子宮肉腫

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監修医師:
佐伯 信一朗(医師)

兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

子宮肉腫の概要

子宮肉腫は子宮悪性腫瘍の3~7%を占める予後不良な腫瘍です。
子宮の筋肉層や支持組織から発生する悪性腫瘍であり、治療抵抗性が高いことが特徴です。症例数が他の婦人科悪性腫瘍に比べて少なく、病理組織学的に細分化されることから、基礎的研究や標準的治療法の確立が他の腫瘍に比べて遅れています。
病理学的には、以下のように大別されます。

上皮性・間葉性混合腫瘍

がん肉腫

腺肉腫

間葉性腫瘍

平滑筋肉腫

子宮内膜間質肉腫

これらの中で、平滑筋肉腫とがん肉腫はそれぞれ子宮肉腫の約40%を占めています。近年の研究により、がん肉腫は臨床的に高悪性度の子宮体がんとして扱われるようになっています。子宮肉腫の研究は他のがん種に比べて遅れていますが、次世代シークエンサーを用いたゲノム解析の報告が増えつつあり、エピゲノム研究への展開も期待されています。

子宮肉腫の原因

子宮肉腫の正確な原因は完全には解明されていませんが、いくつかの重要な要因が特定されています。遺伝子変異では、TP53、RB1、ATRX、PTEN、MED12、FBXW7などが注目されており、これらの遺伝子の異常が腫瘍の発生や進展に関与していると考えられています。また、DNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな変化も重要な役割を果たしています。分子生物学的には、上皮間葉転換(EMT)やテロメア伸長機構の異常が観察されています。さらに、PI3K/AKT/mTOR経路やTGF-βシグナリングなどのシグナル伝達経路の異常も報告されています。これらの要因が複合的に作用して子宮肉腫の発生と進展に寄与していると考えられていますが、個々の症例での主要因は様々です。今後の研究により、さらに詳細なメカニズムの解明が期待されています。

子宮肉腫の前兆や初期症状について

子宮肉腫の初期症状は非特異的であり、他の良性子宮疾患(子宮筋腫など)と類似していることが多いため、早期発見が困難な場合があります。主な症状には以下のようなものがあります。

異常性器出血

閉経後の出血

月経期以外の不規則な出血

過多月経

骨盤部の痛みや圧迫感

下腹部の持続的な痛み

骨盤内の圧迫感や違和感

腹部の膨満感や腫瘤

下腹部の腫れや膨らみ

触診で確認できる腫瘤

排尿や排便の異常

頻尿

排尿時の痛み

便秘

全身症状

原因不明の体重減少

持続的な疲労感

食欲不振

性交時の痛み

これらの症状は他の婦人科疾患でも見られるものであり、必ずしも子宮肉腫を示すものではありません。しかし、特に閉経後の女性で上記の症状が持続する場合は、速やかに婦人科医の診察を受けることが重要です。

子宮肉腫の検査・診断

子宮肉腫の診断は、以下のような段階的なアプローチで行われます。

問診と身体検査

詳細な症状の聞き取り

骨盤内診

腹部触診

画像診断

経腟超音波検査:子宮の大きさ、形状、内膜の厚さを評価

MRI(磁気共鳴画像法):腫瘍の位置、大きさ、周囲組織への浸潤を詳細に評価

CT(コンピュータ断層撮影):腫瘍の進展範囲や転移の有無を確認

組織診断

子宮内膜生検:外来で実施可能な簡便な検査法

子宮鏡下生検:子宮内腔を直接観察しながら組織を採取

開腹手術または腹腔鏡下手術による生検:より大きな組織片を採取可能

病理組織学的検査

HE染色による形態学的評価

免疫組織化学染色:腫瘍の起源や性質を特定

分子生物学的検査:特定の遺伝子変異や染色体異常の検出

血液検査

一般的な血液検査(貧血の評価など)

腫瘍マーカー(LDHなど):診断の補助や経過観察に使用

PET-CT

全身の転移巣の検索に有用

特に再発や遠隔転移の評価に使用

遺伝子解析

次世代シークエンサーを用いたゲノム解析

エピゲノム解析(DNAメチル化、ヒストン修飾など)

これらの検査を組み合わせることで、子宮肉腫の診断、病期分類、治療方針の決定が行われます。しかし、最終的な確定診断は手術で得られた標本の病理組織学的検査によってなされることが多いです。

子宮肉腫の治療

子宮肉腫の治療は、がんの種類、進行の程度、患者さんの年齢や全身の状態などを考慮して、個々の患者さんに最適な方法が選択されます。主な治療法には以下のようなものがあります。

手術

最も基本的な治療法で、主に子宮を全て摘出します。場合によっては卵巣や周囲のリンパ節も一緒に取り除くことがあります。

放射線治療

がん細胞を破壊するために放射線を使用します。手術後の再発を防ぐため、または手術ができない場合に用いられます。

抗がん剤治療(化学療法)

がん細胞を攻撃する薬を使用します。手術後の補助療法として、または進行したがんの治療に使われます。

ホルモン療法

特定のタイプの子宮肉腫に対して、ホルモンバランスを変える薬を使用することがあります。

新しい治療法

がんの特定の性質を標的とする薬(分子標的薬)や、体の免疫システムを利用してがんと闘う免疫療法などの研究が進んでいます。

これらの治療法は、単独で使用されることもありますが、多くの場合、複数の方法を組み合わせて行われます。例えば、手術で腫瘍を取り除いた後に、放射線治療や抗がん剤治療を行うことがあります。治療方針は、婦人科の専門医、放射線科医、病理医、腫瘍内科医など、様々な分野の専門家チームで検討されます。また、治療に伴う副作用や日常生活への影響についても十分に説明を受け、対策を立てることが大切です。
治療中や治療後の体調管理や生活の質の向上を目的とした支援(緩和ケア)も、治療の重要な一部です。
子宮肉腫の治療法は日々進歩しており、新しい治療法の研究も続けられています。最新の治療法について知りたい場合は、担当医に相談することをおすすめします。

子宮肉腫になりやすい人・予防の方法

子宮肉腫は比較的まれな疾患で、完全な予防法は確立されていませんが、リスクファクターと予防策は知られています。

子宮肉腫になりやすい人

リスクが高い人としては、50歳以上の閉経後女性、アフリカ系の人種(特に子宮平滑筋肉腫)、骨盤部への放射線治療歴がある人、特定の遺伝性症候群を持つ人が挙げられます。また、長期のタモキシフェン使用者、肥満者、糖尿病患者、高血圧患者もリスクが高くなる傾向があります。

予防の方法

予防と早期発見のためには、定期的な婦人科検診が最も重要です。健康的な生活習慣(バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持、禁煙)も推奨されます。ホルモン補充療法やタモキシフェン使用時は慎重なモニタリングが必要です。
遺伝的リスクがある場合は遺伝カウンセリングを検討し、環境因子への曝露を最小限に抑えることも重要です。異常な症状(不正出血、持続的な骨盤痛、急速な腹部膨満感など)がある場合は、早急に医療機関を受診することが推奨されます。
これらの方法は子宮肉腫に特化したものではありませんが、全般的な婦人科疾患の予防と早期発見に役立ちます。完全な予防は困難ですが、これらの注意点を守ることでリスク低減と早期発見の可能性を高めることができます。


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