円安を喜んでいるとしたら愚かな行為…世界的な投資家ジム・ロジャーズが「自国通貨の価値の下落はいかなる理由であれ好ましくない」と警鐘を鳴らすワケ
2026年6月現在、日本円は1ドル160円台の超円安で推移。この円安を追い風に、日経平均株価は最高値を更新しています。その一方、一般の消費者からは「株価は上がっても給料は上がらない」「物価ばかりが高くなる」という声を耳にします。このような状況は、何によって引き起こされているのでしょうか。本記事では、ジム・ロジャーズ氏の著書『大暴落前夜 狂宴バブル後の生き抜き方、資産の守り方』(プレジデント社)より一部を抜粋・編集。世界的な投資家であるジム・ロジャーズ氏の言葉とともに、日本経済が「株高」と「実質賃金の低下」で二極化する背景をひも解きます。
円安を喜ぶ輸出メーカーと、物価高に苦しむ消費者
日本円はここ数年は概ね1ドル140~150円台※1で推移しており、円安が続いている。かつては円高に苦しんだ輸出を主軸とするメーカーも、今ではこの円安を歓迎し、それが株価上昇の要因となっているという見方もある。
ここで、少し考えてみてほしい。仮にあなたがトヨタ自動車の株を持っていたとして、株価が倍になったとする。日本円では儲かったと言えるだろう。しかしながら、もし円の価値が他の通貨に対して半分になっていたら、儲かったと言えるだろうか?
自分は海外旅行をしないから関係ない?
たとえ海外に行かなくとも、今や輸入品を使わずに生活できる人などほとんどいない。そして、円の価値が下がれば輸入物価が上昇し、日本国内の多くの人々にとって生活コストがどんどん増すことになるのだ。
リーマン・ショックでアメリカと世界経済が大混乱に陥っているとき、当時のドル安について聞かれたアメリカの経済学者のベン・バーナキン氏が「そんなことは海外旅行をするアメリカ人以外にはどうでもいい」と語っているのを聞き、私は耳を疑った経験がある。
自国通貨の価値の下落はいかなる理由であれ好ましくないし、私のこの考えは常に変わっていない。理論的には、通貨価値が下落すれば輸出企業にとっては競争力が高まり、短期的には利益を上げやすくなることもある。
つまり、一部の輸出企業は得をするかもしれないが、消費者全体、特に中間層以下の人々にとっては痛手となる。過去に「弱い通貨を基盤とした経済成長」が見られた例もあるが、それは非常に稀で、一般的な成功モデルではない。
結局のところ、「短期的な利益の裏には、長期的な痛みがある」ということだ。これは今の日本経済にも当てはまる現実である。円安を日本人が喜ぶなどということは、本当に愚かな行為なのである。
※1:2026年6月現在は、1ドル160円台で推移
経済回復をめざして、2012年に「アベノミクス」がスタート
今の円安の最大の原因は、安倍晋三元首相がスタートさせたいわゆる「アベノミクス」である。アベノミクスとは2012年の年末からスタートした第二次安倍政権において、安倍首相が景気回復ならびに経済復興をめざして掲げた経済政策である。
それは、「大胆な金融緩和政策」であり、デフレを脱却し、年2%のインフレ率達成が実現されるまで、無期限で量的緩和政策を続けることを宣言した。その結果、日銀は紙幣を刷り続け、市場に供給し続けることで、景気を回復しようとしたのだ。
当時の日銀の黒田東彦総裁は、次々と大規模な“異次元”レベルの金融緩和政策を実施。就任した2013年には、国債は年50兆円、ETF(上場投資信託)は年1兆円の買い増しを決定し、2016年には、日銀では初めてとなるマイナス金利に舵を切った。
さらに同年には、イールドカーブ・コントロール(YCC)※を導入。日銀がこれまで行ってきた金融緩和政策をさらに加速、拡大する形で、矢継ぎ早に追加の金融政策を実行していったのだ。黒田総裁に倣い、私も便乗して日本株のETFを買い、少し前に売り払ってずいぶん利益を上げさせてもらった。
※イールドカーブ・コントロール:Yield Curve Control(YCC):日本銀行による金融政策の一つ。 国債の短期・長期の利回り曲線 (イールドカーブ)を操作し、 市場全体の金利水準を適切な水準に維持し、 景気改善や物価安定を図る。
世界は今、通貨価値が下がって物価が上がる「スタグフレーション」傾向に
常々私は言っているが、中央銀行が紙幣を刷り、政府が国債を買い入れるといった金融政策で経済を立て直した国は、歴史上、一つもない。結局は通貨の価値が下がる可能性が高いからだ。実際、日本は今まさにそのような円安状態となっている。今の日本には、低金利政策や量的緩和によって、大量に生み出された余剰資金がある。私はこのような余剰資金を「フリーマネー」と呼んでいる。フリーマネーは日銀の政策により生まれたお金と言っていいだろう。
現在、日本におけるフリーマネーの多くは、株式市場と不動産市場へ流れている。日本の株式市場関係者ならびに不動産関係者は、日銀の金融政策の恩恵を実際に受けているとも言える。しかし、このような恩恵はいつまでも続かない。フリーマネーは経済の歪みを引き起こすだけなのだから。
世界は今、通貨の価値が下がり、物価が上昇するインフレ傾向にある。ロシアのウクライナへの侵攻の影響なども大きい。このような状況下、円安は加速し、世界中の投資家たちから日本円は捨てられ始めているのである。現在の日本の状況を見ていると、1976年にイギリスが財政危機に陥ったときの状況とよく似ているように感じられ、私は心配でならない。
日本政府は、指定した利回りで国債を際限なく買い入れることを決定し、その原資として、日銀は紙幣を際限なく印刷し続ける。自国の紙幣を刷り続ければ、価値が下がるのは必然で、これは経済に詳しくない人でもわかるシンプルなことだ。
私は、日本の現在の財務状況は、ウクライナと戦争をしているロシアよりも悪いと思っている。国の負債額がロシアと比べてはるかに大きいからだ。国債の利回りが世界の主要国と比べて低いのも問題だ。つまり現在の円安は、日銀が長年続けていたゼロ金利政策が原因だと結論づけることができるのだ。
ジム・ロジャーズ
投資家

