ALS治療や声優としてのリスクが…ニャンちゅう声優が振り返る「腫瘍の切除手術」受けるか否かの決断
指定難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)だと2019年9月に告知された声優の津久井教生さん。津久井さんの著書『ALSと笑顔で生きる。 声を失った声優の「工夫ファクトリー」』は、突然歩きにくくなったときのことから2026年までを、最初はタイピングで、手が動かなくなったら口に割り箸をくわえ、さらにそれができなくなったら視線入力で書き続けた原稿を大幅に加筆修正して一冊にまとめたものだ。
本書から抜粋してご紹介している第7回は、2019年9月、ALSの告知直前に膵臓と肝臓の間に10センチもの腫瘍の存在を指摘されたエピソードをお伝えしている。前編で、「4センチ以上の腫瘍があると、どのような病気の治療に関しても弊害になりうる」と、開腹手術を勧められたことまでお届けした。しかし津久井さんには手術を迷う明確な「理由」があった。
手術をするか否か
実はALS治療や声優としてのリスクを考えると「手術をしない方向もあるのではないか」と最初は考えていました。足の不具合も含めて、とにかくALSの進行が速いと感じていたからです。手術をすれば確実に寝ている時間が長くなり、筋肉も失われるのでリハビリも含めての不安が先に立ちました。ましてや声帯にも影響する可能性があると言われると考えてしまいます。
しかし主治医は、「ここ最近病気に対する医学の進歩が目覚ましい中、ALSの治験を受けない選択は損ではないか」と話してくれました。ましてや10センチを超える軟らかいタイプの腫瘍は破裂しやすく、もし破裂したら突然死のような形になることもありえます。トータルで見て、前向きに考えた方が良いのではということでした。
背中を押した社長の言葉
一番背中を押してくれたのは、事務所の社長でした。社長は重度の慢性腰痛を抱えており、ときには歩けなくなるほどなのです。
「教生も今後色々な治療法を試していくんだろう?」社長は笑顔で自分の体験談を話してくれました。
「半年前に予約した治療に行くときに逆に半年前より調子が良かった話」
「あまりに治療が痛くて治りましたと言いたくなった話」
「元気に治療室に入っていった患者さんがみんなあまりの痛さに歩けなくなって車椅子で出てきた話」
すべて、私たち夫婦を笑顔にしてくれる話でした。そして「なかなかこれという治療には出会えてないけど、これからも周囲が勧めてくれたら試すつもりだよ」と締めくくりました。
そうなのです。自分の体を常にベストな状態にするためには労を惜しんではいけないし、可能性があるなら明るくチャレンジし続けることが大切だと、背中を押されました。事務所の統括部長も「教生さん、 81 ライブサロンで絵空事計画の朗読ライブ早くやりましょうね!」と笑顔で言ってくれ、デスクのチーフも「色々な治療法リサーチしときますね」と同じく笑顔。そして「復帰戦はニャンちゅうの収録で良いですね!」と長年一緒の女性ディレクターも背中を押してくれました。
81 ライブサロンとは、所属事務所に併設された会場で、そこで行うイベントの朗読ライブ集団を「絵空事計画」と名づけています。
ポジティブ夫婦の決断
妻とも「いきなり破裂して死んでいた可能性もあるとしたら、今見つけてもらって良かったのかもね」と話しました。
ポジティブ夫婦は「手術して腫瘍を取ったらALSが良くなるかもね」「うん、よしやっちゃおう!」と気持ちが固まりました。
手術は2019年12月12日木曜日の午前中に決定しました。この日までにできる限りのレギュラーの収録や講師の仕事をしました。必要最低限の手術の話はしてありましたので、皆さんからお守りや寄せ書きの色紙がたくさん届きました。 友人の漫画家、佐佐木あつしさんが持ってきてくれたマンガジャパンさんの色紙は、代表理事の里中満智子さんをはじめとして、三浦みつるさん、木村直巳さん、うえやまとちさんなどのそうそうたるメンバーの応援メッセージで、悪い気を退散させてくれました。
楽しくて温かいメッセージが満載の『ちびまる子ちゃん』メンバーの色紙や、アニメ 『スクライド』の谷口悟朗監督と脚本家・黒田洋介さんらとイベント参加者の皆さんの寄せ書きの男っぽさとストレートで熱い応援メッセージに、力をたくさんもらいました。
いよいよ摘出手術
いよいよ腫瘍摘出手術です。朝8時半には足に弾性ストッキングをはいて手術室に入りました。「それでは背中に麻酔を打ちます」「マスクをかけると眠くなりますので」と言われ、次に目覚めたときには手術は終わっていました。
主治医の説明によると手術は順調に4時間ほどで終わったそうで、大きな問題はなかったそうです。当初15センチの切開のはずでしたが、やはり腫瘍が大きくて30センチ近い切開になったためにお腹の半分が斜めに切られました。筋生検のときと同じように「腫瘍、見ますか?」と聞かれて「はい」と答えると、医師が嬉しそうに見せてくれた腫瘍は4×5×8センチのビッグサイズでした。まさに「腫瘍とったど~~っ」状態でした。
無事に手術は終わりました、これで治療や治験もできるはずです。同時に、摘出した腫瘍を見せていただいて、一つのヤマを乗り越えたことを確認しました。ですが、頭の中はその瞬間から次にやるべきことで一杯になっていました。全身麻酔時に装着した人工呼吸器を外した後に「声」が出るかの確認でした。
