ドイツに忍び寄る「大規模停電のリスク」に送電会社4社が緊急警告 原因は世界一バカげたエネルギー政策にあった

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ドイツの世界一バカげたエネルギー政策

20XX年冬、クリスマスシーズンのドイツに、日本から旅行に行ったとする。だが、寒くても暖房は効かず、夜にはクリスマスのイルミネーションどころか街灯もまばら。タクシーも走っていないし、スマートフォンすら満足に充電できない--アメリカ、中国に次ぐ世界第三位の経済大国ドイツで、近い将来にそんな事態が起きるかもしれないなどと、日本に住む皆さんは考えたことはあるだろうか。

ドイツは2023年4月、ウクライナ戦争でエネルギー逼迫が予想されていたにもかかわらず「脱原発」を完遂。さらに、メルケル政権(当時)が2018年に決めた「脱石炭」(法制化は2020年)で、現在、石炭火力もどんどん減らしている最中。また、ロシア制裁でロシアガスもボイコットしており、要するにエネルギーはナイナイ尽くし。それでも政府は、ドイツの電気供給は安全であると太鼓判を押している。

ところが2026年8月中旬、ドイツの送電を担う大きな送電会社4社が共同で、2030~31年の冬にブラックアウト、つまり大規模停電が起こる危険があるとして、連邦ネットワーク庁に緊急警告を発した。

連邦ネットワーク庁というのは経済省の下部組織で、電気、ガス、デジタル通信、郵便、鉄道などのネットワークを一括管理する上級官庁だ。送電会社4社は形式的には民間企業だが、電力というのは公共性が高いため、実態は半官半民で、ネットワーク庁に統括されている。

ドイツが、経済的にも物理的にも「世界一バカげたエネルギー政策(ウォール・ストリート・ジャーナル)」に励んでいることは夙(つと)に有名だが、実は、それを修正できない原因の一つが、この連邦ネットワーク庁と言われている。同庁長官のクラウス・ミュラー氏は、2021年に社民党と緑の党の連立政権が成立してまもなく、ロベルト・ハーベック経済相(緑の党)により抜擢された。ハーベック氏とは昵懇(じっこん)の仲で、もちろんミュラー氏も緑の党。

それから早5年。今や緑の党は国政与党を去り、ハーベック氏も政治の表舞台からは消え、社民党は支持率12%と没落の一途だが、なぜかミュラー氏だけは健在。本来は政治的に中立でなければならない重要ポジションにありながら、いまだに緑の党のイデオロギーを忠実に実行している。

ドイツの冬は太陽があまり照らず、その上、ヨーロッパ全土が数週間にわたって無風状態になることもしばしば。そうなると、政府が奨励している再エネは全滅に近くなる。今はまだ石炭火力があるから、どうにかなるが、このまま石炭火力を減らしていけば、電気は必ず足りなくなる。

送電会社は担当地域の隅々まで電気を届ける義務があるから、電気が足りなければ、あらゆるところからかき集めてブラックアウトを防がなければならない。しかし、いったいどこから? 彼らは緑の党のように夢を見ているわけにはいかない。つまり、ブラックアウトを防ぐためには、脱石炭計画を早急に見直すべきだというのが彼らの緊急警告の内容だった。

1基も建設されていない水素対応の新型ガス火力

ところが政府は、今でさえ冬場は電気がカツカツなのに、今年から電気自動車に購入の補助金を復活させ、暖房はヒートポンプ(電気)への切り替えを強要、さらに大量の電気を食うAIのデータセンター建設計画も変えていない。だから、再生可能エネルギーが足りないときのバックアップとして、ガス火力を50基ほど新設するという。

とはいえ、ドイツ政府は“2045年のカーボン・ニュートラル(CO2±ゼロ)”を座右の銘としている(EUの決めた目標は2050年だが、ドイツは自発的にそれを5年早めた)。つまり、これから建設するガス火力50基のうち25~40基は「水素対応の新型ガス火力」でなくてはならない。燃料はグリーン水素。

グリーン水素とは、太陽光や風力など再エネを使って水を分解して作った水素で、製造時にも、その後の燃焼時にもCO2を一切出さないという触れ込みだ。ドイツ政府は2035年~45年で全ての火力発電の燃料をグリーン水素するのだと意気込んでいる。

つまり、これから建設される「水素対応の新型ガス火力」は、最初は天然ガスを使っていても、近い将来、100%水素に移行することを義務付けられており、タービンはもちろん、他の機能も全て水素に対応できる仕様でなければならないという。

ただ実際には、「水素対応の新型ガス火力」は、まだ1基も建設されていない。ドイツには大きな電力会社が4社あるが、皆、尻込みしている。

尻込みの最大の理由は、肝心の水素の供給の目処が付いていないこと。水素を運ぶパイプライン建設も始まっていない。また、どうにか水素が調達できたとしても、価格的に採算が合わない可能性は限りなく高い。要するに、ドイツ政府のカーボン・ニュートラル計画は「絵に描いた餅」っぽい。国が経済を仕切ろうとすると、なぜか必ずこういう不思議な現象が起こる。

行き詰まるプロジェクトの数々

ドイツの電力会社はどのみち、政府やネットワーク庁のことを苦々しく思っている。緑の党や環境団体の言いなりになって原発を止めたことで、原子力発電の技術が失われようとしているばかりか、2030年、もしくは2038年までの脱石炭などという非現実的なことを法制化してしまった。

その挙げ句、今度は水素もないのに水素ガス発電? それなら、建設費用はもちろん、将来の水素の供給リスクも、国が大々的に保証しない限り建設には踏み切れないと彼らが思ったのは無理もなかった。そんなわけで連邦ネットワーク庁は、札の入らないことを恐れ、これまで入札も行えなかった。

そこで2026年7月、痺れを切らした政府は、補助金の上限額を100万kWあたり17.3万ユーロから24.4万ユーロにと大幅に引き上げ、第1回目の入札が始まった(締め切りは2026年9月8日)。ただ、もしこれがスムーズに進むとしても、運開を2030~2031年の冬に間に合わせることは不可能だ。ドイツのエネルギー政策は、大金をかけて堂々巡りしている。

実は、政府の幻の水素計画に乗って座礁中のプロジェクトは、他にもある。例えば、ドイツ最大の鉄鋼メーカーであるテュッセンクルップ社は、鉄鉱石を石炭やガスの熱で溶かす代わりに、そのまま水素で還元する「直接還元プラント」というプロジェクトに30億ユーロ(日本円で約5000億円)を投資して着手したが、このうちの20億ユーロ(日本円で約3000億円)が政府からの補助金だ。補助金給付の条件は、「グリーン水素の割合を段階的に増やし、最終的にカーボン・ニュートラルにすること」だった。

ところが今になって、水素はないわ、あっても高いわで、プロジェクトが行き詰まっている。ただ、途中でやめれば補助金は打ち切られるし、突き進めば採算が合わないという袋小路。

同じく世界最大級の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミタル社(ルクセンブルクが本社・テュッセンクルップのライバル)も、水素プロジェクトでドイツ政府より補助金13億ユーロ(日本円で約2350億円)を確保した。しかし、同社は結局、これを捨て、事業から撤退という道を選んだ。ドイツ政府は、正しいことに出資しているつもりなのだろうが、こういう挫折話は山ほどある。

世界中は脱炭素から静かに手を引き始めた

では、今後、テュッセンクルップ社はどうなるのかというと、結局、政府が折れ、規定通りに水素の割合を増やせなかったとしても、補助金は没収しないということが2026年8月になって決まった。しかし、補助金に目が眩んで非現実的なプロジェクトに飛び込んでしまった企業責任は、問われなくても良いのか? 企業の戦略ミスの尻拭いをさせられる国民はたまったものではないだろう。

そもそも政府が余計な介入さえしなければ、原発と高性能の石炭火力がつつがなく動いていたはずで、たとえロシアガスが滞っても、電気代も今ほど高騰せず、鉄鋼や化学や自動車といった重要産業が外国に逃避することもなかっただろう。

ドイツの産業用電気料金は、競争力を落とさないよう政府がかなり補助しているが、それでもEUでは最高水準。家庭用の電気料金はまさしくEUでトップだ。しかし、CO2の排出量は現在、ポーランドと並んで最高なので、何をしていることやらわからない。

ただ、緑の党と社民党は、この“世界一バカげたエネルギー政策”をそのまま進めるつもりだ。ちなみに、CO2を出さない原発を止めた理由は、「CO2フリーの原発を温存すると、それに頼りすぎて、いつまで経っても再エネ100%が達成できないから」だという。カーボン・ニュートラルと再エネ100%という自分たちの理想を達成するためなら、経済が破綻しようが、国民が苦しもうがお構いなしだ。

いずれにせよ、水素の新型火力プロジェクトも、テュッセンクルップの直接還元プラントも、さらにいうなら、フォルクスワーゲンの100%EV転換計画も、政府が極端なリベラル寄りの価値観に染まった非現実的な目標を掲げ、企業に補助金を奮発し、強硬にプッシュすることで始まった。しかし、結局は大混乱し、目的は達成できず、血税は失われる。ドイツ国民は気の毒過ぎる。いや、こういう政治家を懲りずに選ぶのだから、自業自得なのだろうか?

それどころか、さらに過激な環境NGOであるDUH(ドイツ環境支援)は、ドイツ政府がガスから水素への転換を後ろ倒しにしたことを認可すべきではないと、EUに不服申し立てをしたという(EU加盟国のエネルギーに関する決定は、欧州委員会により認可される必要がある)。

しかし、米国もそうだが、EUでも最近、多くの国が脱炭素からは静かに手を引き始めている。未だに熱心なのは、EUの欧州委員会(内閣に相当)と、ドイツ政府、そして、遠く離れた日本だけだ。

脱炭素は、本気でやればやるほど産業空洞化が進む。これ以上、特定業界のロビイング活動や不透明な利益構造により、国民負担が増え続けるのを避けるためにも、客観的で公平な政策判断が求められる。もうそろそろ、「CO2排出をやめなければ、地球は人間が住めなくなる」と感情に訴えるような“CO2毒ガス論”には終止符を打ちませんか?

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