ルフィグループで「20人の男と関係」と告白…6億円を奪った“伝説のかけ子”が暴行されても詐欺を続けたワケ
※本稿は、栗田シメイ『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)の一部を再編集したものです。

■2019年にマニラへ、犯罪に手を染める
―新人受け入れ資料
―案件説明資料
そう銘打たれた詐欺マニュアルを、山田李沙がマニラのウエストマカティホテルの一室で確認したのは、2019年9月のことだ。
そこには、アポ電(詐欺の電話)に使うiPhoneが支給されること、組織の連絡用のスマホは肌身離さず携帯すること、警察官を装いニセの電話をかける「1線」の手口の詳細などが記載されていた。捜査のアシがつきにくいよう、スマホのSIMカードは月に5〜8枚ほど替えるとも記されている。
また、マニュアルの中では、食費として週に3000ペソ(約8000円)まで支給されること。トイレにはトイレットペーパー以外のものを流さない、夜はできるだけ目立たないように過ごすなど、生活に伴うルールや注意も付言されていた。
かけ子により多少の差異はあるが、山田の詐欺での必需品は以下のようなものだ。アポ電用で2台、リクルート用の3台、業務連絡用の2台と計7台のスマホ。そこにマルチタイプの充電器と置き型Wi-Fi、デスクトップPCにタブレットが1台。これが、かけ子としての彼女の“仕事道具”だった。
■日本に電話をかけまくる
フィリピンに渡る前、山田はこれから自分が詐欺を行うということに当然気づいていた。
渡邉優樹の組織では、かけ子をリクルートする際、原則として本人に意思確認をしていたからだ。これは、強制していたわけではないという既成事実を作るためでもある。山田はそのうえで、2つのノルマを自らに課した。
「風俗嬢時代より稼ぐこと。月収200万円が最低ライン」
「やるからには組織でナンバーワンのかけ子になる」
「A箱」に配属された彼女は数カ月後には有言実行し、3年半の間で約6億円を詐取することになる。未払い金を含めれば、取り分は実に6000万円にも上ったという。
山田に与えられた役割は、「1線」のかけ子として詐欺が「刺さる(成功する)」案件を見つけてくることだった。かけ子の中でも1線は詐欺の端緒であり、精神的な負担が最も重い役回りとされる。理由は単純である。ゼロから「刺さる」状態にまでもっていくには、相当の数の電話をこなす必要があり、運の要素も大きいためだ。
「マニュアル一辺倒では人は騙されない」
山田は、1週間ほど電話をかけ続けてそう感じた。かけ子時代の小島のように、組織には適当に仕事をやる者も少なくない。だが、山田は違った。着いて早々、数々の案件を獲得していった。「最初の1分で、騙される人間かどうかの判別がかなり正確についた」とは、本人の弁である。
■「ボスにほめられ、うれしかった」
山田が最も得意としたのは、「自分は絶対に騙されない」と過信している者への対応だった。山田にとっては、そんな人物ほどカモになる。「あなたが詐欺に巻き込まれた」という設定を創作し、被害者として諫(いさ)めながらも、時折「しっかりされているんですね」などと相手のことを褒めるのが山田の手法だった。

「五十嵐」と名乗った彼女が詐欺師として突出していたのは、日本へかける「アポ(電話)」の本数だ。一日300本。休むことなく、ひたすらかけ続けた。大半の電話は通話をすぐに切られる。100件近くかけて、1〜2件「刺さる」案件があれば上々だ。成功率を上げるために、数をこなすことは絶対的に重要だった。山田に“数字”がついてくるのは、必然だったのかもしれない。彼女が躊躇なく電話をかけ続けた背景には、こんな思いもある。
「数字を上げられない人間に価値はない、という考えが箱の中には浸透していました。私は誰よりも多く電話をかけ、数字を上げて評価されたかった。実際すぐに案件を取りまくり、幹部たちからも『俺たちはお前を尊敬している』と褒めてもらった。特にボス(渡邉)には可愛がってもらいました。人生でそんな経験をしたことがなかったので本当に嬉しかった」
■グループの男たちに強姦された
加入当初はまだ、犯罪行為を行っているという自覚があった。大なり小なり後ろめたさも感じていた。それが1カ月も経つ頃には、「仕事」と割り切るようになり、犯罪に手を染めているという感覚が希薄になっていく。そうして、初月だけで2200万円分のキャッシュカードを奪っている。
ある日の成績発表のミーティング後、数字をあげていた山田は祝福の言葉をかけられ、A箱の仲間たちと打ち上げをした。山田も悦に入り、饒舌となる。しかし、酔いが回ったところで部屋に戻ろうとしたとき、同じ箱のメンバーだった2人の男性に背後から襲われた。右手の薬指がない男だった。次の日、強姦されたことを山田は箱の管理者に伝えることができず、一人で病院に足を運んだ。

翌日、A箱に戻って電話を再開しようとした際、“加害者”の男性は周囲に筒抜けになるほどの大声でこんなことを話していた。
「女がセックスを断ったら暴行すればいいんだよ」
悔しくて、涙が頬を伝った。怒りに震えた山田は、復讐を決意する。それは腕力に任せたものではなく、仕事の実績で相手を蹴落とすというものであった。
「こいつらより絶対に上の立場になってやる。そのためには結果を残し続けるしかない」
これ以降、山田の売り上げが月で1000万円を切ることは一度もなかった。その実数は、毎月平均して3000万円ほど。多い月では5000万円にも上ることになる。
■「渡邉さんは日本一のボス」と心酔
渡邉たちはかけ子の感情をコントロールすることにも長けていた。集団生活を送るかけ子たちに厳しく接する一方、ときには甘い言葉もかけた。それも均一化されたものではなく、個別に、である。山田は手紙の中で、錯綜する心情を漏らすこともあった。
「ボスと藤田さんには大変可愛がっていただき、庇(かば)いたいという気持ちもありました。庇いたいという気持ちと真っ当に生きようとする自分がいて大変複雑な気持ちです。(かけ子の)みんなは幹部のことを『あいつら』と呼びますが、私にとっては『あいつら』ではありません。渡邉さんは日本一のボスです。集団生活の中で、グループには強い絆のようなものもできていました」
犯罪行為を行っている自覚が消えていくことについても、こう言及している。
「毎日被害を出し続けることによって麻痺していった。現場を見ないで口先だけで指示を出すため、(被害については)ニュースを見ないと分からないこともあった。自分が起こした事件でも『よくあることだ』と認識していました。詐欺も、強盗も、みんなそうだったと思います」

■渡邉と一度だけ関係を持った
末端のかけ子や実行役は、幹部からすれば「使い捨て」でしかない。にもかかわらず、実刑判決を受けたあともなお幹部たちを庇う山田の心情は理解しがたいものである。従来の詐欺グループとは一線を画す渡邉の組織の歪な構図が見て取れるようだった。

山田は先述したように、加入から1カ月ほどで組織の中で上位の売り上げを叩き出すようになる。数少ない女性メンバーということもあり、幹部と接触する機会もあった。
ある日、珍しくボスである渡邉がA箱を訪ねてきた。メンバーたちと酒を飲み、酔っ払ったところで山田に近寄る。そして、二人はホテルの一室に消えて行き、数回出し入れするだけの短いセックスをした。行為後、二人は特に言葉を交わさなかった。それでも山田は、組織の中で尊敬を集めていた渡邉に認められたような感覚を覚えたという。
のちに逮捕され、札幌の女子刑務所で取材したとき、面会室で会った山田はまっすぐ私の目を見つめながら告白した。
「酔った勢いで、私はボス(渡邉)と1度だけセックスをしました。ボスは数ピストンで私の中で果てた。以降、詐欺グループの中で20人ほどの男性と関係を持ちました」
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栗田 シメイ(くりた・しめい)
ノンフィクションライター
1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』(扶桑社新書)、『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)。新著『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)が発売中。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上でスポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。
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(ノンフィクションライター 栗田 シメイ)
