残しており、これを取りこぼさず、韓国、北朝鮮とのアウェイ戦での結果次第ではプレーオフ出場権の3位、本大会ストレート・インの2位すら視界に入ってくるだろう。
 
 ざっとグループBの展望をしてみたが、やはり目をひくのは北朝鮮である。4月1日の韓国戦(ソウル)で敗戦するまではグループBの首位の座についていて、11大会ぶりの本大会出場に向けて将軍様もおおいに期待している。
 とのことだったが、ソウルでは0−1で惜敗を喫した。筆者はソウル・ワールドカップ競技場でこの試合を観戦した。首位決戦ということもあるが、韓国のファンが北朝鮮代表に対してどのような感情を持っているのか知りたかったからだ。

■南北対決は穏和な雰囲気 
 ちょうど“日韓シリーズ”と呼ばれたWBCが閉幕し、フィギュアスケートのキム・ヨナが浅田真央や安藤美姫を退けて女王の称号を手に入れた時期でもあり、スポーツ誌には「次はサッカーだ」「3つ目の感動を」などの見出しが踊った。相手が北朝鮮だから、というような記事は特に見当たらない。
 北朝鮮がミサイルを発射する、という報道を受けて、一部の夕刊誌に「テポドンよりもサッカー戦争だ」なんていうキャッチを発見したが、想像していた「半島の覇者は我々だ」というような強い言葉は見当たらなかった。
 
 試合は日本対オーストラリアがそうだったように、「リスクを冒して勝ち点3より、リスクの少ない勝ち点1」といった首位決戦らしい堅いゲームとなった。南軍のパク・チソン、北軍のチョン・テセにはそれぞれ厳重な警備が敷かれ、何度も見せ場を作るには至らない。
 結局、試合が動いたのは残り3分。途中出場のキム・チウが左サイドから放ったFKは、クロスのようなシュートのような軌跡を描き、ワンバウンドして直接ネットを揺らした。試合は1−0で韓国が半島決戦を制したが、“北軍”の動きも目を見張るものがあった。オープニング・シュートを放った10番のホン・ヨンジョを筆頭に、中盤のムン・イングクやチェ・グムチョルらのハードワークは十分にW杯出場に値するものだった。
 
 さて、この試合でのレッド・デビルズ=韓国代表ファンは、大声を張り上げ「テーハミング」の大合唱こそあるものの、アリランを歌ったり、ウェーブを作ってみたりと、割と温和な空気だった。
 ハーフタイムには“国民的妹”のキム・ヨナも登場し「初めてスタジアムに来ました。スケートのリンクよりずいぶん大きい会場ですね」という可愛らしい感想に、得点シーン同様(もしかしたらそれ以上)の大歓声。日韓戦では君が代の最中からブーイングが始まることを考えると、ちょっと別次元の雰囲気だ。