ストーカー加害者にGPS装着、カウンセリング義務化へ「万能の盾ではない」「装着してもやる」導入への課題を検証

今、一つの法案が動き出そうとしている。ストーカー加害者にGPS装着を義務化する規制法の改正だ。位置情報で加害者を見張り、被害者を守る。国が本格的なストーカー対策に動き出した。
相次ぐストーカー殺人事件
その引き金を引いたのは、防げたはずの命だった。2026年3月、東京・池袋の商業施設で、21歳の女性店員が元交際相手の男に果物ナイフで刺され、殺害された。男は、ストーカー規制法違反で摘発され、「もう近づきません」と誓っていた。
警察は禁止命令を出し、彼女には定期連絡による警護まで行っていた。それでも防げず、男はその場で自ら命を絶った。7月29日、被疑者死亡のまま殺人、銃刀法違反、ストーカー規制法違反の容疑で書類送検された。
その約3カ月前、茨城・水戸でも悲劇は起きていた。2025年の大晦日、自宅アパートで殺害されたのは、ネイリストの女性(当時31)。おなかには、新しい命が宿っていた。その手口からは、加害者で元交際相手の男の、異様なまでの執着が見て取れる。
「テーマパークの懸賞に当選した」そう装って、女性の実家にぬいぐるみを送りつける。その中に紛失防止タグを仕込み、女性が持ち帰ったことで自宅が特定されたとみられる。
女性は危険に気づいていた。事件の4日前、警察に相談窓口を問い合わせた。しかし、警察を訪れる前に殺害された。
政府が考える“2つのストーカー対策”
本来、人を守るはずのGPSが、加害者が居場所を突き止める道具になっていた。一連の事件で浮かび上がるのは、禁止命令や罰金では被害を止めきれないことだ。そして、被害者が動いても対応が間に合わない。それが2つの事件が残した教訓だ。
この現実が国を動かした。政府は7月28日、犯罪対策閣僚会議で緊急対策を取りまとめた。
その場で高市早苗総理は「ストーカー対策としては『被害者の保護措置の強化』と『加害者対策の強化』の両面からの対策が必要。スピード感を持って取り組みを進めるとともに、被害実態に即した対策をアップデートする。これを不断に行っていただきたい」と求めた。
柱は大きく2つ。1つ目はGPSで、近づけばリアルタイムで被害者へ通知が届く仕組みなどを検討している。2つ目は加害者へのカウンセリング受診の義務付けで、「監視」だけでなく、執着や衝動そのものを断つ更生の仕組みだ。
今は警察が受診を促すだけ。しかも、その受診率はわずか5.6%にとどまる(2024年、警察庁)。中でも、政府が“切り札”として挙げるのが「GPS装着の義務化」だ。海外はすでに装着へ踏み込んでいる。
韓国では再犯率が激減、一方で専門家は…
韓国は3年前、ストーカー対策として、足首に装着するリング型GPS端末を導入した。裁判所の命令で、ストーカー加害者が足首に装着。被害者は専用アプリで加害者の位置や移動経路を把握でき、2km圏内に接近した場合は警報が鳴って、警察が即座に出動する仕組みが構築されている。
装着の期間は通常3カ月から9カ月。再犯などがなければ外れる。韓国では導入後、性犯罪の再犯率が20分の1に激減したというデータもある。
しかし、専門家はGPSを「万能の盾」とは見ていない。筑波大学人間系の原田隆之教授は、以下のような見解を示す。
「GPSを装着したら終わりではなく、24時間監視をしなきゃいけない。一番大事なのは通報。アラームが鳴った時に駆けつけなきゃいけない。アラームが鳴っても、加害者の方が先に被害者に襲いかかることになれば、何の意味もない。24時間体制で誰でも駆けつけられる体制も用意しておかなければいけない。だからものすごくマンパワーも必要。お金もかかる」
「GPSがあろうが何しようが…」
ストーカー治療を行う大石クリニックは、川崎ストーカー事件で認知度が上がり患者が倍増したという。大石雅之院長は、「GPSも悪くないけど、あまり必要ない気がする。GPSが効くのは軽症の人、多分。本当に殺人事件を起こすような人は、GPSがあろうが何しようが、やる可能性が高い」と推測する。
大石院長は、その理由として、ストーカーになりやすい人の特性を挙げる。「来る患者、来る患者、発達障害が9割。その特性のひとつとして女性に固着する。これに性嗜好障害。この2つが重なった時に女性を追い回す」。
あくまで集まった症例からの仮説であり、発達障害だから問題を起こすわけではないとした上で、「発達障害に“衝動性”という特性があり、それでやっちゃう。その時にはGPSを着けていてもやる、多分」と語った。
発達障害を持つストーカー加害者には、それを自覚してもらうことが治療への第一歩だという。「通常の集団精神療法で十分効果が出そう。発達障害であることは、自分では分からない。同類の患者さんが、他人を見て我が身を振り返る。それが効果がある」(大石院長)
人権面でも課題、「悪質」の線引きはどこ?
そして、最大の焦点。それはGPSを“どう”装着するかだ。政府案は、体に装着する“足輪”ではなく、端末を“持ち歩かせる”案が出ている。執拗に狙う加害者が果たして持ち歩くのか。
人権の壁も厚い。原田教授は「皆さん感情的に『ストーカーだから、性犯罪者だから、GPS着けろ』と言うが、『再犯をするおそれがある』おそれの段階だ。その人の『どこに移動するか?』、憲法で保障された移動の自由や、プライバシーの権利を大きく侵害する。被害者の権利を守るべき、これは当然。でも、同じように装着される人の権利も守っていかないと、法律としては非常に雑な法律になってしまう」と話す。
まだ何も起きていない段階で、誰が誰を“悪質”と判断し、GPSを着けるのか。線引きを誤れば、冤罪を生みかねない。装着が知られれば、仕事も住まいも失いかねない。社会復帰を阻み、憲法が禁じる差別に繋がるおそれもある。
原田教授はGPSの有用性についても疑問を投げかける。
「残念ながらGPSには、今のところ犯罪を抑制するというエビデンスはない。韓国の方式もGPSだけをやっているわけではない。非常に強力な指導や治療を組み合わせている。GPSが前面に出ているけれど、それだけの効果ではない」
GPS装着は、被害者の命を守ることを最優先にしつつ、実効性については、多くの問題が残されている。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
