「アリシアを殺すのは簡単だ。超法規的殺人が帰ってきた」24歳女性の政治系配信者が“タンデム銃殺”…陰謀論やフェイク画像拡散で大混乱に【フィリピン】
一人の若い女性の死をめぐり、フィリピン社会が大きく揺れている。
【写真を見る】銃撃され死亡したアリシアさん(24) TikTokで“政治系配信”を行なっていた様子
事件は現地時間7月17日午前3時ごろ、マニラ首都圏のカローカン市で発生した。同国で有名な政治系インフルエンサー、アリシア・リパタさん(24)が、同居するパートナーと帰宅した直後、バイクに乗った2人組の男に銃撃され死亡した。パートナーも複数の銃弾を受け、現在治療中だという。
大手紙国際部記者は次のように解説する。
「バイクの『2人乗り(ライディング・イン・タンデム)』による犯行です。運転役と実行役に分かれるため逃走しやすく、フィリピンではスリから暗殺まで多用される手口です。国家警察は直ちに特別捜査班を設置し、すでに実行役と運転手とみられる男ら計3人を逮捕しました。ただ、事件の背後には"黒幕"を含めたさらに複数人が関与しているとみて、警察は慎重に全容解明を進めています」
政治対立の最前線にいた"お騒がせ"インフルエンサー
「ミマ・アリシア」の愛称で活動していたアリシアさんは、歯に衣着せぬ物言いで絶大な人気を誇っていた。事件の背景に見え隠れするのは、現在のフィリピンを二分する深刻な政治的分断だ。
「現在のフィリピン政界では、2022年の大統領選でタッグを組んだはずのマルコス大統領派と、サラ・ドゥテルテ副大統領派が激しく対立しています。
サラ氏はロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の娘です。前大統領は、在任中の強硬な『麻薬戦争』で数万人の容疑者を処刑し、現在は国際刑事裁判所(ICC)の拘置施設に収監されています。
マルコス派が政府や下院を抑える一方、ドゥテルテ派は地盤のミンダナオ島や上院の一部で強い影響力を持っています。この権力闘争が、国民やネット上の世論にも深い分断をもたらしているのです」(前出・大手紙国際部記者)
殺害されたアリシアさんは、反ドゥテルテ派の急先鋒として過激な発信を繰り返していた。
「過去には『ICCがドゥテルテ前大統領を逮捕する』という事実無根の動画を配信したり(のちに実際に引き渡された)、事実とは異なるニュースを拡散したりと、"お騒がせ配信者"の一面もありました。
ただ、マルコス支持層にとっては心地よい情報も多く、熱狂的な支持を集めていたのも事実です。裏取りよりもイデオロギーを優先するタイプの配信者だったと言えます」(同)
ネットで過熱する「陰謀論」とフェイク画像
こうした尖った政治的発言が、凶行の引き金となったのか。警察は当初、動機について「捜査に支障をきたす」として明言を避けた。
真相が伏せられている状況が、ネット上での"陰謀論"の暴走に拍車をかけた。後に警察は犯行の動機について、アリシアさんが抱えていた借金が原因だと明らかにしたが、それでも、SNSには、ドゥテルテ派による犯行を疑う過激な書き込みが溢れかえっている。
「ドゥテルテがまたやった!」
「サラは殺人者の父を持つ。アリシアを殺すのは簡単だ。超法規的殺人が戻ってきた」
混乱はそれだけにとどまらない。警察当局は逮捕した容疑者2人の顔にモザイクをかけて公表したが、ネット上では「無加工の被疑者写真」とされる画像が急速に拡散した。
これに対し、フィリピン国家警察のナルタテス長官は「警察がモザイクのない顔写真を公開した事実はない」とキッパリ否定。拡散された画像は顔の特徴が加工され、記載された日付も実物と異なる「フェイク画像」であると説明し、事態の沈静化を図っている。
若き政治系配信者が銃弾に尚れた今回の事件。真相究明へ向けた捜査の行方に、国内外から注目が集まっている。
