「コンビニでお弁当を買って車内で食べました」というポストに批判が殺到した平沢勝栄氏。政治家にSNSでは、もはや「食」の投稿はすべきではないのかもしれません(撮影:尾形文繁)

衆院選の選挙活動がピークを迎えるなか、候補者の「食事」がSNSで話題になっている。なかには、ここぞとばかりに、バッシング材料にするネットユーザーも。イメージ商売である政治家にとっては、看過できない状態になりつつある。

選挙においてのSNSは、あくまで「空中戦」であり、街頭演説などよりも重要度は低く設定される傾向にある。しかし、誰でも実物の政治家と出会えるわけではなく、ネットでの失点は命取りになりかねない側面も持つ。

ネットニュース記者・編集者として、長年「炎上」をウォッチしてきた筆者の視点から、なぜ政治家の食事は炎上しやすいのかを考えてみよう。

平沢勝栄氏がランチ風景を投稿して批判殺到

今回の衆院選をめぐっては、東京17区から出馬している平沢勝栄元復興大臣の投稿が話題になっている。とある日に、Xで「1人でも多くの方にお会いしたく、時短のためにコンビニでお弁当を買って車内で食べました」とポストしたところ、批判の的になったのだ。

【画像4枚】「コンビニ弁当は高すぎる」「庶民アピールはどうなのか」…。ランチ風景を投稿して批判殺到した、平沢勝栄氏のポストを見る

平沢氏は、自民党のベテラン議員であるが、政治資金不記載問題をめぐり、今回は無所属での挑戦となった。逆風の中での選挙戦とあって、SNS上では苦言を呈するユーザーも多々いるが、その中で目をひくのが、この投稿へのバッシングだ。

なかでも多い反応は「コンビニ弁当は高すぎて買えない」「庶民アピールはどうなのか」といったもの。「わずか数百円でたたかれるとは」と擁護する声もあるが、自民系議員への風当たりの強さもあって、批判のほうが目立っている状態だ。


「時短のため」コンビニでお弁当を購入。しかし、「庶民にはコンビニ弁当は高い」などの声が寄せられた(画像:平沢勝栄Xより)

こうした「政治家の食事への批判」は、与党議員に限らない。野党第1党・立憲民主党の元代表である、枝野幸男元官房長官(埼玉5区)のXポストも物議を醸している。ある朝、「最近は物価高の影響で、ファミレスの朝定食から牛丼チェーンの朝定食にシフトした」として、「М屋の玉子かけ朝食」を写真付きで投稿した。

その後も、本人やスタッフから「今朝は少し贅沢 S家にて」「昨朝はY家で牛丼を頂きました」とポストされた。イニシャルで紹介されているが、写真の内装を見ると、松屋、すき家、吉野家であることは間違いない。


物価高の影響で、ファミレスの朝定食から牛丼チェーンの朝定食にシフト」と投稿した枝野幸男氏。一般的に政治家は高収入とされるため、疑問の声を多く集めた(画像:枝野幸男Xより)

いずれの投稿にも、平沢氏に対してと同様に、批判のリプライが多数寄せられている。また先日は、れいわ新選組の山本太郎代表(参院議員)が、新幹線車内と思われる場所で「うなぎ弁当」を食べている画像も拡散され、話題になった。

「公僕は清貧であるべきだ」といった価値観

もっとも、政治家の食事が炎上するのは、今に始まった話ではない。

例えば、民主党政権時代の2012年10月、安倍晋三氏が新たな自民党総裁に就任した。その総裁選当日に、安倍陣営がゲン担ぎとして食べたカツカレーが話題となった。メディア各社は「3500円のカツカレー」と報じ、ワイドショーでは「庶民感覚から外れた高級カレー」との批判も出た。

当時の自民党は野党だったが、次期総選挙での政権復帰が予想されていた。どちらかと言えば、自民に歓迎ムードが出ている時期でも、それなりのバッシングが起きた。安倍氏はその数カ月後、首相へ返り咲いて、長期政権を樹立する。なお、この総裁選で次点だったのが、先日就任した石破茂首相だ。

安倍氏の後任である菅義偉氏も、「ニューオータニのパンケーキ」がやり玉に挙げられた。官房長官時代からパンケーキ好きで知られ、首相就任後にも注目を集めたが、1食2800円(税別、別途サービス料)とあって、政権批判の文脈に用いられた。


パンケーキ好きで知られ、首相就任後にも注目を集めた菅義偉氏。1食2800円(税別、別途サービス料)という価格が物議を醸したが、「息抜きを制限するのはどうなのか」と擁護する声も多かった(撮影:尾形文繁)

ここまで見てきたように、政治家の食事は、批判の的になりがちだ。その背景には、有権者の中で「国会議員は特権階級である」、もしくは「公僕は清貧であるべきだ」といった価値観が根強いことが考えられる。

政治には常にダーティーなイメージが付きまとう。最近では、旧統一教会問題や政治資金不記載問題などで、有権者の1票が「より強い何か」で覆されるのではといった懸念が強まっている。

振り返れば1990年代初頭の政治改革も、リクルート事件や東京佐川急便事件といった政治家の汚職が背景にあった。それでもなお変化せず、甘い蜜をすすっている印象が、国民の多くにあるのは間違いない。

議員報酬の使途まで制限すべきか

そうした背景からすると、政治家に向けられる鋭い視線は、「身から出たサビ」だと言える。とはいえ、議員も人間だ。ちょっとした食事でモチベーションを高めることもあるだろう。完全擁護とは言わないが、少したたきすぎのようにも思えてしまう。

当然ながら、調査研究広報滞在費(旧文通費)や政策活動費を、政治に直結しない目的に使用するのであれば、批判の的になっても当然だ。しかし、給料であるところの議員報酬は、労働や拘束時間への対価であり、その使途まで制限すべきなのだろうか。

たしかに国会議員は高給取りだ。2024年7月に衆議院・参議院から公開されたデータによると、国会議員の平均所得(2023年)は2530万円だった。人によっては、不動産や企業経営などにより、それ以上の収入を得ているケースも珍しくない。

しかし、もし大金を持っているのなら、蓄財するのではなく、むしろ豪快に使ってもらったほうがいいのではとの見方もできる。もちろん適法の範囲内で、汚職につながらない用途が求められるが、消費者のひとりとして経済を回すことは好都合なのではないか。

問題は「なぜ、それをSNSに投稿するか?」のほうだ

とは言っても、その使途を「わざわざSNS投稿する必要があるか」は、一考の余地がある。イメージ戦略において、プラスになるのか、逆効果なのかを見極めないと、政治生命に直結してしまう。

物価高や値上げの昨今だ。少なくない人にとって、コンビニ弁当はもはや安いものとは言えなくなりつつある。無関係な人がいない「食」に関する投稿は、本人の意図があろうがなかろうが、「庶民派アピールってこと?」「いやいや、本当に貧しい人たちはコンビニ弁当なんか買えないんだよ!」と受け止められる可能性がある。

それを考えると、もはや食についてSNSで投稿するのは、今の時代は控えたほうがいいのかもしれない。


サウナ好きとして知られる平沢氏。この投稿は炎上しておらず、「食の風景」ではなく「好きなもの」について投稿するのが、安全な時代なのかもしれない(画像:平沢勝栄Xより)

また、投稿が逆効果になりうるのは、食事にとどまらない。たとえば「なんとか財団に寄付しました」と、理事長と握手する写真を上げれば、おそらく「善意を政治利用している」と猛攻撃されるだろう。自らはアピールせず、人づてに「寄付したらしいよ」と広がるくらいが、適度なさじ加減なのだ。

冒頭紹介したSNS投稿へ戻ると、平沢氏に対するバッシングは、筆者の個人的な感覚ではあるものの、「ちょっと過剰反応なのでは?」と感じる。あくまで「時短」を理由にしており、価格について言及も示唆もしていないからだ。「忙しいアピール」に対する嫌悪感ならまだしも、「庶民アピール」とは感じにくい。

一方、これと対照的なのが、物価高に触れた枝野氏の投稿だ。ファミレスと牛丼チェーンを価格で比較することで、どこか「生活水準の差」が印象づけられる。

どちらの業態も、そこで働く人がいる。平均客単価は違えども、一般客は「いま何が食べたいか」で使い分けるのではないか。おそらく政権批判につなげようとしたのだろうが、「あえてこの投稿を行う必要があったか」は、一考の余地があっただろう。

SNSでは「政治家の揚げ足を取ろう」と、アンチが躍起になっている。「○○できない人の気持ちも考えて」とツッコミの余地を与えれば、すぐ炎上となる。

SNS巧者なら「食の投稿」でも支持につなげられる

もちろん食事をめぐる投稿で、親近感がわくSNS投稿も存在する。それこそ枝野氏も、全国行脚でめぐった各地のラーメンをSNSで紹介して、注目を集めたことがあった。

前兵庫県明石市長の泉房穂氏は、市役所食堂の「きつねうどん」を連日ポストして、全国的な知名度を高めた。いまに至るインフルエンサーになった要因の一つと言える。職員や市民との近さを感じさせたうえに、政治家のSNS投稿によくある「選挙が近いから投稿したのね」との感想を抱かせなかったのがプラスに働いたのだろう。

有権者は、政治家の「こび」に、極めて敏感になっている。その背後には、一方通行で主張する演説よりも、双方向でコミュニケーションを取れるSNSでの「対話」に、人々が重きを置いている現実を否定できない。筆者のようにネットを愛するものとしても、ぜひ1人でも多くの政治家に「日頃からの飾らないSNS発信」をお願いしたいものだ。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)