(※写真はイメージです/PIXTA)

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人生100年時代といわれるようになった今、現役時代は真面目にコツコツ働いて、老後は貯金と年金で穏やかに暮らしたい。そう考えていても、「こんなはずじゃなかった」と悩まされる人は少なくありません。とくに子どもや孫への援助は、「これ以上は無理」と思っても断りづらく、徐々に老後の生活を圧迫していくことがあります。孫の誕生を機に“思わぬ誤算”に直面した60代夫婦の事例をもとに、CFPの石川亜希子氏が解説します。

〈年金月27万円・貯金3,000万円〉60代夫婦の誤算

トオルさん(仮名・69歳)は、妻ミチコさん(仮名・68歳)と都内郊外の一軒家に2人で暮らしています。夫婦で月に約27万円の年金を受給しており、退職時には退職金と合わせて3,000万円ほどの貯金もありました。

そのためトオルさんは、老後の生活を不安に思うよりも、これからはミチコさんと一緒に趣味や旅行を楽しみたいと考えていました。現役時代は仕事で家を空けることが多かったため、家事や育児は任せきりだったという後悔の念が強かったからです。

実際、退職してすぐ、夫婦で海外旅行に行きましたし、数百万円かけて自宅の大規模なリフォームも済ませました。今後も、そのように穏やかに暮らす未来を思い描いていましたが、想定外の出来事が起こりました。

結婚してなかなか子どもを授からなかった一人娘マユさんが、なんと双子を妊娠、出産したのです。

「頼めば来てくれる」…娘からのSOSで消えた“老後の自由”

2年間の育児休業を経て仕事に復帰したマユさんから、実家には頻繁に電話がかかってくるようになりました。

「保育園から電話がかかってきちゃったんだけど、お迎えお願いできる?」
「子どもの熱が下がらなくて、明日、来てもらえないかな?」

マユさんの夫は毎日帰りが遅く、家事や育児の分担はあまり望めない状況でした。トオルさん夫婦は、平日1人で仕事と家事、双子の育児に奮闘する娘のため、度々マユさんの家を訪れました。家事を手伝ったり、孫たちの世話をしたりと、できる限りのことをしていました。

そして、「できる範囲で」と考えていたはずが、気がつけば、居間のカレンダーには孫関連の予定が並ぶようになっていました。夫婦の旅行の計画は後回しになり、外出の予定も「その日は何か頼まれるかもしれない」と控えるようになっていったのです。思い描いていた定年後の自由は消えていきました。

もちろん、マユさんに悪気はありません。しかし、「頼めば来てくれる」という安心感が、少しずつ依存へと変わっていったのかもしれません。

「双子の孫はかわいい、でも……」削られていく老後資金と体力

孫たちの食事代や交通費、日用品の購入など、一つひとつは小さな出費でも、積み重なれば決して無視できる金額ではありません。

総務省の「2025年(令和7年)家計調査報告」(※1)から65歳以上の夫婦のみ、無職世帯における家計支出の平均を見てみると、実収入から非消費支出(税金、社会保険料など)を差し引いた可処分所得は約22万1,500円となっています。一方、消費支出は約26万4,000円で、毎月約4万2,500円の赤字となることがわかります。

トオルさん夫婦は月に約27万円の年金を受給していますが、決してゆとりある生活を送れるわけではないのです。

また、孫たちの誕生日やクリスマスにはプレゼントを用意しますし、人気のテーマパークに連れて行ったりもします。トオルさんが現役であれば問題がなかったことも、年金生活となった今、だんだん重荷になってきました。

貯金は少しずつ減っていきます。いつまで健康でいられるかもわかりません。今のペースで援助を続けて、自分たちの老後は大丈夫だろうか。それでも、「もう援助できない」とはなかなか言い出せませんでした。

こうした状況のなかで、目に見えにくい負担もじわじわと増えていきました。お金以外にも、時間や体力、そして精神的な余裕が削られていったのです。

「双子の孫はかわいい。でも、正直しんどい……」

妻がそうこぼしたとき、ようやくトオルさんはこのままではいけないと気づきました。老後を楽しむための時間が、いつの間にか義務のように埋められていました。貯めてきたお金も、本来自分たちのために使うはずだったのに、使い道が少しずつ変わってしまっていました。

「いつまでも甘えていてごめんなさい」…老後破産を防いだ夫婦の決断

問題は、「どこまで支えるか」という境界線が曖昧だったことでした。

トオルさん夫婦は、マユさんに正直な気持ちを話しました。これまでのサポートの内容や頻度、正直な負担感など、具体的に伝えたところ、マユさんも初めて両親の状況を理解しました。急なお迎えなど、自分と夫で対応しなければならないのに、まず両親に打診することが当たり前になってしまっていたとマユさんも反省しました。

「いつまでも甘えていてごめんなさい……」

それから、マユさんからの急なお願いは劇的に減りました。夫婦で話し合い、自治体のファミリーサポートの利用も始めたそうです。

孫たちに会う頻度が減って寂しい気持ちもありましたが、このまま何も言い出せずに援助を続けていたら、本当に老後破産に直面してしまったかもしれません。体力的にも持たなかったでしょう。

娘や孫たちの支えではありたい、しかし、援助はほどほどにすべきだなと、トオルさんは改めて思いました。

夫婦の生活にも少しずつ変化が現れました。予定表に空白の日が戻り、気兼ねなく外出できるようになり、旅行の計画も、再び現実的に考えられるようになりました。

孫たちとの時間も楽しめるようになりました。

【CFPの助言】「できること」と「暮らしを守ること」のバランス

老後資金というと、「いくらあれば安心か」という点に意識が向きがちです。しかし、実際には、お金だけではなく、時間や体力の使い方も生活の満足度を大きく左右します。

親ならば、子どもに援助したい気持ちがあるのは当然ですが、「できること」と「自分たちの暮らしを守ること」のバランスを取ることが大切です。

老後のお金は、単に不安に備えるだけではなく、自分たちらしい時間を守るためのものでもあるのです。

※1 2025年(令和7年)家計調査報告〔家計収支編〕(総務省)

https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2025.pdf

石川 亜希
CFP