「愛に飢えて言います」トー横に通う17歳、高校中退して大学目指す…自傷、友人の死を経験した「居場所」
新宿・歌舞伎町の「トー横」に通いながら、大学進学を目指して勉強する17歳がいる。
高校を中退し、高卒認定試験に挑んでいる、みなみさん(17)。勉強する場所は塾ではない。トー横などに集まる若者たちが参加する「お勉強界隈」だ。
その活動は、机に向かうだけではない。運動会を開き、冊子を作り、夏と冬の「コミックマーケット(コミケ)」にも参加する。
今年のコミケで販売した冊子に、みなみさんは自身の体験をもとにした作品を寄せた。書かれているのは、恋愛に依存し、自傷行為やオーバードーズを繰り返してきた自身の姿だ。
家庭での激しい衝突、オンラインゲームで出会った男性との恋愛、そしてトー横へ。そこで友人をつくり、時にはトラブルに巻き込まれ、親しい人の死も経験した。
それでも、みなみさんは今日もトー横に向かう。(ライター・渋井哲也)
●トー横の若者10人が「コミケ」で冊子
「お勉強界隈」は、トー横などの「界隈」にいる若者たちに勉強する機会を提供し、学力だけでなく自己肯定感を高めてもらおうと、大学生が始めた活動だ。
今年のコミケでは、昨年に続いて冊子「お勉強界隈Vol.2」を販売した。10人の「界隈民」が参加し、それぞれがトー横に来るようになった理由や、そこで経験したことなどをつづっている。
みなみさんも、その一人だ。
「中学の頃から二次創作が好きで、自分でも書いていました。その頃の作品は今でもオンラインサービスに残してあります。今見ると、すごい黒歴史です。文章が小学生っぽいですね。拙い。
今回、(コミケの冊子には)もともとみんながどんなものを書くのか知らなかったんです。私は絵を描こうとしましたが、間に合いませんでした。『界隈チックな文章ならいい』ということだったので、前に書いたものを出しました」
コミケには2日目に参加し、売り子もつとめた。冊子は50〜60冊ほど売れたという。
「意外と、ザ・オタクという人も『トー横に興味あります』という人も、親世代の人も買ってくれたりしました。『私も不登校経験者です』という人もブースに来てくれました。一人一人の思いが書いてある。だから、読んでもらえたり、見てもらえたりするのはすごくうれしい」
●「愛に歪んで、愛に壊れた」
みなみさんが寄せた作品のタイトルは「哀_メンケア要因(みなみ)_17」。
「哀」には、「愛する」ことと、その「愛に苦しめられる」ことの両方の意味を込めたという。
作品は、こんな言葉で始まる。
この世界から私は消えた。
愛に歪んで、愛に壊れた。
そして、誰よりも愛を欲して、愛に依存した。
好きだった。
愛してた。
みなみさんは、自身が「トー横に行く前から愛に飢えている」と語る。その渇きを埋めるように、恋愛を繰り返してきた。
「依存先がないとダメで、人じゃないと満たされない。よく詩を書いていますが、基本的には実体験です。今回の作品は、リスカやパキっていて、歌舞伎町で暴れて迷惑をかけてしまったので、振られたことを書いています」
その背景には、幼い頃からの家庭環境がある。
2歳の頃に両親が離婚した。ただ、6歳頃までは毎月1回、父親と会っていた。
「会うたびにおもちゃを買ってもらったりしていました。父親のことは大好きでした」
一方、6歳前後から母親や祖母とのケンカが増え始めた。小学3〜4年生になると、勉強への集中が続かず、成績も悪化。家庭内での衝突はさらに激しくなったという。
「学校の集団授業が苦手で、『わからない』と言えない恥ずかしさや戸惑いがありました。家庭内でも母親や祖母との激しい衝突があり、殺し合いのようなケンカがありました」
●ネットで知った「自傷行為」
小学校高学年になる頃には、自分が愛情に飢えていることを自覚するようになった。
当初、居場所になったのは二次元の世界だった。アニメやキャラクターに没頭し、「すとぷり」などの2.5次元の「歌い手」にもハマった。
やがてオンラインゲームをするようになり、そこで3歳年上の男性と出会った。遠距離恋愛に発展したという。
「超かまってくれる人でした。話し相手がほしかったんです。ずっとおしゃべりしていました」
この頃、初めて自傷行為をした。
「歌い手界隈とか、自傷系の子をネットで検索していたら(自傷行為のことが)出てきたんです。『こんなのあるんだ』と思いました。そのときの気持ちを今は覚えていません。出来心だったのかな。痛かったのは覚えています」
●「歌舞伎町に踏み込んだら終わり」と思っていた
中学卒業後、みなみさんは、いわゆる「界隈」に顔を出すようになる。
最初に通ったのは、埼玉・大宮だった。
「たまたま、友だちや後輩が『大宮界隈』の子で、『花見をやるから行こうよ』って誘われて行ったんです。それからずっと大宮には毎日のように通いました。地雷系が好きだから、ずっと気になっていたんです。フリフリで可愛い。最初から歌舞伎町に行く勇気がなかったんです。踏み込んだら終わりってイメージでしたから」
その後、歌舞伎町のトー横にも足を向けるようになった。今では、ほぼ毎日のように通っている。
一方で、そこにいることの危うさも感じている。
「関わる人を間違えたら、本当に違法なことをするような集まりに行っちゃう。犯罪に巻き込まれたりするのは嫌だし。でも、最初から人を見極めるのは難しい。だから、人のうわさとか、関わっていく中で、判断していくしかないです。
一度、巻き込まれて、コンビニを出禁になりました。たまたま、知り合いが声をかけてきたんですが、その人が万引きをしていて…。警察に行きましたよ。防犯カメラで確認してもらいました」
●高校中退、それでも「大学に行く」
そんなみなみさんが今、トー横で続けていることの一つが「勉強」だ。
高校を中退し、大学進学を目指して高卒認定試験を受けている。
「塾に行くとお金がかかるので、お勉強界隈に行きます。というのも、母親に、『大学に行くなら、生活費を含めて払ってあげる』『大学に行けば、歌舞伎町に行ってもいい』と言われています。もともと『お勉強界隈』に参加するようになったのは、運動会があったから。界隈の友だちに誘われたんです」
かつて「わからない」と言えず、学校の集団授業になじめなかったみなみさんが、今はトー横で大学を目指して勉強している。
ただ、そこでの日常には「死」もある。
トー横界隈で仲良くなった人の中には、亡くなった人もいる。みなみさんによると、知人のうち10人ほどが自殺で亡くなったという。
「最初は悲しい。哀しいけど、だいぶ慣れちゃった。『歌舞伎町だから』で済ませちゃったりします。でも、お兄ちゃん的存在だった人が亡くなったときは大泣きしちゃいました。
初めて会ったときからよく話を聞いてくれて、妹みたいに構ってくれたり、可愛がってくれたりしました。自分にとっても大事な存在でした。でも、もう近づかないとかは思いません」
危ない目にも遭った。大切な人も失った。それでも「もう近づかない」とは思わない。
高校を中退した17歳は、大学に進むための勉強を続けながら、今日もトー横に向かう。

