なぜ夫婦は「細かいこと」で大げんかするのか、イライラを解消する「シンプルな理由」
わたしたちはいつまで金銭や時間など限りある「価値」を奪い合うのか。ベストセラー『世界は経営でできている』では、気鋭の経営学者が人生にころがる「経営の失敗」をユーモラスに語ります。
※本記事は岩尾俊兵『世界は経営でできている』から抜粋・編集したものです。
「なんで洗濯機の上に麦茶を放置しただけで、妻と大喧嘩しないといけないんだ?」
「うちの会社の上司は、無駄な会議ばかり押し付けてきて仕事をさせてくれない!」
「今週は毎日お酒を飲んでしまった。また健康診断の数値が悪くなりそうだな……」
時にそんな思いに駆られてイライラするのは、私だけではないでしょう。
日常生活や仕事など様々な局面で発生するイライラを、経営学によってなんとか解消できないだろうか? いや、ひょっとしたらすべて「経営の失敗」なのではないか?
そんな思いに駆られて執筆したのが、『世界は経営でできている』です。
本書は経営学の知見に基づいたエッセイの形式をとりながら、世の中のあらゆる事象を経営という観点でとらえ直すことで、「価値創造」――すなわち他者と自分を同時に幸せにする方向へと導くためのヒントが凝縮されています。
私が主張したかったのは次の三点です。
1. 本当は誰もが人生を経営しているのにそれに気づく人は少ない。
2. 謝った経営概念によって人生に不条理と不合理がもたらされ続けている。
3. 誰もが本来の経営概念に立ち返らないと個人も社会も豊かになれない。
いきなりこのように書かれても、今は何のことかわからないかもしれません。
ただ断言できますが、本書を読んだ人は、「日常生活や仕事、家庭、学校などでのイライラが大幅に減る」という大きなメリットを享受できるのです!
私はかねてから、「すべての人が少なくとも“自分株式会社”を運営する経営人材になるべきである」と考えてきました。
ここでいう経営人材とは「価値創造できる人」であり、「他者と自分を同時に幸せにできる人」です。
日本と米国、経営者と従業員、成長と分配、右翼と左翼、男性と女性、若者と高齢者……等々、主義主張や立場の違いを超えてすべての人が「他者と自分を同時に幸せにできる」という方途を探っていけるようになれば、世の中はもっともっと豊かになることは間違いありません。
『世界は経営でできている』では、家庭・恋愛・勉強・就活・仕事・健康・老後など15のテーマを取り上げて、本来の経営概念に立ち返ることで、人生においてどのような問題解決が可能か探っています。
家庭を経営の場と考えれば夫婦喧嘩を激減できる!
まずは最も身近な「家庭」を経営概念によってとらえ直すことで、夫婦間の揉め事によるイライラの解消を試みてみましょう。
夫が中身をちょっと残したコップをところかまわず置いておくことにイライラしている妻がいます。一方で夫は、すぐ片付けるつもりだったコップの存在になぜ妻がイライラしているのかがわかりません。
この「ちょい残しコップ散乱問題」を、妻と夫それぞれの要求から読み解くとこうなります。
・妻の要求:片付け対象が放置されていると気が休まらないから、常に整理整頓された状態を保ちたい(=整理整頓する)
・夫の要求:常に家の整理整頓に気を配っていたら気が休まらないから、何も考えずに過ごしたい(=整理整頓しない)
こうして並べると、「整理整頓する/しない」という、一見、両立が難しそうな要求が存在していることがわかります。
しかし妻と夫の両者とも「家では気を休めたい」という目的では共通しているのです。
「他者と自分を同時に幸せにする」という価値創造のマインドから、この問題をどのように解決すればいいでしょうか?
ポイントは、「家では気を休めたい」という両者共通の目的に対してフォーカスして「きっと価値創造によって問題は解決できる」と考えることです。
妻が気を休めるためには「物が散らからない」ことが大事。
夫が気を休めるには「余計なことを考えずに過ごす」ことが大事。
ならば、「余計なことを考えなくても物が散らからない」という状態を作り出せば、両者の目的を同時に達成できそうですね。
例えば、私が実践した例ですが、夫は家ではマイ水筒やマイボトルを首からぶら下げてすごし、それだけを使うようにすればどうでしょうか。かなり間抜けな格好にはなりますが、余計なことを考えなくても物が散らかることはなくなります。
もう少しお金に余裕があれば、週末は家事代行サービスを外注するという選択肢もあるでしょう。
妻と夫の両立しないような要求も、家庭を経営の場と考え、価値創造のマインドに立脚すれば、どこかに問題解決の糸口が見つかるのです。しかもこれは「妥協の産物ではない本質的な問題解決」です。普通は、妥協して家庭において力の弱い方が何かを我慢しますね。それに対して、価値創造のマインドを持てばみんなが幸せになる道が見つかるのです。
もう少し掘り下げて考えると、「ちょい残しコップ散乱問題」に表れた夫の失態は、妻に「母の役割」を求めているために引き起こされます。
男は独立して自分の家庭をもつまでは、母子関係に依存して過ごしてきます。母子関係において、子でいること自体が母への価値提供になっているため、子は小さいうちには家庭内で問題解決するインセンティブを持つ必要がありません。
しかし結婚して、妻と同等のパートナー関係になればそうはいきません。夫の存在そのものは妻への価値提供になりませんから、家庭内でも問題解決する努力が必要なのです。
問題解決への努力があってはじめて顧客満足、つまり妻との良好な関係が保たれる。このように心すべきでしょう(もちろん夫と妻が逆になっても同様です)。
これが、本来の経営概念によって個人と社会(家庭)を豊かにすることであり、経営によって日常生活のイライラを減らすことができると述べた意味なのです。
何よりも私自身が、こうした経営の考え方をもとに家庭内の問題に対処するようにした結果、夫婦喧嘩が激減しました。だからその効果は誰よりも実感しているつもりです。
つづく「老後の人生を「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い」では、なぜ定年後の人生で「大きな差」が出てしまうのか、なぜ老後の人生を幸せに過ごすには「経営思考」が必要なのか、深く掘り下げる。