本記事はRokt松田誠氏による寄稿です。
記事のポイントリテールメディアの次のフロンティアとして、ECサイトなどの蓄積データを活かして自社で扱わない商品やサービスを訴求するノンエンデミック広告が注目を集めている楽天市場はRoktと連携し、購入完了直後の心理的モーメントを活用したノンエンデミック広告を導入することで、ユーザー体験を損なわずに付帯収益を創出している広告主の事例では、購買意思の明確なユーザーが集まる購入完了画面経由で獲得した顧客は、主要プラットフォームと比較してLTVが高くなる傾向が示されている
2026年6月、シンガポール・マリーナベイサンズ。80カ国・1万1000名以上が参加した「NRF '26 Asia Pacific」が閉幕した。世界2500以上のリテールブランド、300の出展企業が一堂に会したこの場で繰り返し語られたキーワードは「多様性」「AI導入」、そして「人間とAIの境界線」の3つだった。本稿では、Roktが最終日に主催したラップアップセッションの内容をもとに、現地で語られた議論のエッセンスをお届けする。

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アジアの多様性、AI導入、そしてAIと人間の境界線。3日間にわたるNRF APAC 2026の議論を踏まえ、Roktのラップアップセッションは最後に「では、今すぐできることは何か」という問いへと着地した。Roktのクライアントサクセス部門ディレクター、小林奈央によるプレゼンテーションは、カンファレンス全体のインサイトを受け止めながら、リテール企業が次の成長を描くための具体的な視点を示した。

小林奈央氏(Rokt クライアントサクセス ディレクター)

「ノンエンデミック」で、リテールメディアが次のフェーズへ

NRF全体を通じて繰り返し語られたテーマのひとつが、リテールメディアの台頭だ。リテールメディアは今や、店舗やECという本業に加えて、蓄積した顧客データと購買データを「メディア資産」として収益化する事業モデルだ。自社取扱商品のメーカーを対象とした「エンデミック広告」はすでに多くの企業が導入しているが、さらにその先にある「ノンエンデミック広告」(自社で取り扱っていない商品やサービスの広告)が、次のフロンティアとして注目されている。ファッションECが保険や金融サービスの広告を配信する、といったイメージだ。グローバルでは米国を中心にこの市場が急拡大しており、日本でも今後大きな成長が見込まれている。そのノンエンデミック広告のタッチポイントとしてRoktが着目・特化しているのが、トランザクションモーメント(購入の瞬間)だ。「Rokt Thanks」では、この「購入の瞬間」に、顧客にとって関連性の高い第三者ブランドのオファーを表示することで、ECの付帯収益の創出を実現している。買い物を終えた直後の顧客は気分が高揚しており、次の提案に対する心理的なハードルが低い。しかも購入が完了した後のタイミングであるため、離脱のリスクがない。さらにこの瞬間には、ファーストパーティデータが豊富に存在する。誰が、何を、どのくらい購入したか。それらの情報をAIで分析することで、一人ひとりの顧客にとってもっとも価値のある情報を見極めて届けることができる。「購入完了画面で広告を表示することに、最初は不安を持つ企業様も多いです。顧客が離脱するのではないか、ブランド体験にネガティブな影響が出るのではないか、と」と小林は正直に語る。「ですがトランザクションモーメントは、あらゆるオンライン行動の中でももっとも顧客が幸福を感じる瞬間。自分に向けてパーソナライズされた提案であれば、広告は"邪魔なもの"ではなく"価値あるコンテンツ"として受け入れられます」。

楽天市場がRoktと実現する、「ユーザーに寄り添う」ノンエンデミック広告

秦俊輔氏(楽天グループ アカウントイノベーションオフィス ジェネラルマネージャー)

このセッションでもっとも注目を集めたのが、「楽天市場」へのRokt Thanks導入の発表だった。楽天グループにてナショナルブランドのマーケティング戦略立案から販売促進までフルファネルのソリューションを提供している組織を統括する秦俊輔氏は、導入の経緯をこう語った。「実は以前から、楽天の中でもサンクスページで広告収益を上げようという話はありました。ただその時は、トップページの広告もサンクスページの広告も、インプレッションの価値は変わらないだろうという捉え方をしていた」。考え方が変わったのは、Roktの提唱する「トランザクションモーメント」という概念に触れてからだ。「楽天市場でお客様がトップページを訪れた瞬間と、購入を完了した直後。ここはユーザーのモーメントが明らかに違う。同じバナーを出すだけでは効果が出ない。その心理的なモーメントを捉えた上で適切なメッセージを送り込むことで、高い効果が出せると考えました」。楽天グループ内でもRokt Thanksを先行して導入した「楽天ブックス」「楽天チケット」「楽天ビューティー」といった各サイトでの実績から判ったのは、ユーザー体験を損なわずに付帯収益を創出できるという事実だった。「今まで我々がマネタイズできていなかった形でサンクスページでのマネタイズに成功しており、その新たな収益を自社サービスの改善に投資できる。この好循環が回っています」。そして今年6月、「楽天市場」でもいよいよRokt Thanksの導入が開始。国内最大級のECである楽天市場の本格的なノンエンデミック広告への参画は、日本のリテールメディア市場にとってひとつの転換点となる可能性がある。秦氏が強調したのは、広告体験そのものの質の変化だ。「広告は、どうしてもユーザーから邪魔なものと捉えられるケースがある。ただ、このトランザクションモーメントで、顧客に寄り沿った提案ができれば、それは広告というよりも『新たなコンテンツ』としてユーザーに受け入れられる。RoktのAIが我々の購買データとつながって、ユーザーに良いご提案をしながら、収益を最大化できることを期待している」。

広告主の視点 Oisixが語るノンエンデミックxリテールメディアの強み

トランザクションモーメントは、ECサイトに新たな付帯収益をもたらす。だが視点を変えれば、それは広告主が「ECで購買直後の顧客」にリーチできる、絶好のマーケティング・タッチポイントでもある。食品宅配サービス大手のOisixも、Roktを新規顧客獲得のために活用している広告主のひとつだ。

青木孝哲氏(オイシックス・ラ・大地 執行役員/Oisix EC事業本部 本部長)

Oisixの主なユーザー層は子育て世代だが、子育て世代が日常的に購入するものは食品だけではない。Oisix EC事業本部 本部長の青木孝哲氏は「他社さんで子育て世代の方が買っているものの後に、Oisixのブランドを出させていただくというのがすごくメリットです」と語る。また、オファーが表示されるのは、Roktとパートナーシップを結ぶ、信頼性の高い大手ECの購入完了ページに限られる。そこにいるのは、きちんと購買意思を持ってサイトを訪れ、実際に決済まで完了したユーザーだ。Oisixの実績データでも、Rokt経由で獲得した顧客は2回目購入率(F2転換率)もその後のLTVも高く、主要プラットフォームと比較しても良質な顧客が集まる傾向が出ているという。ECパートナーにとっては付帯収益の獲得と既存顧客のエンゲージメント強化。広告主にとってはもっともコンバージョン意欲が高い瞬間への新規顧客獲得。そして顧客にとっては、購入した内容に関連した価値あるオファーとの出会い。業種・業界を超えて、それぞれがともに価値を得るエコシステムを作ること。それがRoktのめざす形だ。

タケノコから曲げよ 今、この瞬間が起点だ

セッションを締めくくるにあたって、筆者は会場に、あるマレー語のことわざを紹介した。「Melentur buluh biarlah dari rebungnya」〜竹を曲げるときは、タケノコから曲げよ。アジアの多様性が問いかけるローカル適応の判断、FOBOの時代に求められるAI導入の胆力、そして人間とテクノロジーの役割をめぐる継続的なキャリブレーション。NRF APAC 2026が投げかけたすべての問いに、唯一の正解はない。しかし、ひとつだけたしかなことがある。リテールの構造が変わり、消費者の行動が変わり、テクノロジーが変わっている今この瞬間こそが、竹を曲げるタイミングだということだ。タケノコのうちに方向を定めた企業と、大きく育ってから曲げようとした企業の間には、やがて取り戻せない差が生まれる。NRF APACで交わされたこれらの議論が、貴社の次の一手を考えるヒントになれば幸いだ。本レポートはNRF '26 Asia Pacific(2026年6月2〜4日、シンガポール・マリーナベイサンズ)においてRoktが主催したVIPランチセッションの内容をもとに構成しています。本セッションに関するご質問・詳細についてはRokt Japanまでお問い合わせください。
松田 誠(まつだ・まこと)Rokt合同会社 日本マイクロソフトでOffice 365を始はじめとした各種ソフトウエア・サービスのビジネスをリード。ケルヒャーでコンシューマービジネスの責任者を担当した後、2019年にRokt合同会社に入社。ビジネスデベロップメントとして日本市場におけるRoktビジネスの立ち上げと拡大に従事している。
写真:Rokt提供