「日本円は世界最弱の通貨だ」――そんな言説が、SNSを中心に広がっている。きっかけは、実質実効為替レートの国際比較でトルコリラを下回ったという指摘だ。だが、実業家のマイキー佐野氏はこの議論に正面から疑問を呈する。表面的なデータが語りかけてくる「事実」と、その裏に潜む構造の間には、大きな隔たりがある。
 
実質実効為替レートは、名目為替レートに自国と他国の物価水準を加味して算出される。トルコでは極端な物価上昇が続いており、名目では通貨が下落していても、国内物価の上昇幅がそれを上回る結果、数式上は通貨が高く算出される構造になっている。日本とトルコでは経済規模も国の信用度も市場流動性も根本的に異なる。「最弱通貨」という表現が統計上の見え方にすぎない、という視点は、議論の出発点として押さえておきたいポイントだ。
 
さらに佐野氏は、「インフレになれば実質実効為替レートが上がる」という命題に、重要な条件があることを指摘する。実際に上昇するのは、日本のインフレ率が海外を上回り、かつ名目為替レートが一定である場合に限られる。ところが現実の日本では、インフレの進行と同時に円安も加速する構造がある。物価上昇の速度を名目為替レートの下落が上回ることで、実質実効為替レートはむしろ下がり続けているというのが、佐野氏の整理だ。さらに、企業が輸入コストの上昇を価格に転嫁してこなかった「パススルー率の低さ」という日本特有の問題が、その悪循環をいっそう複雑にしているとも説明している。
 
金利政策と為替の関係についても、踏み込んだ見解が展開される。「金利差は為替に効かない」という議論を佐野氏は「暴論」と切り捨て、注目すべきは金利そのものよりも、金利見通しへの投資家の反応だと述べる。為替市場を動かすのは貿易よりも、グローバルな機関投資家やヘッジファンドによる資産配分の変化だ。日銀が利上げできないという市場の期待が円安を強め、キャリートレードを促進する心理的なメカニズム――その構造を見落とすと、為替の本質は見えてこない。
 
経済のデータを「正しく」読むとはどういうことか。単純な比較の背後に潜む条件と構造の複雑さを、佐野氏の解説は問いかけている。

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現在はアカデミズム関係者・経営者・投資家・学生が参加するビジネススクールも運営