「病気のせいで老後破産」の悲劇に陥らないために…定年前に知っておきたい“医療費のセーフティネット”【佐藤優氏が解説】
身体機能の変化や持病のリスクが高まる還暦世代。老後の人生を健康に、豊かに過ごすため、健康の維持にまつわるお金の知識は欠かせない。本稿では、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏の著書『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる〈実践・成功編〉』(飛鳥新社)から一部を抜粋・編集し、定年後の健康問題と日本の社会保障・補助金制度について解説する。
「病気のおカネ」で人生設計は“崩壊しない”--6つの背景
定年後の健康について言えば、還暦を過ぎると、誰でも多くの身体的な不調を訴えるようになる。私の場合は慢性腎臓病(CKD)だった。これが進行し、末期腎不全の状態に陥った。そして人工透析を受け、最終的には妻からの腎臓移植を受けた。
このとき、現代医学のありがたみを、まさに皮膚感覚で実感した。日本に住む定年後の人たちは、かくも高度な医療を受ける権利を有しているのだ。私の場合、腎臓移植で、いわば人体の「パーツ」を交換したら、まるでサイボーグのように元気になった。
こうした環境下にある日本人であれば、地方自治体が行う健康診断などを、必ず受診すべきだろう。さらに定期的に人間ドックに行き、自分の健康チェックをする。
病気になって人生設計が崩壊するような悲劇を誰もが防ぐことができる、それが日本の優れたところだ。だからこそ「定年後の日本人は世界一の楽園を生きる」のだ。
日本で定年後に大きな病気や介護に直面しても、直ちに人生設計が崩壊したり、老後破産したりしにくい理由として、主に「手厚い社会保障制度」と「長寿を見据えた生活・資産設計」が挙げられる。それは以下のようなものだ。
①手厚い公的医療保険制度と自己負担上限・高額療養費制度:入院や手術で医療費が月額上限額を超えた場合、超過分が払い戻される(または免除される)制度。70歳以上は自己負担上限が低く設定されており、一般的な年収(年収約370万円以下)であれば、「外来+入院」の月額上限額は、さらに抑えられる。
・高齢者医療費の自己負担割合:70歳から74歳は原則2割、75歳以上は原則1割(現役並み所得者は3割)となっており、窓口負担額が抑えられている。
②介護保険制度の充実:65歳以上の高齢者は、介護が必要になった場合、自己負担1割から3割で訪問介護や施設サービスなどの介護サービスを利用できる。介護離職などを防ぎ、家族だけで介護を抱え込まない仕組みがある。
③公的年金制度の基盤:日本の高齢者世帯の約4割以上は、所得のすべてが公的年金や恩給のみだが、それでも一定の生活水準が保障されている。これに健康保険や介護保険が組み合わさることで、病気の際にも金銭的リスクが最小限にとどめられる。
④医療・医学の発展:感染症に対する抗生物質やワクチン、心疾患やガン治療の向上により、病気にかかっても治癒・寛解する確率が向上しており、これら治療は健康保険制度で受けることができる。そのため、病気イコール即死や長期の完全寝たきりというリスクが減っている。
⑤定年後も働く「アクティブシニア」の増加:近年、65歳以上でも働いている人が過去最多になっており、仕事による収入が家計を支えるとともに、健康維持、健康寿命の延伸にも寄与している。
⑥現金・預金中心の確実な資産管理:日本の家計資産は現金・預金の割合が高く、リスク資産のウエートが小さいため、経済状況が変化した際にも、急激な資産崩壊が起きにくい傾向にある。
生活習慣病やガンのリスク…定年後は定期的な受診を
さらに日本には、充実した健康診断と人間ドックのメニューが揃っている。そのなかでも定年後の人たちが受診すべき健康診断や人間ドックは、生活習慣病の管理とガンの早期発見を主目的とするもの。特に65歳を過ぎると身体機能の変化や持病のリスクが高まるため、定期的な受診が重要となる。
具体的には、以下の健診・検査が挙げられる。
①必ず受けるべき「基本健診」(市区町村・健康保険)・特定健康診査:40歳から74歳までのすべての公的医療保険加入者が対象。生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)のチェック。
・後期高齢者医療健康診査: 75歳以上(65歳以上で1定の障碍がある人を含む)を対象とした健康診査。
②シニアが追加すべき「ガン検診」:自治体や健康保険組合が実施・助成する検診なので、積極的に利用すべきである。
・胃ガン検診:内視鏡検査(胃カメラ)が推奨される(X線検査も可)。
・大腸ガン検診:便潜血検査2日法を採用。2日間にわたって採取した便に血液が混ざっているかを調べ、大腸ガンやポリープを早期発見する検査。一日法に比べ検出率が高く、厚生労働省が大腸ガン検診の標準として推奨。
・肺ガン検診:胸部X線検査(喀痰細胞診は50歳以上で喫煙指数600以上の人)。
・前立腺ガン検診(男性):PSA(前立腺特異抗原)検査。これは、採血で血液中のPSA値を測定し、前立腺ガンの可能性を調べる高精度なスクリーニング検査。私の前立腺ガンもこの検査によって見つかった。
・乳ガン検診(女性): マンモグラフィ(40歳以上)。
③人間ドック:健康診断よりも詳しく調べるために、年1回の人間ドック受診を推奨する。特に脳や血管については留意すべきだろう。以下のオプションも検討すべきだ。
・脳ドック:頭部MRI(磁気共鳴画像)検査、あるいは頭部MRA(磁気共鳴血管撮影)検査。MRAは、MRI装置を用いて、造影剤なしで脳や血管の動脈瘤、狭窄、閉塞を立体的に撮影する検査。放射線被曝がなく、脳ドックでクモ膜下出血や脳梗塞のリスクを発見するために非常に有効。
・血管・心臓系検査:頸動脈超音波検査で、動脈硬化の程度を確認。
・骨粗鬆症検診:骨密度測定によって、転倒や骨折による要介護化を防止。
・その他:肝炎ウィルス検診、歯周疾患検診。
協会けんぽや各自治体の補助も
人間ドックへの補助は、協会けんぽや各自治体から出ることがあるため、確認して受診すると費用を抑えられる。以下、脳ドックの助成を実施している自治体の例を紹介する(2026年1月時点の情報)。
①東京都荒川区の脳ドックの助成
・補助助成対象者:下記すべての条件を満たす人。
・受診時に、40歳以上の荒川区国民健康保険または荒川区で後期高齢者医療制度の被保険者であること。
・保険料や住民税に滞納がないこと。
・前年度に荒川区の脳ドック受診費助成を受けていない人。
内容:脳ドックの受診費用の半額を助成(上限2万円)。
注意点・補足:下記は助成対象外。詳細は荒川区役所公式サイトを参照。
・保険診療となる脳検査。
・オプション検査。
・脳ドック以外の検査(人間ドック等)とセット価格になっていて、脳ドックの代金が不明の場合や領収書に内訳の記載がない場合。
②埼玉県ふじみ野市の脳ドックの助成・補助
助成対象者:国民健康保険加入者の30歳から74歳(当該年度)までで保険料の未納がない人。
内容:脳ドック検査料(消費税を除く)から5000円を控除した額を補助(上限2万5000円)。
注意点・補足:下記の通り。詳細はふじみ野市役所公式サイトを参照。
・国内であれば、ふじみ野市外の医療施設でも申請可能。
・受診日現在も国民健康保険に加入している人に限定。
・1年度に1人1回に限定。
・受診日の2週間前までに保険・年金課に申請が必要。
③大阪府高槻市の脳ドックの助成・補助
助成対象者:国民健康保険に加入している30歳から74歳まで(助成申請時)の人で、保険料の未納がない人。
内容:消費税を含めた検査費用の8割を助成(上限3万円)。
注意点・補足:以下の通り。詳細は高槻市役所公式サイトを参照。
・脳ドック、肺ドック、人間ドックを、それぞれ異なる日に受診すれば、それぞれが助成対象となる。
・同日に組み合わせて受診した場合は、合計の費用が助成の対象となる。
・同年度内に特定健診を受診した人は対象外で、脳ドックやその他のドックの助成を受けたあとに特定健診を受診することも不可。
なお、民間の生命保険に加入している人は、生命保険会社が提携している医療施設の人間ドックで、割引を受けられることがある。対象のコースや割引内容などは生命保険会社によって異なるため、加入している生命保険会社に、脳ドックの割引サービスを実施しているかどうか相談してみるべきだ。
佐藤 優
※本記事は『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる〈実践・成功編〉』(飛鳥新社)の一部を抜粋したものです。記載内容は書籍発行当時のものですので、健診や検査、補助については必ず最新情報ご自身で確認ください。

