本気を出したら一斗缶を貫通!?ヤマアラシの針のような毛は生まれた頃から鋭いのか?東武動物公園に生態を聞いた

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“ヤマアラシのジレンマ”という言葉を知っているだろうか?

人間関係などにおいて、仲良くなろうと心の距離を近づけるほど、お互いを傷つけ合うのを恐れ、一定の距離以上は近付くことができないという心理を指した表現だ。

この比喩に出てくるヤマアラシとは、鋭い針状の毛が特徴の動物。近づくのが難しいほどトゲトゲした姿で、たしかに体を寄せ合うと互いを傷つけてしまいそうだ。

動物園で見かけたことがある人もいるだろうが、“ヤマアラシのジレンマ”の通り、仲間同士で傷ついたりはしないのだろうか?そもそも、毛は生まれた頃から鋭いのだろうか?

埼玉・宮代町にある「東武動物公園」では、現在9頭の「アフリカタテガミヤマアラシ」を飼育している。そこで飼育員・谷仲由妃さんに、気になる“毛”を中心に生態を聞いてみた。

毛を逆立て、後ろ向きで体当たり!

アフリカタテガミヤマアラシは、「ネズミ目ヤマアラシ科」のげっ歯類で、アフリカ中部〜北部(砂漠地帯を除く)に、6〜8頭ほどの家族単位の群れで生息する。

ネズミ目という分類の通り、ネズミと同じく生涯、歯が伸び続けるそう。完全な草食性でとても発達した盲腸を持ち、前足は餌など、物を上手に持つことができるという。

特徴でもある鋭い毛は、外敵から襲われたときや驚いたとき、身を守るためにある。

谷仲さんによると、「毛(針)を逆立てた時、針同士は重なり合わず、敵に対してかなり攻撃的に体当たりをします」とのことで、体当たりでは「毛を広げ、敵に後ろ向きに走っていく」という。

ただ、東武動物公園のヤマアラシたちは攻撃性が無く「ビビりでおとなしい」そうだ。寒い時期になると、群れでぴったりと身を寄せ合い、暖をとっているという。

くっついても大丈夫なの?と思うが、実際のところ「ほとんどないですが、まれに意図せず、怪我をしてしまう可能性はあります」と谷仲さん。

仲間同士で傷つくこともあるというのは、本当のようだ。

そんな自分の身を守るためにある“鋭い毛”だが、実は生まれた時は短くてやわらかい。そして、生まれて数時間後には硬くなり、成長と共に徐々に伸びていくという。

「人間の髪の毛と同様のニュアンスで考えていただければと思います。体格に合わせて伸び、古い毛から抜け、新しい毛と生え変わります」

そのため若いヤマアラシは毛艶がよく、老齢になると毛が薄くなったりもするという。

尾周辺の毛は「一斗缶が貫通する」

また、体にはたくさんの鋭い毛を持っているが、全てが危険なわけではない。

「刺さるのは尾の周辺の太く短い 毛(針) で、背中中央辺りの長い毛はそこまで硬くはなく刺さることはありません。また、お腹の毛もやわらかく、刺さることはないです」

では、どれくらいの硬さがあるのか?

谷仲さんによると、顔周辺から上半身は高級タワシくらいで、背中周辺はプラスチックのストローくらい。尾周辺は小枝くらいの硬さで「先が鋭く尖っているので、本気を出したら一斗缶が貫通します」とのことだった。

谷仲さんは過去に、その針が刺さった経験があるという。

「治療や移動のため、ちょっと無理やり動いてもらった時に怒られて、長靴に針が刺さったことがありますが、アッサリ貫通して脛(すね)にちょっと刺さりました」

刺さり方のイメージは、「割り箸と一緒に入っているつまようじに気づかず、うっかり指に刺してしまったのと同じ感じ」だったとのこと。

ヤマアラシから刺してくることはまずないが、安全のため、基本的に飼育員はヤマアラシと同じ空間に入る時は「熊手」などの身を守る道具を持って入る。

しかし、このときの谷仲さんは油断して持っていなかったため刺さってしまったとのことで、「私の自業自得です」と話していた。

身を守るために鋭い毛を持つ、アフリカタテガミヤマアラシ。その毛は体の部位ごとに太さや長さが違っていたり、体格や年齢ごとにツヤや薄さも異なるそうだ。動物園で見かけた時はよく観察してみると面白いのではないだろうか。