(※写真はイメージです/PIXTA)

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住宅の購入には、建物そのものの状態だけでなく、敷地や周辺環境にまつわる専門的なチェックが欠かせません。しかし、多くの買い手にとって複雑な建築基準や構造上のリスクを正しく理解し、将来の危険性を予見するのは容易ではないのが現状です。結果として、購入時には気づかなかった問題が数年〜数十年後に表面化し、思いもよらない負担を強いられることも……。本記事では、近藤聡さん(仮名)の事例とともに、マイホーム購入前に確認すべき重要ポイントについて、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。相談者の名前はすべて仮名です。

社宅退去のタイムリミット、賃貸 vs. 持ち家の岐路

近藤聡さんは大手メーカーに勤務する年収800万円の会社員です。そして、家族4人(妻:パート、長女:中1、長男:小5)を養う父親でもあります。出身地である北陸地方の大学を卒業後、現在の会社へ就職しました。入社以来社宅に住んでおり、5年前には出身地から近い現在の勤務地へ転勤してきました。

「社宅制度があるおかげで、住宅の費用を気にせず、家族4人で穏やかに暮らすことができました」と聡さんは振り返ります。

近藤家の貯蓄額は2,000万円。総務省「家計調査報告 貯蓄・負債編 2025年(令和7年)平均結果の概要(二人以上の世帯)をみると、近藤さんのように会社員として働く「勤労者世帯」の40代平均である1,304万円と比較した場合は約1.53倍に達しており、同世代の平均的な水準と比べてかなりゆとりを持って資産形成を進めることができたことが伺えます。

都内の社宅に住んでいたこともある聡さんですが、現在の地域は自然が豊かな地域です。スーパーマーケットには旬の野菜や果物が並び、少し車を走らせればスポーツ施設や温泉といったレジャー環境が整っています。首都圏に比べて物価が安く、のびのびと暮らすことのできる生活に、家族は徐々に馴染んでいったそうです。

聡さんは当時45歳。長女が中学生になり、高校受験を考えなければならない時期になりました。これを機に、家賃を払い続けることへの漠然とした不安、そして「どうせ払うなら資産になるほうがいい」という気持ちから、近藤さん夫妻は住宅の購入へと舵を切ります。新築や築浅物件と比べて予算内で希望のエリア・広さを確保しやすいことから、夫妻は中古一戸建ての物件を探しました。――ここまでは、ごく自然な流れといえるでしょう。

相場より安い「掘り出し物」との出会い

物件探しを始めて数ヵ月、駅からやや距離はあるものの、周辺相場より価格が抑えられた中古一戸建て出会いました。築年数のわりに室内の状態もよく、日当たりも申し分ありません。

「なぜこの価格で売れ残っているのだろう」という疑問が一瞬よぎったものの、担当者からは「立地の関係で少し値ごろ感が出ている」との説明を受けます。大きな懸念とはならないと判断した近藤さん夫妻は契約へと踏み切りました。

しかしこの物件、見落とされていた「欠陥」が存在していたのです。実は敷地の一部が高さのある擁壁(ようへき)の上に建っており、しかもその擁壁はかなり年数の経ったものでした。価格が周辺相場より安い背景には、この擁壁が影響していた可能性があります。重要事項説明のなかで、擁壁の存在自体には触れられていたものの、劣化の専門的な状態までは詳しく説明されませんでした。近藤さん夫妻も「擁壁がある」ということの意味を、購入時点では十分に理解できていなかったのです。

専門知識がない一般の買主にとって、価格差の理由を的確に読み取ることは容易ではありません。わからないまま契約を進めてしまうケースは、決して珍しくないのです。

住みはじめてから10年後、発覚した衝撃事実

入居から10年が経過したころ、キッチンなどの水回りのリフォーム計画を計画した近藤夫妻は建築士に敷地全体を確認してもらいました。そこで判明したのが、擁壁に生じたひび割れや変形です。行政の基準に照らしても改修が必要な状態に陥っていました。

擁壁は建物本体とは別に、土留めとしての強度が求められる構造物です。老朽化を放置すれば崩落のリスクにもつながりかねません。

結果として、当初想定していたリフォーム予算とは別枠で、高額な擁壁の補強・改修費用が追加で発生することになりました。想定外の出費により、当初立てていた資金計画は大幅な変更を余儀なくされたのです。「安さの理由ってこれだったんですね。あのときの小さな疑問を無視してしまったことを、心から悔やんでいます」と聡さんは落胆しました。

購入前にできるリスク回避策

では、どうすれば購入前に知ることができたのでしょうか。近藤さんの事例から見えてくるのは、「価格の安さ」の裏にある理由を、購入前にどこまで掘り下げられるかという点です。

相場より価格が抑えられている物件に出会った際は、「なぜ安いのか」を売主・仲介会社へ具体的に確認しましょう。納得できる説明がない場合は契約を急がない姿勢も大切です。特に「立地の関係で」「事情があって」といった曖昧な説明で終わる場合は、一度立ち止まって専門家の意見を仰ぐことをお勧めします。

具体的なリスク回避策として、以下の3点が挙げられます。

1.ホームインスペクション(住宅診断)の依頼

契約前に専門家の目で建物や敷地の状態を客観的にチェックしてもらうことができます。

2.自治体窓口での確認

擁壁がある物件の場合、自治体で検査済証の有無や、既存不適格に該当しないかを確認することが重要です。古い擁壁には現行の建築基準法に適合しないケースが多く、将来的に改修義務が発生する可能性があります。

3.予備費を見込んだ資金計画

リフォーム予算には想定外の追加修繕に備えた予備費をあらかじめ組み込んでおきましょう。住宅ローンを組む段階で予備費を見込んでおけば、いざというときも貯蓄の切り崩しや追加融資に追われずに済みます。

住まいの購入は、人生における大きな意思決定の一つです。特に中古物件は、価格の魅力の裏側に見えにくいリスクが潜んでいることも少なくありません。「安さ」だけで判断せず、専門家によるチェックと、万一に備えた資金的な余裕を持つことが、後悔のない住まい選びへの一助となるはずです。

藤原 洋子

FP dream

代表FP