首位陥落から1カ月後の10月5日、広島のシーズンは終わった。優勝はおろか、2年連続クライマックスシリーズ進出まで逃した。シーズン最終戦となったヤクルト戦のあと、新井貴浩監督はマイクの前に立っていた。

「来シーズンはさまざまなことが変化する年になると思います。来シーズンだけでなく、変わっていかなければいけない、そう考えています。変わるということは、それととともに痛みも生じてくると思います。来シーズンはさらに厳しい道のりになると思います。覚悟と信念を持って、強いチーム、強い選手を育てていきたいと思います」

 スタンドのファンからは拍手や声援が沸いたが、監督の後ろに一列に並んだ選手たちはきっと背筋が伸びたに違いない。


再起に向け、痛みを伴う改革が必要と語る広島・新井貴浩監督 photo by Koike Yoshihiro

【9月にラストスパートのつもりが...】

 新井監督は4年連続Bクラスに終わった22年シーズン終了後、過渡期にあったチームを託された。他球団と比べても戦力は整っていない。

 特に2年目の今季は、西川龍馬がFAでオリックスへ移籍したが、即戦力となる日本人野手の獲得はなし。チームに不足する長打が期待された2人の外国人野手も、開幕早々に長期離脱となった。昨季同様、今季も開幕前の評論家による順位予想は下位ばかりと下馬評は低かった。

 それでも就任1年目から大胆な世代交代をせず、現有戦力を最大限に生かして結果を求めてきた。一軍では出場機会が限られる若手には、多くの打席に立てる二軍で実戦を積ませながら下地づくりに励ませた。

 結果と育成のバランスを取りながら、就任1年目に5年ぶりAクラスとなる2位に躍進させ、今季は8月までセ・リーグペナントレースをリードしてきた。

 就任から整備した投手陣を中心に、守り勝つ野球に舵を切って活路を見いだした。守備力の高い矢野雅哉を遊撃に固定し、侍ジャパンに選出された小園海斗を三塁に回した。日替わりで打線を組みながら、少ないチャンスをものにしていく戦い方で接戦をものにしてきた。

 また、勝負どころのシーズン終盤に主力の離脱が相次いだ昨季の反省から、シーズン序盤から主力野手には休みを与えてきた。

 投手は先発4本柱であっても、前半戦から中7日以上の間隔を空けるなど配慮してきた。8月の9連戦は、先発8投手を起用する大胆なローテーションで勝ち越した。中継ぎもワンポイント登板の投手を除き、3連投はさせなかった。

 すべて9月戦線にラストスパートをかけるための備えだったが、空転した。

【5勝20敗と歴史的大失速】

 他球団にはない蓄積疲労もあったかもしれない。後半戦初戦の7月26日のヤクルト戦(神宮)から9月8日中日戦(マツダスタジアム)までの45日間、丸一日休みの日がなかった。試合のない日は移動日続きで、試合か移動かの日々。8月30日には台風接近のため、早朝からバスと新幹線で広島に戻ってきた。

 こうした蓄積疲労に加え、シーズン序盤から僅差での登板が続いた投手陣が疲弊したのか、9月に入り一気に崩れた。それまでとは違い、試合中盤でも劣勢であれば先発に代打という早期の継投策は、先発陣の焦りに拍車をかけ、中継ぎ陣の負担増につながった。

 それは数字にも顕著に表れた。セ・リーグ6球団の8月までと9月以降の防御率を見れば、一目瞭然である。

巨人/2.59→2.00
阪神/2.50→2.50
DeNA/3.08→3.07
広島/2.25→4.11
ヤクルト/3.75→3.15
中日/2.83→3.84

 8月までリーグトップの防御率を誇っていたが、9月以降はリーグワーストに悪化。カープ打線の慢性的な得点力不足をカバーしてきたが、シーズン最終盤にこらえられなくなった。

 一方で打線は、最後まで投手陣をカバーできなかった。各チームの8月までと9月以降の1試合平均得点を比較してみた。

巨人/3.1→4.0
阪神/3.3→4.1
DeNA/3.6→3.8
広島/3.0→2.5
ヤクルト/3.6→3.8
中日/2.6→2.7

 8月まで首位に立ち、9月戦線で他球団が主戦を当ててきたことも影響したかもしれないが、得点力はさらに低下しセ・リーグワースト。9月以降、1試合平均得点が下がったのは広島だけだった。

 投打ともに精彩を欠き、勝負どころと定めた9月は5勝20敗という歴史的な大失速を招いた。最終的に68勝70敗5分の4位。「8月までは強かった」のではなく、9月以降に見せた姿が、今の広島の力だったということだろう。

「昨年の反省を踏まえて、『よし、9月行くぞ』と思っていたんだけど、自分の見積もりが甘かった。選手はみんな『よし、行こう』と思ってくれたんだけど、それで力を出せなかった。実際にこういう結果になったということは、監督である自分のミス」

 シーズン終了後、新井監督はそう振り返った。

 ただ変わるのではなく、大きく変わることが求められている。就任3年目の来季、その目に見ているのは大きく拓けた平坦な道ではなく、いばらの道に違いない。それでも力強く進んでいく。新井監督の表情、言葉からも強い覚悟が感じられる。