ビザ厳格化で「もう日本はムリ」…真面目な外国人を追い出し中国資本がすり抜ける「理不尽」
3000万の壁で本場カレーが消滅
「在留資格の要件が厳しくなったことで、ネパールやインドの人が経営するレストランの90%は、’28年までに消えるんじゃないでしょうか。1000円前後で本場のカレーが食べられる店は、多分なくなります」
無念さをにじませながら語るのは、約9年にわたり東京都内でカレー店を営んできたネパール出身のビスタさん(仮名・35歳)だ。彼は今、在留資格「経営・管理」取得の新たな要件となる「資本金3000万円」の壁に直面している。
日本で事業を営む外国人経営者に必要な「経営・管理」の許可基準が厳格化されたのは、昨年10月。省令改正により、資本金の要件がこれまでの500万円から3000万円へと一気に6倍引き上げられた。常勤の日本人か永住者などの雇用と、申請者か従業員に一定の日本語能力も求められる。改正から3年間の猶予期間が設けられているが、’28年10月以降の在留資格更新には、原則として新たな要件を満たさなければならない。
「経営・管理」の厳格化は、活動実態のないペーパーカンパニーに代表される不正の防止が狙い。だが現状では、これまで地道に働いてきた小規模な飲食店や小売店の経営者らが、廃業や不本意な帰国に追い込まれつつある。
ビスタさんも経営していたカレー店を今年4月末で閉店せざるを得なかった。現在は、知り合いの永住者が営むレストランの経営に、役員として携わっている。在留資格は「経営・管理」のままだが、「次の更新で在留期間3年を取得できなければ帰国するしかない」と諦め顔だ。
「資本金が500万円の1.5倍ぐらいになるなら、まだ何とかなります。でも、3000万円は無理。永住者ではない外国人は銀行から簡単にお金を借りられないし、あと2500万円も用意するなんてできません」
入管法の改正によって、10月から在留資格変更と期間更新の手数料も大幅に引き上げられるため、負担はさらに重くなる。
現在の在留資格変更と期間更新の手数料は、一律6000円(オンライン申請5500円)。10月からは在留期間に応じ、1年の場合は3万3000円(同2万7000円)、3年以上5年未満は6万4000円(同5万6000円)、5年以上は7万5000円(同6万5000円)などになる。永住許可の手数料は、1万円から20万円にも上がる。
「1年更新しようとすると手数料はいきなり5倍以上になる。私の場合は、妻と子どもの分を合わせて9万9000円。行政書士の先生にお願いする費用を含めると、20万円近くかかります」
出入国在留管理庁によると、在留許可手数料の額は〈審査に要する実費、外国人の出入国及び在留の公正な管理に要する費用の額、諸外国の同種の手数料額、今後の物価上昇への対応などを総合的に勘案して定めた〉という。
「私たち外国人も、年間80万から100万の税金や社会保険料を納めているんです。真面目に働く外国人がいなくなれば、その分、日本の税収は減ります」
ビスタさんは「政府から『もう日本から出て行って』と言われているのと同じ」と憤りを隠さない。
「今、私の娘は4歳です。日本で生まれて、日本の生活しか知らない。幼稚園の友達と一緒に、日本の小学校に行くのを楽しみにしています。政府には、日本の将来の働き手として、外国人の子どもたちも同じに見てほしい。それが私たちの声です」
中国資本は抜け道に…嘆く外国人
今、在留外国人の間では、日本に対する不信感が急速に広がっている。
「政府の狙いは悪質な外国人の排除のはずです。でも、穴だらけの厳格化で割を食っているのは、真面目な事業者ばかり。周りの外国人たちは『日本はどうなってしまったのか』と嘆いています」
日本に暮らして33年、日本国籍を取得して15年になるスリランカ出身のレストランオーナー、ラトナーヤカさん(仮名・56歳)は語気を強める。彼の店は外国人の来店も多く、日本に在留するさまざまな国の人々の切実な声を耳にするという。
ラトナーヤカさんが特に強い懸念を抱くのは、一律の厳格化が「移住目的のペーパーカンパニーをかえって有利にさせている」という皮肉な現実に対してだ。
「資本金3000万円を用意できないスリランカ人は廃業に追い込まれ、資金力のある中国人などは何食わぬ顔ですり抜けています。
僕の店の近くでは、中国人がビルを丸ごと買い取って、空っぽのまま遊ばせている。中華料理店が多いエリアでは、中国資本が小さな店を買い叩き、中国人経営者の在留資格を変更させて従業員として雇っています。
結果的に、政府が中国人の在留を後押しする格好になっている。僕の周りの外国人はそう見ています」
ラトナーヤカさんは1993年、留学をきっかけに日本に移り住んだ。「地域のお年寄りに孫のようにかわいがってもらった。自分は日本に育てられたと思っている」と話す。だからこそ、日本社会の変容に戸惑わずにはいられない。
「去年の選挙で『日本人ファースト』という言葉が使われだしてから、社会の目が一気に変わりました。外国人に対して温かかった世間が、今はすべての外国人に『何かやらかすんじゃないか』と疑いの目を向ける。『日本は我々をよそ者扱いするような国じゃなかったのに』と、みんなが失望しています」
今、ラトナーヤカさんは、追い出されたという思いで帰国したスリランカ人が日本に恨みを持つことを恐れている。そうなれば、スリランカの人々が長年抱いてきた親日的な感情が失われかねないからだ。
「スリランカだけでなく、東南アジアの他の国も同じだと思います。外国人政策によって、日本が世界で信頼を失うのはどうなのかと、僕は日本社会に問いかけたいです」
排外政策の末路は「介護崩壊」
失望感や憤りを募らせる外国人たちをよそに、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」として“厳格化”を急速に推し進める日本政府。外国人の在留資格に関する手続きをサポートする行政書士の西山健二さんは、現政権の政策を「あまりにも短絡的で、品がない。単なる人気取りに過ぎない」と批判する。
「在留資格『経営・管理』に関して言うと、日本はこれまでずっと、外国人の起業に対して『ウェルカム』の姿勢をとってきました。猶予期間を設けるなど、起業しやすいように要件を緩和していたわけです。それを180度転換し、在留中の人にも一律で資本金3000万円を求めるのは筋が通りません。
そもそも、資本金を500万円用意するのだって大変なわけで、『見せ金』で会社を作る人は一定数いました。金額を3000万円に跳ね上げたところで、悪しき例を排除できるのか。実効性には非常に疑問を感じています」
西山さんは在留手続きの手数料改定についても「理不尽さ」を指摘する。
「たとえば在留期間の1年更新を3万3000円などとしていますが、期間で区切るのはナンセンス。在留資格で分けるべきです。
『特定技能』や『技能実習』の外国人の多くは、最低賃金で働いています。たとえば3年更新6万4000円の手数料は、彼らにとっては高額。会社が一旦は負担するにしても、その分を給料に反映させるので、結局は本人が不利益を被ることになるんです。
専門的な知識や技術を持つ外国人が取得する『技術・人文知識・国際業務』(技人国)という在留資格がありますが、在留手続きの手数料は同じです。最低賃金で働く人が、いわゆるホワイトカラーと同等の負担を強いられるというのは、どう考えても理不尽じゃないでしょうか」
だが、実は「技人国」の在留資格で働く外国人の中にも、手数料の引き上げに苦しむ人がいる。
「『技人国』は本来、大卒などの専門人材が頭を使って働くための在留資格です。しかし実際には、技術系の名目で入国しながら過酷な現場労働や単純労働をしている外国人が相当数いて、『エセ技人国』として問題になっている。責任の所在は、外国人自身よりも、在留資格に該当しない仕事であることを本人に告げずに雇用する日本の雇用主にあることが多いんです。
国は表面的な要件を厳しくする前に、現場の実態把握に努めるべきでしょう」
さらに問題なのは、外国人の労働者を守りきれない制度の歪みだ。
「『特定技能』や『技能実習』の場合、悪質な雇用主に嫌気が差して仕事を辞めたり、倒産などで職を失ったりする外国人は少なくありません。就労が認められた在留資格で入国しているのに就職先が決まらず3ヵ月が経過すると、在留資格の取り消し対象になり得ます。生きるために隠れてアルバイトなどをすれば違法な資格外活動になり、更新時に発覚して不法滞在へ追い込まれていく。
外国人労働者の受け入れ制度の不備、雇用主や労働環境の問題をそのままにし、手数料の引き上げなどで外国人ばかりを締めつける。悪質な雇用主と同じ立場に立っていると外国人に感じさせるような、国の品のない姿勢が最も問題だと思います」
外国人政策の厳格化が報じられるたび、ネット上では「よくやった」「当然だ」と歓迎の声が上がる。
だが、介護現場や外食産業など、人手不足の現場はすでに外国人がいなければ回らないのが現実だ。実態を無視して彼らを追い出せば、遠くない将来、介護システムは崩壊し、牛丼を1000円で食べることもできなくなるかもしれない。
西山さんは「政府自らが世論の排外感情を煽り、政策として利用している」と痛烈に批判する。
「人手不足で介護や外食の現場が回らなくなってから、『また外国人を呼ぼう』と厳格化した政策を撤回するつもりでしょうか。実態に基づく中長期的な視野に立った対策を講じていかなければ、日本は世界中から見限られることになるかもしれません」
▼西山健二(にしやま・けんじ)行政書士。1991年、上智大学法学部法律学科卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て1998年、株式会社西山知材代表取締役。’20年にしやま行政書士事務所代表に。在留や入管関連の話題をブログ(https://www.ngj.jp/blog_manager.php)で発信している。
取材・文:斉藤さゆり

