石ノ森章太郎の「残留思念」が私たちをつくった──『果てしなき石ノ森章太郎』【別冊NHK100分de名著】

写真拡大 (全2枚)

天才を超えたマンガ家・石ノ森章太郎の「とてつもなさ」を語る

不世出の萬画家のレガシーを語り尽くす──。

『別冊NHK100分de名著 果てしなき石ノ森章太郎』は、NHK「100分de名著」の特別番組「100分de石ノ森章太郎」を書籍化した一冊です。

本書では、『さるとびエッちゃん』をヤマザキマリさんが、『サイボーグ009』を名越康文さんが、『佐武と市捕物控』を夏目房之介さんが、『仮面ライダー』を宇野常寛さんが、それぞれに読み解き、その才能を語り尽くします。

2026年7月~9月に開催の書店キャンペーン対象書籍でもある本書より、番組ディレクターによるイントロダクションを公開します。

書影クリックで商品ページへ

石ノ森章太郎の「残留思念」が私たちをつくった

「100分de石ノ森章太郎」は、Eテレ「100分de名著」のスペシャル版第6弾として制作されました。漫画家を特集のテーマにするのは“マンガの神様”手筭治虫に続く二人目で、あらゆるジャンルに取り組んだ“萬画(マンガ)家”石ノ森章太郎を取り上げるのは至極順当なことだったと思われます。

 放送された2018年は石ノ森章太郎生誕80周年記念の年でした。しかし、そういう「アニバーサリー」だけでなく、ディレクターとしては「今こそ」彼を語る意味があることを提示したいところです。

 そこでまず考えたのは、自分にとって石ノ森章太郎とは何だったのかということでした。1974年生まれの私が子どもだった頃は『ドラえもん』『怪物くん』『忍者ハットリくん』など藤子不二雄(当時)のマンガやアニメの全盛期。正直、石ノ森(当時は石森)のマンガは読んだ覚えがありません。それでも小学生の私は石ノ森章太郎を当然のように知っていました。たとえば夕方の再放送で観ていたアニメ『サイボーグ009』。9人の戦鬼(せんき)=サイボーグの哀愁が、主題歌『誰がために』(作曲・平尾昌晃、作詞・石ノ森章太郎。名曲!)と共に心に刻まれています。また、村上弘明主演の『仮面ライダー(スカイライダー)』や、続く『仮面ライダー スーパー1』も毎週欠かさず視聴。駄菓子屋には仮面ライダーのカードやメンコが売っていて、そこから歴代ライダーシリーズの系譜や怪人の知識を得ていました。つまり石ノ森はマンガではなく、別のメディアを通して少年時代の私を形成していたのです。

 一方、藤子不二雄Ⓐの『まんが道』には、年上の藤子コンビが舌を巻く「マンガ家」としての天才ぶりが描かれています。どうやら石ノ森章太郎は世代によって見え方がかなり異なる作家らしい。

 そこで番組は、多様な世代の論者に語っていただくことにしました。少女マンガへの影響(ヤマザキマリさん)、思春期の心(名越康文さん)、マンガ表現の実験性(夏目房之介さん)、そして特撮ヒーローの生みの親(宇野常寛さん)。さらに石ノ森と縁の深い竹宮惠子さん、島本和彦さん両漫画家にも熱い思いあふれるお話を伺い、時代ごとに違う顔を見せる石ノ森の魅力に、多角的に迫りました。

 ただ、石ノ森自身の言葉を自伝で読むと、どこかで自分の仕事に満足しておらず、最後まで未練や後悔を語っていることも印象的です。才能と好奇心の赴くままマンガのあらゆるジャンルに挑戦した一方、物語を結末まで描くことができなかった「未完」の作品に思いを残し続けた石ノ森。作家としての、そんな「残念」もまた石ノ森を考える上で重要なファクターではないでしょうか。

 番組の放送から随分と時間が経ち読者をお待たせしましたが、番組を元に追加取材を重ねて、ようやくムック版が刊行される運びとなりました。「100分de名著」は作品への誘い役。今回取り上げることができた石ノ森作品はごくわずかですが、これを足がかりに、石ノ森の膨大な作品群に踏み入っていただければ、あなただけの「石ノ森愛」を見つけることができるでしょう。まずはこのムックでどうぞ感じてください、『幻魔大戦』(この番組を機に初めて読みましたが心底傑作!と思いました)に描かれた「残留思念」のように、石ノ森は今も私たちの周りにいることを。私たち、そして現在のサブカルチャーは、石ノ森の「残(留思)念」の中で育まれたことを……。

本書『別冊NHK100分de名著 果てしなき石ノ森章太郎』では、

第1章 『さるとびエッちゃん』ヤマザキマリ ~「おかしなあの子」が示す柔らかな生き方
第2章 『サイボーグ009』名越康文 ~描かれた思春期の苦悩と困難
第3章 『佐武と市捕物控』夏目房之介 ~青年マンガの革命児
第4章 『仮面ライダー』宇野常寛 ~受け継がれる コンセプター・石ノ森の遺伝子


という4つの章に加え、竹宮惠子さん・島本和彦さんへのインタビューや、ショートコラム「27歳で上梓した『マンガ家入門』」といったコンテンツを通じて、石ノ森章太郎作品の魅力を語り尽くします。

■『別冊NHK100分de名著 果てしなき石ノ森章太郎』(ヤマザキマリ/名越康文/夏目房之介/宇野常寛 著)より抜粋