ICLは医療費控除の対象になる?申請の流れと計算方法を解説

ICLは、目の中に専用のレンズを挿入し、近視や乱視を矯正する手術です。原則として公的医療保険が適用されない自由診療であり、両目の手術ではまとまった費用が必要です。

ICLの手術費用は、視力を矯正するために医師が行う治療の対価であることから、一般的には医療費控除の対象になると考えられます。ただし、支払った手術費用がそのまま返金される制度ではなく、所得から一定額を差し引いて税負担を軽減する仕組みです。

この記事は、ICLが医療費控除の対象となる理由や控除額の計算方法、確定申告の流れ、申請時の注意点を解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)

2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

ICLは医療費控除の対象になる?

ICLは自由診療ですが、保険診療でないことを理由に医療費控除の対象外になるわけではありません。治療を目的として医師へ支払った費用かどうかが重要です。ここでは、ICLの概要と医療費控除の対象になる理由を解説します。

ICLとは

ICLは、虹彩と水晶体の間に専用の眼内レンズを挿入し、近視や乱視を矯正する手術です。有水晶体眼内レンズ手術とも呼ばれ、自分の水晶体を残したまま視力を矯正します。

レーシックのように角膜を大きく削らないため、角膜が薄い方や強度近視の方にも選択肢となることがあります。日常的なコンタクトレンズとは異なり、毎日の着脱や洗浄は必要ありません。ただし、眼内手術であるため、術前検査や術後の点眼、定期通院が必要です。

ICLが医療費控除の対象になる理由

医療費控除の対象となるのは、医師による診療や治療の対価として支払った費用です。ICLは、近視や乱視などの屈折異常を医学的な方法で矯正し、目の機能を改善するために行われます。

そのため、美容を目的とする施術とは異なり、一般的には医療費控除の対象になると考えられます。自由診療であっても、治療目的で医師へ支払った費用であれば、医療費控除の対象になりえます。

一方、通常のメガネやコンタクトレンズの購入費用は、一般的には医療費控除の対象になりません。日常生活のために使用する視力補正器具の購入費は、医師による治療の対価とは区別されるためです。

医療費控除で戻る金額の考え方

医療費控除は、支払った医療費がそのまま戻る制度ではありません。一定の医療費を所得から差し引き、所得税や翌年度の住民税を軽減する仕組みです。ここでは、控除額の計算方法と対象となる費用について解説します。

医療費控除額の計算方法

医療費控除額は、1年間に実際に支払った医療費から、保険金などで補てんされた金額と基準額を差し引いて計算します。控除できる金額の上限は200万円です。

計算式は次のとおりです。

医療費控除額=その年に支払った医療費の合計額-(保険金などで補てんされた金額)-10万円

例えば、ICL手術を含む年間医療費が80万円で、保険金などによる補てんがなかった場合、医療費控除額は70万円です。ただし、70万円がそのまま返ってくるわけではありません。

実際に軽減される所得税額の目安は、医療費控除額に申告者の所得税率をかけて考えます。医療費控除額が70万円で所得税率が10%なら、所得税の軽減額はおおむね7万円です。これとは別に、翌年度の住民税も軽減される可能性があります。

参照:『医療費を支払ったとき(医療費控除)』(国税庁)

所得による医療費控除の基準額の違い

医療費から差し引く基準額は、すべての方が一律に10万円とは限りません。その年の総所得金額などが200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%を差し引きます。

例えば、総所得金額等が150万円の場合、基準額は7万5,000円です。年間の医療費が60万円で、保険金などによる補てんがなければ、医療費控除額は52万5,000円です。

ここでいう総所得金額等は、給与の支給総額や手取り額とは異なります。給与所得者の場合は、一般的に給与収入から給与所得控除を差し引いた後の金額などをもとに判断します。

医療費控除によって戻る金額は、控除額だけでなく、申告する方の所得税率によっても変わります。同じICL手術費用を支払っていても、所得やほかの控除によって還付額は異なります。

参照:『医療費を支払ったとき(医療費控除)』(国税庁)

医療費控除の対象になる費用の範囲

ICL手術では、医師による診察や検査、手術、処方薬など、治療に直接必要な費用が医療費控除の対象になりえます。手術料金に術前検査や術後診察が含まれている場合は、その支払額を医療費として申告します。

通院のために利用した電車やバスなどの公共交通機関の費用も、治療に必要な通常の交通費であれば対象になることがあります。交通費は領収書が発行されないこともあるため、利用日、区間、金額を記録しておきましょう。

自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車料金は、原則として医療費控除の対象になりません。タクシー代も通常は対象外ですが、公共交通機関を利用できない病状や緊急性がある場合は対象になることがあります。

本人の希望による宿泊費や、通院に使用するために購入した日用品、一般的なメガネやコンタクトレンズの費用などは、通常は対象になりません。判断に迷う支出は、治療に直接必要だったことを説明できる資料を残しておきましょう。

ICLで医療費控除を受ける際の手続き


医療費控除を受けるには、年末調整ではなく確定申告が必要です。会社員で普段は確定申告をしていない方も、自分で手続きを行います。ここでは、申告の流れや必要書類、申請できる時期を解説します。

確定申告の流れ

まず、その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費を集計します。ICLの手術費用だけでなく、生計を一にする家族の診察代や薬代なども対象になる場合があるため、世帯全体の医療費を確認しましょう。

次に、医療機関や薬局ごとに支払額をまとめ、医療費控除の明細書を作成します。生命保険や医療保険などから給付金を受け取った場合は、対象となった医療費から補てん額を差し引きます。

確定申告書へ医療費控除の金額を入力し、医療費控除の明細書とともに提出します。提出方法は、e-Taxによるオンライン申告、税務署への郵送、税務署窓口への持参などがあります。

マイナポータルと連携すると、取得できる医療費情報を確定申告へ反映できます。ただし、ICLは自由診療であり、マイナポータルから自動取得できない可能性があります。その場合は、領収書をもとに追加で入力します。

医療費控除の申請に必要な書類

医療費控除を申請する際は、確定申告書と医療費控除の明細書を用意します。給与所得者の場合は、源泉徴収票に記載された内容も必要です。e-Taxは、画面の案内に沿って源泉徴収票や医療費を入力できます。

医療費控除の明細書には、医療を受けた方の氏名、病院や薬局の名称、医療費の区分、支払額、保険金などで補てんされた金額を記載します。家族分を申告する場合は、誰が治療を受けたのかがわかるように整理しましょう。

ICLの領収書は、原則として確定申告書へ添付する必要はありません。ただし、税務署から内容の確認を求められる可能性があるため、確定申告期限等から5年間、自宅などで保管する必要があります。

手術費用の内訳が領収書だけではわかりにくい場合は、診療明細書や契約書、支払証明書なども保管しておくとよいでしょう。クレジットカードで支払った場合も、医療機関が発行した領収書を残しておきましょう。

参照:『医療費を支払ったとき(医療費控除)』(国税庁)

医療費控除を申請できる時期

通常の所得税の確定申告期間は、原則として医療費を支払った年の翌年2月16日から3月15日までです。土曜日、日曜日、祝日に重なる場合は、期限が翌開庁日へ変更されることがあります。

会社員などが医療費控除による所得税の還付だけを受ける還付申告は、翌年1月1日から行うことができます。通常の確定申告期間を待たずに申告することも可能です。

還付申告は、原則として対象となる年の翌年1月1日から5年間提出できます。申告を忘れていた場合でも、期限内であれば過去に支払ったICL手術費用について手続きできる可能性があります。

ただし、ICLの手術を予約した年ではなく、実際に費用を支払った年の医療費として申告します。分割払いやクレジットカード払いは、支払方法によって扱いを確認した方がよい場合があるため、税務署へ相談しましょう。

参照:『還付申告』(国税庁)

医療費控除を受けるときの注意点

医療費控除を正しく申告するには、領収書や給付金の記録を整理しておくことが大切です。家族分の合算やほかの税制との関係にも注意が必要です。ここでは、申告前に確認しておきたい点を解説します。

領収書や医療費の明細を保管する

ICLの手術費用を支払ったら、医療機関が発行した領収書と診療明細書を保管します。領収書には、医療機関名、支払日、支払額、治療を受けた方の氏名などが記載されているか確認しましょう。

確定申告は、原則として領収書ではなく医療費控除の明細書を提出します。ただし、税務署が明細書の内容を確認するために、領収書の提示や提出を求めることがあります。そのため、確定申告期限等から5年間は処分してはいけません。

公共交通機関を利用した通院費は、領収書がない場合でも、日付、医療機関名、利用区間、交通手段、金額を一覧にして残します。家族分も含め、治療を受けた方ごと、医療機関ごとに整理すると申告しやすくなります。

医療保険から手術給付金などを受け取った場合は、支給額がわかる通知書も保管してください。給付金を受け取る予定がある場合も、補てん額を考慮して申告する必要があります。

生計を一にする家族の医療費は合算できる

医療費控除では、申告する本人だけでなく、生計を一にする配偶者や子ども、親族のために支払った医療費も合算できます。同居していることだけが条件ではなく、生活費を継続的に負担している別居の家族が含まれる場合もあります。

重要なのは、誰が治療を受けたかではなく、誰が医療費を実際に支払ったかです。夫婦共働きであっても、生計を一にする配偶者のICL手術費用を本人が支払った場合は、支払った本人の医療費控除に含められる可能性があります。

家族の医療費を合算する場合、一般的には所得税率が高い方が申告すると、世帯全体の税負担軽減が大きくなることがあります。ただし、実際にその方が医療費を支払っていることが必要です。

名義だけを所得の高い家族へ移すことはできません。クレジットカード払いでは、カードの名義人や実際の負担者が誰かを確認できるよう、利用明細なども保管しておきましょう。

セルフメディケーション税制との併用はできない

セルフメディケーション税制は、健康診断など一定の取り組みを行っている方が、対象となる市販薬を年間1万2,000円を超えて購入した場合に利用できる制度です。通常の医療費控除の特例として設けられています。

通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は、同じ年には併用できません。どちらか一方を選んで確定申告する必要があります。

ICL手術を受けた年は医療費が高額になりやすいため、通常の医療費控除を選ぶ方が有利になることが多いと考えられます。ただし、家族全体の医療費や対象医薬品の購入額、所得によって結果は異なります。

一度選択して申告した後は、修正申告や更正の請求によって自由に制度を変更できないため、申告前に両方の控除額を試算しておきましょう。

参照:『セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用』(国税庁)

ICLの医療費控除についての相談窓口

医療費控除の対象範囲や申告方法に迷った場合は、税務の専門窓口へ確認しましょう。医療機関は治療内容や支払額を説明できますが、個別の税務判断まで保証できるとは限りません。ここでは、主な相談先と確認方法を解説します。

税務署や税理士に相談する

ICLの手術費用が医療費控除の対象になるか、交通費や追加検査費用を含められるか判断に迷う場合は、住所地を管轄する税務署へ相談できます。領収書や診療明細書を手元に用意すると、具体的に相談しやすくなります。

複数の所得がある方、事業を行っている方、家族間で誰が申告するか迷う方は、税理士へ相談する方法もあります。医療費控除だけでなく、ほかの所得や控除を含めた申告内容を確認してもらえます。

医療機関へは、治療費の内訳や領収書の再発行が可能かを確認できます。ただし、医療機関から医療費控除の対象になると案内された場合でも、最終的な判断を行うのは税務署です。

相談する際は、手術の名称、治療目的、支払日、費用の内訳、給付金の有無などを整理しておきましょう。広告や料金表だけでなく、実際の領収書と診療明細書をもとに確認することが大切です。

国税庁の情報で最新の制度内容を確認する

医療費控除の計算方法や必要書類、確定申告の期限は、制度改正などによって変更される可能性があります。申告する年に対応した情報を確認しましょう。

確定申告書等作成コーナーでは、画面の案内に沿って支払った医療費や補てん額を入力できます。計算した医療費控除額は確定申告書へ反映されるため、手書きで計算するより入力ミスを減らせます。

マイナンバーカードを利用できる場合は、e-Taxによるオンライン申告も可能です。ただし、ICLなどの自由診療費は医療費通知に含まれず、自動で反映されない場合があります。領収書を確認し、取得されていない費用を自分で追加してください。

過去の情報や医療機関の説明だけで判断せず、申告する年の確定申告特集や医療費控除の案内を確認することが重要です。疑問が残る場合は、申告前に税務署へ相談しましょう。

まとめ


ICLは、近視や乱視を医学的に矯正するために医師が行う治療であり、手術費用は一般的に医療費控除の対象になると考えられます。自由診療であることだけを理由に、医療費控除の対象外になるわけではありません。

医療費控除額は、年間の医療費から保険金などによる補てん額と10万円を差し引いて計算します。総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく総所得金額等の5%を差し引きます。ただし、控除額がそのまま返金されるわけではありません。

申告には医療費控除の明細書が必要であり、ICLの領収書や診療明細書は原則として5年間保管します。対象範囲や家族分の合算、給付金の扱いに迷う場合は、税務署や税理士へ確認したうえで申告しましょう。

参考文献

『医療費を支払ったとき(医療費控除)』(国税庁)

『医療費控除の対象となる医療費』(国税庁)

『還付申告』(国税庁)

『セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用』(国税庁)

『医療費控除に関する手続について』(国税庁)

『眼科医に支払う治療費等』(国税庁)

『医療費控除を受ける方へ』(国税庁)

『特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(セルフメディケーション税制)』(国税庁)

『共働き夫婦の夫が妻の医療費を負担した場合』(国税庁)