シーズンレスで活躍するのが、シルク&カシミアの大判スカーフです(写真:luigipetro/PIXTA)

体型も体調も変化する中年期、新しい服を買って髪やメイクをアップデートすることも大事だけど、一番は自分と向き合って優しく触ること。

「おしゃれは時にゆっくりペースでいい」と話す気鋭のファッションエディター大草直子さんの『見て触って向き合って 自分らしく着る 生きる』より、大人のTIPSを紹介します。

トレンチコートは「実用の美」で選んで

フライトジャケットやPコート、トレンチコートなど、ミリタリー由来のものは数多くあれど、女性が着るにあたり、素材やシルエット、ディテールがデフォルメされているものが多い。

もちろん、その面白さもあるのですが、多くを変えず、実用の美を踏襲したほうが絶対に素敵なアイテムが、トレンチコート。

トレンチコートは、英国軍の雨具がオリジン。行軍する兵士たちが雨に濡れないように発明されたアイテムです。

撥水加工がされたギャバジン素材を使用し、戦時中の実用を備えたディテールが今なお残るデザインが良い。例えば、銃を発砲したときの衝撃を和らげるためのガンフラップや、水筒などが滑り落ちるのを防ぐため、そして倒れた仲間を引き起こすための肩章など。

デザインディテールのように見えて、実はそこに、確かな理由があるからこそ存在し、なくすと、逆に違和感が生まれるのです。しかも、それぞれが、スタイルアップやデザイン性を高めるなど、別の役割を果たしているのが面白い。

ガンフラップはトラッドな印象を加え、かつ、上半身をすっきり見せてくれるし、肩章は、肩のラインを鋭角にシャープに、ウエストのベルトは、ウエスト位置を高く錯覚させてくれる。

原型は1900年頃発明された、といわれているので、100年以上経っても、今なお決して時代遅れにならないトレンチコート――。オリジナルに近い1着を選べば、きっとこの先100年、「古臭くならない」と思うのです。

アクアスキュータムは実は少しモードに映るし、バーバリーは、男っぽくてトラッド。日本のSANYO COATは、女性らしくエレガントなのが特徴です。

通年使えるスカーフは、「シルカシ」

スカーフというと、シルク100%、しかもツイル織りのものを思い浮かべる方が多いと思います。シルク糸を高密度に織るので、しなやかで丈夫、そして光沢が生まれるのが特徴。

大体サイズは90cm×90cm。大きく羽織る、というよりは、小さく折って結んだり――という使い方がポピュラーで、少しエレガントになるイメージ。

もちろん、こうした1枚も、きちんとした場面だけではなくカジュアルなシーンにも使えるのですが、とにかくシーズンレス、しかもアレンジの仕方が自在なのが、シルクカシミヤ、加えて大判のタイプ。

私が色違いで所有しているのは、エルメスのカレジェアン。カシミヤ70%、シルク30%の混紡なので、ツヤツヤピカピカというよりは、少しマットな質感。

多くの職人がそれぞれのプロフェッショナルな仕事をして完成する「柄」が、シルクツイルに比べて、毛足が立っていることで、曖昧になるのも気に入っているポイントです。

140cm×140cmという大判を、4枚(初めて買った1枚は、20年以上前のものだけれど)、もちろん今でも大事に愛用しています。

三角形に折ってジャケットの上に羽織ったり、三角形を正面に持ってきて、カウボーイのように巻いたり。あとは、必ず旅先には帯同、機内ではブランケット代わりにしています。

高価なものだからこそ、普段使いするのが大事。あくまで、あしらいは大胆に。ぎゅっと結ぶ、小さく折る。

1枚の布。それを、自分を美しく見せるため、華やかさを加えるため、暖めるために、臆せず使うのが素敵です。

そうそう、あまりにくたびれてきたら、額装して飾ろうと思っています。

靴下、タイツはもはや「ボトムス」です

タイトルの通り、クロップト丈のパンツからのぞく靴下や、スカートと靴をつなぐタイツは、ボトムスです。色、質感、透け感、柄や編み方まで、こんなにバリエーションがあり、それほど予算をかけなくても冒険ができるアイテムはありません。

「ヴァンテーヌ」という雑誌で編集者をしていたとき、備品をしまう棚には、ネイビー、黒、ブラウン、グレーのタイツがそれぞれ色味の違いで、何十種類もあったのを思い出します。

さて、靴下。天竺編みより、リブのほうがカジュアル。それも、リブが太いピッチになればなるほど、よりラフな印象になる。もし、チェックのパンツであれば、柄の中の一番明るい色を選ぶと、靴下の色が際立ちフレッシュな印象になります。

逆に最も深い色なら、落ち着いてマニッシュな雰囲気に。白は、ジェンダー限らず、「ユニフォームライク」に見せてくれるので、はずし役にはぴったりです。

タイツは、圧倒的に使えるのは、グレー。

黒のスカート、靴に黒のタイツでは、少し重すぎるから、深いグレー。

イエローのスカートにボルドーの靴、なんていう「カラー×カラー」の場合も、正解は黒ではなくてグレー。前述のパンツでオススメしたのと同じ、ミドルグレーが一番。スカートがしっかりと厚手であれば、30デニールくらいの素肌がほんのり透けるものが良いし、サテンのような薄手、光沢がある素材なら、ウール混の厚手のものだとバランスがきれい。

そう、スカートの素材感と反対のものを選べば良いのです。

もし、スカート、靴どちらかと色を揃えるなら、靴と、がオススメ。

アイススケート選手が、肌色のタイツを、スケート靴と一体化させるのを見るとわかりますが、やはり靴とつなげてあげると、脚がうんと長く見えるから!

「ピエールマントゥ」や「ブルーフォレ」といった、フランスのブランドは色出しが繊細できれい。日本の「Tabio」は丈夫で、さまざまな柄やデニールが揃います。

ストッキングはゾッキタイプ、影になってくれる黒、チャコールグレーが使いやすい。

ちなみに、レッグウェアは薄くなればなるほどフォーマルになるのを覚えておきましょう。冠婚葬祭や入卒園用に、グンゼからその名も「礼装用ストッキング」が発売されています。

カシミヤは洗濯機の手洗いモードで洗う

これは、個人的な意見と経験なので、参考にされる場合はぜひ自己判断で――と、最初にお伝えしたいのですが、カシミヤは洗濯機の手洗いモードで洗っています。


カシミヤやウールなど獣毛は、雨やホコリ、チリに強いので、シーズンに2回洗うかな、くらい。

ただし、湿気を嫌うので、毎日は着ない、一度着たら、2、3日は休ませるようにしています。湿気がなくて風通しの良い場所に保管し、着たら、カシミヤ用のブラシで軽くブラッシング。毛が寝ないように気を付けます。

そして、いよいよ洗濯、というときは、おしゃれ着用の洗剤(花王の「エマール」など)を入れて、ネットに、そして洗濯機の手洗いモードで。

乾燥機は絶対NGで、伸びてしまうのを避けるためハンガーにはかけず、平置き陰干しが基本です。

もちろん、クリーニングも利用しますが、ドライクリーニングに出すと、においがついたり、少し毛が硬くなる気がして、できるだけ自分で洗うようにしています。

(大草 直子 : ファッションエディター・スタイリスト)