ファンタジー小説の原点の魅力とは 原作者・滝沢馬琴の実像とは 答えは「八犬伝」に
浜辺美波演じるヒロインの部屋には約100巻の「南総里見八犬伝」が山積みされ、彼女はことあるごとに「馬琴先生!」と原作者への敬意を口にした。
昨年のNHKテレビ小説「らんまん」の印象的なシーンである。主人公(神木隆之介)との出会いが明治14年のことなので、滝沢馬琴がこの作品を完結させてから40年近くたっている。
わが身を振り返っても、中学生時代に同局の人形劇「新八犬伝」に魅入られ、駆け出し記者の頃には薬師丸ひろ子と真田広之が共演した「里見八犬伝」の撮影現場を喜々と取材した。
主家にかけられた呪いをとくために、きらめく珠を持つ8人の剣士が過酷な旅に出る壮大な物語は、文字通り時代を超えたエンタメ性を秘めている。
25日公開の「八犬伝」は、山田風太郎版を原作に作者馬琴の実生活と彼が構想する作品世界を行きつ戻りつする。
実生活パートでは馬琴役の役所広司と盟友、葛飾北斎役の内野聖陽がまるで舞台劇のような濃密なやりとりを繰り広げる。
対照的に作品パートでは、里見家の伏姫役の土屋太鳳と闇をつかさどる珠梓役の栗山千明を軸に、剣士たちは渡辺圭祐らフレッシュな顔ぶれをそろえている。
「ピンポン」(02年)や「鋼の錬金術師」(17年)など、メリハリの効いた演出が印象的な曽利文彦監督は、今回も実生活パートの濃いドラマと、最新のVFXを駆使した作品パートのコントラストを際立たせている。
実生活パートでは、馬琴や北斎に加え、渡辺崋山(大貫勇輔)や鶴屋南北(立川談春)も絡み、「著名人」同士の関わりが興味深い。視力を失った馬琴が長男の嫁(黒木華)の力を借りて八犬伝を完成させるエピソードは、抑えた演出がジワッと染みた。
両パートには寺島しのぶを始め、河合優美、磯村勇斗と世代を超えた実力者が配され、歌舞伎の尾上右近、中村獅童が絶妙なアクセントとなって、キャストが厚い。2時間29分はちょっと長いが、密度は濃い。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)