「風が吹いても痛い」だけではない痛風の深刻な害
痛風の本当の害は、腎臓に大きなダメージを与えることだという(写真:keechuan/PIXTA)
「風が吹いただけで痛い」といわれるほどの激痛で知られる痛風ですが、腎臓専門医の郄取優二氏によれば、痛風の本当の「害」は、その痛みではないそうです。
およそ37兆個あるとされる、人間の細胞から出るゴミを処理している腎臓。その機能の低下がもたらす深刻な影響とはどんなものなのか、郄取氏の著書『腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法』から、一部を抜粋・編集して紹介します。
痛風の本当の害は「痛み」ではない
人間の体の細胞の数は、およそ37兆個といわれています。1つひとつの細胞が血液で運ばれてきた栄養と酸素を受け取り、ゴミや二酸化炭素を血液に戻しています。
腎臓がふるい分けしている主なゴミには次のものがあります。
〇尿素 タンパク質が分解された後にできるゴミ。
〇クレアチニン 筋肉が運動するためのエネルギー源の燃えカス。
〇尿酸 細胞の中に含まれる遺伝子の構成成分であるプリン体が、肝臓で分解されたときにできるゴミ。
尿酸は、血液の中で増え過ぎると、結晶になって関節にたまっていきます。すると、関節やその周辺で炎症が起こって腫れあがり、激しい痛みが表れます。
これが「風が吹いただけで痛い」が由来の、痛風です。血液検査では、「尿酸値」という項目の数値が高くなります。
尿酸値に異常がみられたら、レバーをはじめとした内臓類、魚卵、ビールなど、プリン体が多く含まれる食品を控えることが必要となります。薬を飲んで痛みが抑えられているからといって、プリン体がたくさん含まれているビールを飲むなど、痛風を軽く見ている人は少なくありません。
しかし、痛風の本当の害は「痛み」ではなく、腎臓に大きなダメージを与えるということです。痛風(尿酸値が異常に高い状態)が続くと、尿酸の結晶が腎臓にたまり、炎症が起きると、腎臓の機能が低下します。この状態は「痛風腎」と呼ばれています。
痛風の症状が表れるのは主に足の親指のつけ根ですが、先ほど述べた痛風腎をはじめ、体のさまざまな部分もダメージを受けています。これを「臓器間ネットワーク」というのですが、これに関しては後ほど詳しく説明しましょう。
腎臓は、細胞が出したゴミのほかに、腸内細菌が作り出した毒素や、糖尿病の治療に使われる血糖値を下げるインスリン製剤などの成分も処理しています。
これらのゴミや毒素、薬の成分が増え過ぎると、腎臓の処理が追いつかず、血液の中にたまっていきます。こうして引き起こされるのが、「尿毒症」です。全身がむくんで、皮膚が黒ずみ、骨はもろくなって、目が見えにくくなり、思考力が低下します。このように腎臓が処理しきれなくなった毒素が体中を回って、全身の機能が落ちてしまうのです。
(出所:『腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法』より)
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腎臓が弱ってしまうとほかの臓器も共倒れに
「もし、腎臓を何かにたとえるとしたら、何にたとえますか?」と聞かれたとします。私だったら、舞台監督と答えるでしょう。
観客が舞台で目にするのは、演技をしている俳優ですが、俳優がよい演技をできるように全体を把握してサポートし、舞台を管理・運営しているのは監督です。同じように腎臓も、臓器の働きを下支えしている必要不可欠な存在なのです。
舞台は、監督や俳優だけでなく、美術・照明・衣装の担当など、さまざまなスタッフがチームを組み、一致団結して作り上げていくものです。それは私たちの体も同じです。腎臓は血液をろ過するだけ、心臓は血液を送り出すだけと、それぞれが切り離されているのではなく、互いにメッセージを出し合って、連携して働いているのです。これが「臓器間ネットワーク(臓器連関)」です。
臓器間ネットワークで有名なのは、脳と腸との「脳腸連関」です。テレビ番組などでも特集が組まれていたので、多くの人がすでに耳にしたことがあるのではないでしょうか。腸は、多くの神経細胞が存在することから「第二の脳」といわれていて、腸の不調は脳に、脳に受けたストレスは腸に反映されるのです。
医療の現場では、腎臓と心臓の関係性である「心腎連関」が、早くから注目を集めていました。腎臓の機能が低下した患者さんでは心不全の治療がうまくいかなかったり、慢性心不全の患者さんに慢性腎臓病が併発したりするケースが多かったからです。腎臓と心臓のどちらかが悪くなれば、それにともなってもう一方も悪くなる関係にあるのです。
その臓器間ネットワークの中心といえるのが、腎臓です。腎臓は、全身を巡る血液のゴミを取り除いたり、体液のバランスを保ったりしていて、心臓はもちろん、脳や腸など多くの器官・臓器と関係性をもっているからです。
心臓から全身を巡り、腎臓に送られてきた血液は、糸球体でろ過されて、そのろ過されたゴミと水分が一緒になって原尿になります。1日当たり原尿は約150リットルも作られているのですが、そのうちの99%が尿細管で再吸収されて、血液に戻されます。
原尿には、尿素やクレアチニンといったゴミだけではなく、アミノ酸やブドウ糖、電解質といった有用な成分もたくさん含まれています。それらの有用な成分は、水分と一緒に尿細管で再吸収されていきます。
また、細胞が正常に働くためには体液は「弱アルカリ性」に保たれている必要があります。もし酸性に傾きそうなときには、腎臓が尿細管での電解質の再吸収の量を増減して、弱アルカリ性に戻すように調節します。
このように、腎臓は体液のバランスを保つために休むことなく働き続けて、全身の細胞が活動するのに最適な状態を維持しているのです。脳や心臓、腸ほど注目されることはない腎臓ですが、じつは総合的な役割を果たしているのです。
生活習慣の乱れが招く「メタボリックドミノ」
いまからおよそ20年前に、「メタボリックドミノ」という考え方が提唱されました。飲み過ぎ・食べ過ぎ・運動不足といった生活習慣の乱れがスタートとなり、内臓の周りに脂肪がたっぷりとついてしまう「内臓脂肪蓄積型肥満」になると、食後高血糖や高血圧、脂質異常症が起こりやすくなります。
実際にこれらの状態になってしまったら、まるでドミノ倒しのように、肝臓、心臓など広範囲にわたって機能が低下していき、やがて心不全や脳卒中で死に至る可能性も出てくる……これがメタボリックドミノです。
(出所:『腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法』より)
メタボリックドミノの先には「腎臓病」が待っている
もちろん、腎臓病も例に漏れず、メタボが脂肪肝や糖尿病の状態へとつながり、さらにそれが慢性腎臓病へとつながっていきます。
実際、内臓脂肪型肥満の人はそうでない人に比べ、年齢が進むと慢性腎臓病を発症するリスクが高い傾向があるという研究が、米国腎臓学会の学会誌に発表されています。
このようにひとつの病気が原因となって、連鎖的にさまざまな病気が起こるのは、臓器と臓器が連携する臓器間ネットワークが構築されているからです。
日本では、ウエスト周囲径(おへその高さの腹囲)が男性85cm・女性90cm上で、血糖・血圧・脂質のうち、ふたつ以上が基準値から外れると、「メタボリックシンドローム」と診断されます。
これらの条件に当てはまったら、生活習慣を改善することで、下流にある心不全や脳卒中、認知症、そして慢性腎臓病を防ぐことが重要です。
(郄取 優二 : 医学博士、腎臓専門医)