自分は絶対悪くない…「仕事ができないのは上司のせい」と言う「責任転嫁の達人」の実態

写真拡大 (全2枚)

根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

仕事ができないのは上司のせい

遅刻やミスを繰り返して上司から叱責された社員が「パワハラ」と騒ぎ立てて難を逃れようとするのは、自己保身のためだろう。悪いのはパワハラの加害者である上司ということにすれば、遅刻やミスなどの自分自身の非をうやむやにできるという思惑が透けて見える。

「遅刻を注意されて逆ギレ…職場を腐らせる「何でも他人のせいにする人」の正体」で紹介した20代の男性が、部署のみなが集まっている場で、先輩に自分を怒鳴ったことに対する謝罪を要求したのも、謝罪に値するようなふるまいをした先輩の非を告発すれば、ハンコの押し忘れという自身の非をうやむやにできるという思惑があったからではないか。

つまり、自分は悪くないと主張したいからこそ、上司や先輩の落ち度をあえて指摘するわけだが、同様の目的で、仕事ができないのは上司のせいという論理を展開する人もいる。

たとえば、ある住宅設備メーカーでは、受注を増やすためのアイデアをみなで出し合っていた最中に、営業成績が部署内で常に最下位の20代の女性社員が「注文を取ってこれないのは、課長や先輩の日頃の教え方が悪いからですよ」と言い出した。この発言には、みな唖然としたようだ。

また、ある飲料メーカーでは、20代の男性社員が、取引先への対応が拙く、先方からクレームが相次いだため、課長から叱責された。それに対して、この男性は「クレーマー体質の取引先を自分に押しつけた課長が悪い」「対応の仕方をちゃんと教えてもらってないんだから、仕方ないじゃないですか」などと逆ギレして、大騒動になったという。

いずれの場合も、仕事ができないのは自分に能力がないせいでも努力が足りないせいでもないと主張するために、都合の悪いことはすべて上司や先輩のせいにしようとしていると考えられる。

「自分は悪くない」「自分の責任ではない」と自己正当化しようとする人は、何かうまくいっていないことが実際にあり、問題が生じている以上、その原因探しをせざるを得ない。しかも、自分の落ち度を決して認めたくないのだから、必然的に他の誰かのせいにして、責任を押しつけることになる。だから、自己正当化と責任転嫁は表裏一体の関係にあることが多い。責任転嫁の対象にされた側は大迷惑である。

部下に責任を押しつける上司

逆に部下に責任を押しつける上司もいる。というか、そのほうが多いかもしれない。たとえば、大手の広告代理店で部長を務める50代の男性は、やたらと会議を開きたがり、終了時間を気にせず自分の感覚でダラダラとしゃべる。厄介なことに、部長の提案に対して部下が少しでも批判したり反対意見を述べたりすると、とたんに機嫌が悪くなり、感情的になって攻撃する。

そのため、部下は賛成するしかなく、会議は部長の提案や意見を追認するだけの場になっている。もっとも、賛成したらしたで、困ったことになる。あるとき、部長が会議で熱心に提案した企画をもとに制作した動画を流したところ、それが炎上して、クレームが殺到した。クライアントからも「なぜこんな動画を作ったのか」という声が代理店上層部に届いたらしく、役員が部長に事情を尋ねた。

すると、部長は役員に「会議で、○○という部下が強引に推し進めたんです。部下の戦略ミスです。私は『大丈夫か?』と疑問を投げかけたんですが……」と言い訳して、部下に責任転嫁したという。

○○と名指しされ、責任を押しつけられた部下としては、「部長が提案したんじゃないですか。僕らは賛成するしかなかったから、そうしただけなのに、こっちの責任にされたら困ります」と言い返したかった。しかし、形だけにせよ賛成したのは事実なので、何も言えないまま泣き寝入りするしかなく、その後極度の人間不信に陥って、精神科を受診しカウンセリングを受けるようになった。

もしかしたら、部長は部下に連帯責任を負わせるために、会議を開きたがり、その場で全員が賛成するように仕向けているのかもしれない。とすれば、批判や反対意見に過剰反応し、感情的になって攻撃するのは、自分の思惑通りにいかなくてイライラするからだと考えられる。

部下への責任転嫁は、もちろん自己保身のためだろう。現在の地位や収入などへの執着も、それを失うことに対する喪失不安も強いからこそ、わが身を守るために、部下に平気で責任を押しつける。

わが身を守りたいという願望は誰にでもあるはずだ。これは、人間が動物であり、あらゆる動物に防衛本能が備わっている以上、仕方がない。だが、防衛本能に由来する自己保身の欲求ばかりが強くなりすぎると、わが身を守るためなら何でもして、罪悪感も良心の呵責も覚えない自己中心的な人間になりかねない。こういう人間は責任転嫁の達人であり、自分の非は棚に上げ、悪いことはすべて他人のせいにする。

現在の日本社会では、指導的立場にある政治家や企業のトップが、何か問題が起きるたびに「自分は悪くない」と主張し、その根拠を並べ立てる。それだけでなく、他人や別の組織に責任を押しつけようとするのも日常茶飯事だ。責任転嫁の達人ほど出世するという印象を与えることさえあるので、それを見習う人が増えてしまっているのは当然かもしれない。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。

どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体