「民家に侵入して通報され…」「ボロボロの状態で発見」71歳の年上夫が認知症に…伝説的漫画家と“41歳差婚”をした女性漫画家(44)が語る、介護生活の始まり〉から続く

 28歳のとき、41歳年上の伝説的漫画家・真崎守氏と結婚した漫画家の恋池りもさん(44)。結婚から3年後には真崎氏が認知症を発症し、10年以上、介護と仕事の両立を続けている。

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 そんな2人の日々を綴ったエッセイ漫画『だからわたしは41歳年上の夫と暮らしてます』を上梓した恋池さんに、真崎先生との現在の暮らしや、「夫婦」の枠にハマらない独自の関係性などについて、話を聞いた。(全5回の5回目/1回目から読む)


恋池りもさん ©佐藤亘/文藝春秋

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「私のことを忘れちゃった」認知症が発覚した夫の現在の状況

――結婚から3年後の2013年、真崎先生のアルツハイマー型認知症が発覚したそうですが、現在の状況はいかがですか。

恋池りもさん(以下、恋池) 私が仕事に出ているときに先生が転倒してしまって、それが原因で2年半前、慢性硬膜下血腫になってしまったんです。

 血腫が脳を圧迫したことで大好きだった歌が歌えなくなったり、言葉が出ないみたいな症状が急激に進んでしまって。

――はい。

恋池 で、その手術がコロナ禍だったことで2週間面会できなかったんですけど、その間に、私のことを忘れちゃったんです。

――説明しても思い出さないままですか。

恋池 病院に迎えに行く日に、「私は慶子といいます。先生と結婚してるんですよ」って自己紹介して、記念撮影もしました。先生は「そうか〜」って感じで、今もまだ私の名前もわかってないです。

 でも、繰り返すことで新たに覚えることはあるみたいで、車に乗って「シートベルトを締めるね」っていうのを毎日やってると、何も言われなくても時々自分から「シュッ」と締めるんです。体を使うことだと、新しく覚えることもあるみたいですね。

「朝起きたら大抵おねしょしています」トイレで用を足すのが難しくなり…

――排泄などは問題ないですか。

恋池 全然大丈夫じゃなくて、朝起きたら大抵おねしょしています。先生の服を全部着替えさせて、おねしょした服を1回手洗いしたあとに洗濯機でも洗ってるんですけど、それを午前中にやるのが多少めんどくさいです。

――オムツは嫌がるんですか。

恋池 いや、オムツして寝るんですけど、量が多くて溢れちゃうみたいで。あと、トイレでするのも難しくなってますね。

――別の場所でしてしまうってことですか。

恋池 トイレっぽい空間で用を足してしまうというか。たとえば猫のトイレとか、部屋の角とか。

 最初は夜中も物音がする度に「先生、トイレかな?」と思って起きてたんですけど、こっちが寝不足で辛くなるので、なるべく鍵をできるところはして、そのうえでトイレのドアを開け放し、便器の蓋も開けておいて、「トイレはここです!」と、わかりやすくするようにしています。

 部屋のレイアウトも、ベッドで目覚めたらすぐに便器が見えるように工夫しました。

「もう一緒に暮らせなくなっちゃうと思うと…」老人ホームの利用に踏み切れないワケ

――今はデイサービスの利用をされている。

恋池 そうですね。周りからは、「老人ホームはなかなか入れないから、今のうちに申請しておいたほうがいいよ」とかって言われるんですけど、もし申請が通って先生がホームに入ったらもう一緒に暮らせなくなっちゃうと思うと、なかなか踏み切れず。

 今通っているデイサービスのスタッフさんが、「結局、奥さんといるときが一番生き生きしてますよ」と言ってくれるので、嬉しくなっちゃって余計に気が進まないというのもあります。

――恋池さんが誰かはわからないけど、「妻」であることはわかっている?

恋池 なんというか、「妻」とか「夫婦」とか、「結婚」っていう概念自体がもうわからないんだと思いますね。

認知症になった先生のことを「ずっとかわいい」と思う理由

――そうですか。

恋池 でも、買い物に一緒に行って「かご持っててくれる?」とかって言うと、私の後をついて来てくれるから、「いつも一緒にいる人なんだ」っていう認識はあるんです。

 今、しゃべってて思いましたけど、結婚する前のわたしたちの状態と同じなのかなって。

――漫画の専門学校で会ったときから、「ただ一緒にいる」という状態と同じ?

恋池 「恋人」になりたいとか「結婚」を求めていたわけでもなくて、お互いただただ「なんとなく一緒にいる人」っていう認識だったので、振り出しに戻ったというか、やっぱりお互い、何も変わらなかったんだと思いますね。

――先生は口調などは変わらないですか。

恋池 変わらないですけど、もう喋るってほどでもなくて、3歳児ぐらいの感じです。それもあって、ずっとかわいいですよ。

 私が漫画を描いてるときも近くに寄ってきて、私の絵を指さして笑うんです。

「前からピュアなんですけど、さらにピュアになっている」

――それまでは「かわいい」部分が見当たらなかったですか。

恋池 昔はほんと見た目もヤクザみたいでしたし、実際怖かったし、「かわいい」なんてことは一切言われなかったですね。

 先生の昔の写真を見ると、アニマル柄の服を着てるし角刈りだし。怖すぎてこんなとこにアシスタント行きたくない、私(笑)。

――介護が大変で、真崎先生に声を荒げてしまうことは?

恋池 ほとんどないかもしれない。だって、なんもわかんない赤ちゃんと一緒ですから。

――恋池さんの漫画でも、先生の瞳が認知症になってからどんどんつぶらになっていってますよね。

恋池 前からピュアなんですけど、さらにピュアになっているというか(笑)。先生は何でも自分のやりたいようにやってきたから、腹に何もたまってないんだと思うんですよね。“かわいく老いる”って大事だなって思いますね。

「私はまたいい人を見つけて結婚して、幸せになろうと思ってます」

――先生から「自分のやりたいことをやれよ」と言われていたとのことですが、介護をしながらやりたいことはやれている?

恋池 先生は結構貯金があったんですけど、使っていいと言われていたので、私が自分のやりたいことのために使っちゃいました(笑)。漫画を自費出版したりとか、家の修繕のためDIYしたりとか。

――先生とお別れした後のことも考えますか。

恋池 あ、そうですね。私はまたいい人を見つけて結婚して、幸せになろうと思ってます。

――恋池さんはまだ40代ですもんね。

恋池 それを言ったら先生は「背後霊になって邪魔しちゃうかも」とかって言ってましたけど、背後霊もひっくるめて全然、幸せにやっていきますよ(笑)。

共に歩んだ約20年「先生はやっぱり私の“永遠の師匠”」

――振り返ってみて、真崎先生との約20年の歩みをどのように感じていますか。

恋池 わけわかんなかったけど、自由な人と一緒にいたら自由になるのかなって。結婚しても「妻」っていう役割を課してくる人じゃなかったから楽だったし、どこまでも自由でしたね。

 先生は、自分以外の誰かになろうとしない人だったし、誰かの期待を背負ったりもせず。自分がつまらないと思ったら、地位でも名誉でも簡単に捨てちゃう。どこまでも自由で、自分を信じる力が強い。そんな先生はやっぱり私の“永遠の師匠”ですね。

撮影=佐藤亘/文藝春秋

(平田 裕介)